ネットプロテクションズが挑む 会社とメンバーの対等なパートナーシップ

社員のモチベーションを維持するための人事制度や、組織拡大に伴い生じる人事的課題に頭を悩ませる企業も多いだろう。今回はマネージャー職を廃止した人事評価制度「Natura」をはじめ、ユニークな制度を数々打ち出してきた秋山氏を迎え、課題解決への取り組みやそのアプローチなどについて伺った。
※本企画は、2019年5月17日に行われたカオナビのWA ユーザーミーティングにおける対談を要約したものです。

Profile

秋山 瞬

株式会社ネットプロテクションズ
執行役員

2005年、設立2年目の人材系スタートアップ企業に新卒1期生として入社。2年目で関西支社の設立を担当するも、リーマンショックによりほぼ会社が解散。2009年に株式会社ネットプロテクションズへ人事として入社。「NP後払い」決済事業のセールスマネージャーを兼務しながら、様々な人事課題に取り組む。2017年に執行役員に就任し、事業アライアンスを行うBizDevグループを設立。

佐藤 寛之

株式会社カオナビ
取締副社長 COO

2003年、株式会社リンクアンドモチベーションに入社、大手企業向け組織変革コンサルティング部門にて営業を担当し組織変革プロジェクトや人材育成プログラムなどをセールスする一方、営業GMとして部下育成・組織構築に携わる。2008年、シンプレクス株式会社に人材開発グループ責任者として入社したのち、2011年に株式会社カオナビの取締役に就任。

お互い高めあい、幸福を実現する人事評価制度「Natura」

佐藤:実は僕、会社間以上に秋山さん個人とのお付き合いのほうが長く、かれこれ9~10年になりますかね。その間に、あれよあれよと有名になられて。そんな秋山さんに、今日はネットプロテクションズの人事の取り組みを聞いていきたいと思います。

秋山:秋山と申します。私はスタートアップ企業に新卒一期生で入社して4年務め、現社に人事として入社し、途中でセールスマネージャーも兼務しながら今に至ります。前社ではリーマンショックをはさみながら4人→60人→10人(激増激減)を経験し、現社では40→150(人規模)を経ているので、トータルすると1〜150人規模の組織づくりに携わりました。

佐藤:セールスもやってらしたということですが、御社の主力事業は「NP後払い」という非常に有名な決済システムですよね。きっとみなさん、気づかずに使っていると思います。

秋山:「NP後払い」はEコマースの後払い決済システムで、商品が届いた後で料金を支払ってくださいという、性善説に基づいたビジネスです。大手衣料品メーカー様などにもご導入いただいていますが、いわゆるコンビニでの後払い決済代行サービスですね。現在、日本人の10人に1人に使っていただいています。
BtoBや実店舗、台湾でも展開している後払い決済の総合プロバイダーですが、事業のキモは2億件溜まっている「ビッグデータ」。誰がどこで何を買い、どこでいつ払ったか(または払ってないのか)という最終的なデータを持っているのが強みで、今後もこのデータによって創出される信用情報、我々はクレジットテックと呼んでいますが、その領域のビジネスを展開していきたいです。

佐藤:さっそくですが、新しい人事評価制度として話題となった「Natura」についてご説明いただけますか?

秋山:「Natura」は組織的課題への取り組みとして昨年4月に導入しました。若手社員が急速に増加するなどして組織が拡大したことで、ミドルマネジメント層の負荷が大きくなっていたんですね。
組織が目指すものに「成果」、「成長」、「幸福」を掲げているんですが、幸福を実現するときにメンバーがお互い奪い合ったり競争するのではなく、高め合う風土をつくっていきたいと考えました。もうひとつは先ほど言及した通りミドルマネジメント層に負荷が偏っていたので、それをどう軽減分散するか。それらを突き詰めていったら、3つのすべきことが出てきたんです。

1つめは「役割のフラット化」。
階層構造になっていた組織からマネージャー職を撤廃しました。最近だとティール組織と言われていますね。マネージャーという役職を撤廃し、流動的に変動するカタリスト(触媒)という役割を設置したんです。

2つめは「評価目的の変更」。
評価の趣旨を「報酬の適正配分」、いわゆる報酬をいかに多くもらえるかではなく、「成長支援」へとシフトさせたんです。

そして3つめは、「フェアな報酬ポリシーの設定」。
本当は「報酬を自己決定する」というところまで行きたかったのですが、さすがにいきなりは難しいので、全員で360度評価をし、全バンド(給与レンジ)をオープンにすることを狙いました。

全社員に「評価者目線」が身につくことで、互いに成長を促せる

佐藤:かなり大掛かりな改革ですが、それぞれ何をどのように進めていったのか教えてください。

秋山:まずはカタリストという役割の設置について。マネージャーが有していると考えられていた責任・権限をいったん洗い出してみて、本当に有すべきもの以外は全メンバーに権限は分散させるべきと考えました。情報もすべてオープンにすることで権限の集中をしないようにと思いましたが、一方で全員公開が望ましくない情報というのももちろんあります。それは家庭の事情など人の機微な情報に関するものだったので、それを司る役割としてカタリストを設置しました。つまり、情報の采配を最上位のバンドメンバーのみに限定・固定化しないというのが私達の制度なんです。
ただ、これはどこの会社もうまくいくものではないと思います。弊社は「そもそもなんだろう?」と本質について考えるメンバーが多い社風なので回ったのかな、と。

佐藤:当たり前と思えることを懐疑的に見られる社員が多いということですよね。

秋山:あえて、そういう人物を積極的に採用しているというのはありますね。
次に成長支援へのシフトについてご説明します。これについては、「ディベロップメント・サポート面談」という仕組みを設定しました。3ヶ月目と6ヶ月目はカタリストもしくはカタリストから権限移譲されたもの、1、2、4、5ヶ月目は人を変えて1on1での面談を実施しています。
弊社は複数部署やプロジェクトを兼務する社内パラレルワーカーがたくさんいるので、誰か一人が特定の人を見るのが難しいんですね。それなら複数人で見れば良いということで、面談者を毎月変えていく仕組みにしました。複数の面談者がいるというのはあくまで「成長支援」という形にしたかったからです。面談者が複数いて、それぞれ担当業務なども違えば、評価に対するベクトルが違っても互いの成長に関しては多様な観点があって良いということになります。また、職務に関係なくライフサポートする仕組みも整えました。
最後は報酬ポリシーについてですね。
まず、バンドは全5段階とし、職務的な階級を完全になくしたわけではないですが、かなり少ない設定にしています。上位バンド者との面談を通じ、コンピテンシー発揮やリレーションシップ、姿勢、成果に対してのアドバイスやフィードバックによって行動変化すれば、それが360度評価に繋がりコンピテンシー評価されます。コンピテンシーはマインド・基礎スキル・複合スキル・専門スキルの4つの段階に分けており、いちばん重要な複合スキルではバンドで示す5段階に合わせて細かく設定していますね。それから面談を通じて蓄積したログは活動内容や業績成果と結びつけ、個人賞与係数として業績評価しています。
これら3つの仕組みによって全社員に評価者目線が身につきます。自分も見る立場に立つことで「なんでこの人がバンド3なのか」を説明できるんですね。評価者であり被評価者である関係を早くから作ることで、みんながマネージャーの意識を持てるのではないかと思います。

多様性を極限まで広げるための、性善説の人事制度

佐藤:多くの組織問題はミドルマネジメントに集中しやすいものですが、周りに分散したというのがおもしろいなと思いました。導入当初、社内でどんな議論が出てきましたか?

秋山:マネージャーを廃止すると言うと、みな最初はポカンとしていましたね(笑)。でも、「全員がマネージャーになろう」という形にしたら、すんなり納得してもらえたんです。

佐藤:「Natura」という名前は優しいけれど、激しいことをやっていますよね。この制度のポイントは、社員一人ひとりが自立している文化でないと難しいという点です。しかも新卒が多い会社なのに……。

秋山:新卒採用にはこだわっていて、そういうポイントや本質とは何かを常に考えている人を採るようにしています。“つぎのアタリマエをつくる”というミッションもそうですが、事業だけではなく組織に関してもそうありたいよねというのが私たち人事のミッションです。

佐藤:「Natura」をリリースする以前から、そのようなポイントで採用していたということですね。

秋山:おっしゃる通りです。土台を整えてきた価値観があり、歴史があり、今に行き着いたということなんです。

佐藤:ハンドアウトを他社の人事の方に出しても問題ないというのは、単に表面だけ真似してもうまくいかないというのがわかっているからだと思いますね。

秋山:一般的な会社は事業のための組織を作っているところが多いでしょうが、我々は会社も人もみんなフラットで、互いを尊重・支援しながら高い成果を出していきたいんです。NP後払いも「いったんあなたを信用します」というビジネスモデルですが、人事についても新卒だろうがなんだろうが一度信頼し、なにか起きたら対応しようといった性善説で考えています。つまり、性善説でありながらも多様性を限界までに広げていきたいんです。
弊社には「Natura」以外にも特徴的な制度があり、配属や異動の理由などの情報共有は全社開示で全体最適を目指しているんです。カオナビを使ってビジョンシートを作り、プロジェクトへの参加や希望、その理由、そして個々人のビジョンなどを全員に書いてもらっているんです。この仕組みもブラックボックスになっていると特定の人が「まずい、書きにくい!」という状況に陥りますが、フルオープンなので問題は起きないですね。

佐藤:でも、ビジョンがない人には辛い制度ですよね?

秋山:かっちりとした目標でなくてもいいんです。ビジョンがフワっとしている人、探しているという人もいますが、考え続ける・求め続けるという姿勢を大切にしていますから。

佐藤:そのあたりをエントリーマネージメントしているんですね。

秋山:そのとおりです。それから、Googleの20%ルールに似ていますが、メイン業務とは別に自身のリソースの2割を会社づくりに関わろうというワーキンググループ制度も取り入れています。

ソフトから着手し、ハードに着地するのが改革成功のキモ

佐藤:お話を聞いていると、事業の数字やIRやインサイダーに関わらない情報に関してはかなりオープンですよね?

秋山:いや、そこもオープンにしているんです、社員には。でも同時に、インサイダーに関わるよという教育をしている。

佐藤:カオナビも上場し、インサイダーという問題が出てきましたが悩みどころの一つです。

秋山:利他的で本質を追求したいという社員を募集しているのが大きいでしょうね。競争心や承認欲求が強すぎず、一度肚落ちしたら突っ走れるという。

佐藤:確かに、面白いメンバーがたくさんいらっしゃいますよね。

秋山:外的動機がモチベーションにならないメンバーばかりですね(笑)。「そもそも」という人が多いので「そもる」が社内用語になっているほど、本質を追求することは当たり前。
肚落ちしたら簡単だけど、肚落ちするまでが大変という社風です。だから人事としては、いかに肚落ちさせるかを狙っています。
そういう人を好んで採用していたし、その人達が力を発揮できる制度を考えたら今のようになったというのが実情です。正社員は企画とマネジメントに特化し、オペレーションは外部委託しています。

佐藤:ここまでドラスティックにやっている会社は少ないと思いますね。僕自身、一人あたりの生産性を上げ、非連続の成長をしていくには「そもそも」を考えていては進まないと思っていたんですが、実は「そもそも」について考えないと、ここまでの改革はできない。
秋山さん、パット見はツルンとして苦労がない人に見えるけれども違うんですよねぇ(笑)。

秋山:弊社の組織成長について考えると、「創業期」「拡張期」「変革期」「飛躍期」の4つの段階があったと思うんです。
大前提として、最初からいい会社ではないんですよね。現在の代表も創業社長ではなく、買収したVCから出向転籍してきたのですが、彼が事業・組織を作っていました。ただ出向という立場上、元からいた社員とは対立し、四面楚歌の中やってきたので、創業期では弊社は完全にトップダウンでした。しかも思い切り赤字。当時はその時必要なスキルを穴埋めするイメージでしか採用できず、離職率も高かったです。
次は拡張期。ようやく主事業が黒字になり、事業を多角化することにしました。新卒は早い段階から採っていたものの、ビジョンが強固ではなかったので長く在籍する人が少なかった。
その後、全社員でビジョンをつくるというプロジェクトを行い変革期に移るのですが、あとから振り返ってもここがターニングポイントでしたね。
当時いた50名のメンバーを8つのチームに分け、各人が社長となったつもりでビジョンを再構築するPJを約1年かけて実施しましたが、まあうまくいかず、結果的に多くのメンバーが辞めることとなりましたが、逆に残ったメンバーはそのビジョンにコミットでき、会社としての1つの軸ができました。
その後、現在までの飛躍期にできたのが、前述の「Natura」です。理念を軸に採用・育成・評価と一貫性を持った仕組みができ、離職率が格段に減ると共に、事業成長スピードも加速しました。

軸となるミッションを作ったことで、社内風土がそこから出来上がり、最後に仕組みをつくって後押しすることができましたね。これはソフトからハードという順番でやるというのがキモだと思っています。

佐藤:まずはその問題の現状や根源を見直してから改革を実行し、ようやく新たな枠組みが定着するという変化がネットプロテクションズさんの場合は大きく起こったわけですね。

秋山:軸となるミッションを作ったことで、社内風土がそこから出来上がってきましたね。これはソフトからハードという順番でやるというのがキモです。

佐藤:当社もその順番を間違っているところがありまして(笑)。笑っている場合ではないですが、他社が成功した人事制度をそのまま導入すればいいというものではない。

秋山:弊社の場合も、それを目指して作った訳ではないのに、結果的につくった制度がティール組織に似ていたという感じですね。

佐藤:amazonが社員満足度を調査したら、夜中まで働かせていたときに一番満足度が高かったという話がよく出てきますが、人事は社員の期待値をきちんと調べることが大切だと思いますね。

秋山:幸福度を高める方法やアプローチ、従業員の会社への期待というのは、それぞれの事業やフェーズによって全く違いますからね。課題解決をはかりたい組織は、まず現状をつぶさに見直し、ミッションや企業文化に合わせた人を採用したり育てることでソフト面を醸成する。その後にどんな枠組みを導入・実行したらいいかを考えるといった順序で人事課題に取り組んでいくのが良いと思います。

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