社員の成長を促す評価制度の設計・目的・フィードバック方法とは?|ヨコガオアンサー

人事担当者であれば気になるテーマに対し、多様な回答を伝える特集が、この「ヨコガオアンサー」。過去、人事のヨコガオにご登場いただいた方々に、共通の質問を投げかけ、回答してしてもらいます。今回のテーマは「評価制度」について。昔は昇格や給与を決める目的が大きかった人事評価ですが、最近では社員の成長につなげることを目的とする企業も増えているようです。そんな評価制度について、長谷川 春菜さん片桐 哲さん北田 かおりさんに話を聞きました。

※この記事は、人事に役立つ記事やニュースを提供するWebマガジン「HRzine」との合同企画「現役人事に聞く!」の内容を、転載したものです。

Q1 現在採用している評価制度を教えてください。

長谷川
さん

個々人が決めた目標への達成度合いを評価する「MBO」と、ふだんの取り組みやプロセスを評価する「コンピテンシー評価」の2つを組み合わせて、1年に1度実施しています。

片桐さん

MBO」と「360度評価」を組み合わせて運用しています。評価でメインとなっているのは、MBOです。360度評価は個人の成長など、MBOだけではカバーできない従業員の頑張りを報酬の決定に活かすために導入しています。

北田さん

ベースとなるのは「MBO」です。ただ、最終的な給与・等級などを決めるときには、自社の価値観をもとにしたバリュー評価も組み合わせています。

Q2 どのような目的で評価制度を運用していますか?

長谷川
さん

1番は、社員が納得して業務に取り組むためです。目標が定まらないまま仕事をすると、「いま取り組んでいることは、この先自分の何につながるのだろう?」と、先行きが不透明な道を進むことになってしまいます。
自ら目標を掲げ、それをしっかりと上長と共有することで、社員が1つひとつの仕事に納得したうえで取り組めるようになると思います。それは、目の前の仕事に対して前のめりに関わることにもつながると考えているのです。
また、たとえ成果が上がっていないからといって、その人の評価を一律に「0点」にするのかというと、そうではありません。会社のミッションである「人間関係をシンカさせる」にその人の行動・姿勢が沿っているのであれば、その点をコンピテンシー評価できちんと評価します。逆に成果が高くても、ミッションに反した行動が多ければ、コンピテンシー評価では厳しい値となるでしょう。
MBOだけでなくコンピテンシー評価があることで、最終評価において「こんなふうに行動してくれていたことをちゃんと見ていたよ」「こんなに成果が上がったんだね」と認められます。それが、翌年がんばるためのモチベーションになると思っています。
もちろん、評価は最終的に報酬決定へとつながります。ですが、評価制度は単なる処遇決定にとどまらず、そもそも社員が納得して業務に取り組むためにあるものだと私は考えています。

片桐さん

インターステラテクノロジズでは、直近1~2年で急速にメンバーが増えているのですが、私が入社する前は人事専任者が不在だったこともあり、代表や管理部長などが掛け持ちで評価を担当していた状況でした。
そこで、事業成長のために、まず大切なのは社内の人材が成長していくことであり、人材育成を加速させるためには人事評価を進化させなければならないという目的のもと、評価制度の見直しに取り組みました。
見直しにあたってまずは、現状の評価について社員からの意見を取り入れるために、全社単位でアンケート調査を実施しました。その結果浮かび上がってきた評価の課題が、「評価の判断軸が不透明」「評価期間が事業スピードに合っていない」などです。

(出典)片桐哲『100人を超えたロケットベンチャーの人事制度改定の記録

片桐さん

こうした意見を反映する形で評価制度を見直し、現在では評価軸や目的を明確化したうえで、半期ごとに評価制度を運用しています。
また、MBOではバリューに関する目標・評価項目を取り入れています。その結果、評価のタイミングでバリューを軸に自分を振り返るきっかけとなり、バリュー浸透の目的もあると考えています。

北田さん

大きくは従来の属人的な評価判断ではなく、なぜその評価に至ったのか、きちんと説明責任を果たすためです。
というのも当社では、2021年に社員を対象としたエンゲージメントサーベイを行ったところ、「評価がどう給与に反映されているのか分からない」「給与が上がりにくい」という声が上がりました。そこで、これまで不明瞭だった評価を明確にする目的で評価制度を見直したばかりなのです。
まずは支店長級、課長級といったグレードと、そこにひも付く給与水準が妥当かというのを、他社と比べながら現状把握を行いました。そして、グレードと給与水準を固めた後、社外のコンサルティング会社や社会保険労務士にも依頼し、ディスカッションを繰り返しながら評価基準を明確化。そうやってつくり上げた評価が、給与の増減にどう結び付くかも明らかにしました。
その際、従業員のバリューの定着を図るためにバリュー評価も組み合わせることにしました。ここでいう定着とは、バリューを当たり前に体現できる状態を指します。
当社では経営サイドと従業員、従業員同士の働くうえでの認識のズレをなくしたいと考えています。そのために、スタンス・価値観・取り組み方といった当社のあるべき姿・行動(バリュー)を体現できているかどうかを、バリュー評価として、評価項目に組み入れています。
その他の目的も3つあり、1つ目は基本的なことですが、報酬決定のため。2つ目が上司、メンバーがきちんと対話する時間を設けるため。そして、3つ目が仕事を属人的にせず、目標を考案し、結果を出すために定量・定性で自身の仕事を進化させるためです。

Q3 フィードバックはどのように行っていますか?

長谷川
さん

当社では、最終評価の前後でフィードバックを行っています。最終評価の決定前のフィードバックでは、被評価者と上長それぞれが採点した点数を見比べながら行います。被評価者の自己採点と上長の採点に差異がある場合、理由を詳細に説明するようにしています。評価に納得できないと、次のモチベーションにはつながらないためです。
決定後のフィードバックでは、評価ランクや昇給額といった結果を記載した帳票データを被評価者に見せながら行います。こちらでもランクに変動があった場合は上長から理由を丁寧に説明します。また、このタイミングとほぼ同時に翌年の目標設定も行っています。

片桐さん

MBOでは、結果や評価に使用した材料を、上司から本人に直接共有し、フィードバックしてもらっています。
360度評価では、本人へコメントと点数の開示を行っています。基本的には本人と上司しかコメントを見られないようにしていますが、チーム内でコメントを共有し、成長の材料として活用している例もあります。
また、360度評価の評価者を被評価者が選択できるようにしています。ロケット開発は多くの部署と関わりながら進めていくため、人事が部署単位で評価者を決めるよりも自分自身で日頃から関係性のある人を選べるようにしたいと考え、この仕組みを導入しました。自分で選択するからこそ、評価への納得感も生まれやすいと感じています。

北田さん

当社では、所属部門の上長からメンバーに、1on1で評価フィードバックを行ってもらっています。納得度を高めて、翌期や次のステップに進んでもらうため、「なぜこの評価になっているのか」「どこが評価されていて、どこが評価されていないのか」といった点もセットで会話をしてもらえるように、各上長へ依頼をしています。
メンバーも、「何が自分に求められているのか」「何が足りていて、何が足りないのか」が明確でないと、「自分がどう進めばよいのか」が分からなくなります。より「自分が進みたい道」を明確にするためにも、メンバーへのフィードバックは丁寧に進めてもらえるようにお願いしています。

Q4 効果を高めるために、工夫していることはありますか?

長谷川
さん

当社で何よりも大切にしているのは「納得感」です。納得感を担保して運用するために、月に1度、上長たちに「ショートレビュー」という部下との30分程度の面談を依頼しています。
ここでは、目標に対する進捗の確認や、方向性のすり合わせなどを行います。ショートレビューを行って、評価直前の出来事が大きく評価に影響を及ぼしたり、方向性がずれたまま突き進んでしまったりすることを防いでいます。社員たちの日々の動きや考えを知り、それをきちんと「1年分」として評価できるようにしています。

片桐さん

まず1つは、過去の評価結果も含めてタレントマネジメントシステムに情報を一元化することです。過去の評価もまとめて見られることで、給与の上がり具合も含め、どんなふうにステップアップしているのかを把握できるようにしています。
2つ目は、評価前に念入りにガイダンス・準備を行うことです。字幕つき動画でタレントマネジメントシステムの使い方を解説するほか、FAQを整備することで評価に関する疑問はすべてそこを見れば解決できる状態にしています。さらにチェックリストを設けることで、いつ、誰が何をするのかを明確にしてタスクの抜け漏れをなくしています。

片桐さん

3つ目はコメントの質を担保するために、コメント欄に記入例を掲載しています。それだけで変わるのかと思うかもしれませんが、実際、コメント例を記載すると内容のイメージがつくようで、コメントの質のばらつきが是正されるようになりました

北田さん

Excelやスプレッドシートなどに散在していた評価データを一元管理して、人事の作業効率をアップさせています。
また、目標を正しく設定できるように、全従業員に対し、目標設計の考え方や目標の持ち方などを理解してもらう研修などを実施しています。上長向けには、評価の仕方についての研修なども実施し、評価する側もされる側も、評価に対する認識のブレがないようにしています。
そのほか、各等級や役職の「定義」をいつでも見られるようにオープンにしています。そこには、「個人として高いパフォーマンスを発揮する」「個人だけでなく、1つ以上のチームの売り上げや営業活動を管理できる」のように、そのグレードで備えていてほしいレベルに加えて、持ち合わせてほしい視座の高さや、業務遂行レベル、メンバー育成レベルなどが定義されており、メンバーは「なぜ自分が評価されている/評価されていないのか」が分かるようになっています。

Q5 今後は、どのように評価制度を運用していこうと考えていますか?

長谷川
さん

評価への納得感は高められてきましたが、一方で果敢にチャレンジして失敗する社員をどう評価するかが近年課題になってきています。
失敗も成果ではありますが、「目標の達成」とは異なります。さらに、コンピテンシーだけでは十分に評価しきれません。納得感は守りつつも、被評価者たちがより成長できるようにするためにはどうすればよいか、日々模索している真っ最中です。
今後の展望をクリアにするため、ぜひこれをご覧いただいている皆さまにクリエイターの評価事例をご共有いただきたいです……!

片桐さん

まずは評価者研修の充実化です。前回の評価で、評価者によって面談内容にばらつきがあることが判明しました。まずは求めるレベルまで全体を引き上げるために、目標設定やフィードバックの方法を伝えるための評価者研修を行おうと考えています。
また、パルスサーベイを使った従業員満足度の測定も行いたいと思っています。評価制度がきちんと機能し、社員が満足してくれているのか、バリュー浸透が進んでいるかなどを可視化していくためです。

北田さん

短期的な展望としては、まだ評価制度を見直して日が浅いため、制度の定着化を進めるのはもちろん、評価する側に、目標の授け方の質とスキルアップを目的とした研修の充実化を行っていきたいと考えています。
中期的な展望としては、評価データをタレントマネジメントで活用したいと考えています。現状、ようやく一定のオペレーションで評価運用ができるように仕組み化できたフェーズです。そのため今後は、抜擢人材、組織にゆらぎ(刺激)を与えるべき人材などを判断するための情報として活用したいと考えています。

おわりに

今回お話を聞いた3社の取り組みには、MBOをベースに、社員の成長やがんばりをきちんと評価するために360度評価などを組み合わせているという共通点がありました。納得感のある報酬を決めるだけでなく、社員の成長やバリューの体現を促すための各社の工夫が感じられます。次回は「人的資本の情報開示」がテーマです。お楽しみに!

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