知識と技術の継承で、事業も組織もサステナブルに。スマートエナジーの若手とベテランを活かす人財育成(後編)
株式会社スマートエナジー |
人事総務部 部長
坂本 憲一さん
2023.05.08
人事未経験からはじめは新しい取り組みの推進に苦労するも、社会人大学院で人事について体系的に学んだことで、周囲の理解を得られるようになった坂本さん。続く後編では、「スキルや知識の継承」と話すスマートエナジーの人事課題や、サステナブル(持続可能)な組織を実現するための取り組みを聞きました。
【前編はこちら】
*本記事の掲載内容はすべて取材時(2023年3月24日)の情報に基づいています
Profile

坂本 憲一
株式会社スマートエナジー
人事総務部 部長
大学では建築を学び、卒業後は空間プロデューサーとして、商業施設の空間設計から施工までを行う会社に新卒入社。次に、家具と内装デザインをトータルプロデュースするオフィス家具メーカーに転職し、「攻めの人事」を期待されて人事へと抜擢。社会人大学院での学びを活かし、未経験ながらも新しい人事施策を推進する。その後、子どもに誇りを持てる仕事がしたいとスマートエナジーに転職し、現在に至る。
「サステナブルな社会の実現」に人事として貢献したい
現職のスマートエナジーには、2022年5月より人事として転職されていますが、そのきっかけはなんだったのですか?

「元々、大学時代に環境問題も学んでいて、スマートエナジーが事業として展開している再生エネルギー分野に興味がありました。もう1つは、子どもに誇りを持てる仕事がしたかったのが大きいです。次世代が安心して暮らせるようなサステナブルな社会を目指すためにも、自分のスキルや経験をモノづくり以外にも、ほかの分野で活かした方がいいのでは、と考えるようになりました。そのなかで、現在の上司でもあるスマートエナジーの執行役員からお声掛けいただいたのがきっかけです。面接を受けてみて、社長含めて全員が環境問題に真剣に向き合っており、良い意味で環境オタクの人ばかりなんです。『気候変動や脱炭素にアプローチするビジネス以外は絶対やらない』というポリシーにも心を打たれ、入社を決めました」
新しい環境はどうでしたか?

「私は今回、今までのスキルや経験、大学院で学んだことを活かすというコンセプトで転職しました。そのなかで、私自身の成長以上に、ビジョンに強く共感したスマートエナジーに自分の持っているものをすべてつぎ込みたいという気持ちでした。しかし入ってみると、それどころではないというか、まだまだ勉強しないとスピード感を持って推進ができないと、人事の仕事の奥深さを痛感しているところです…」
それは前職と比べて企業規模やフェーズが変わったからですか?

「はい。売上と同時に従業員数も急成長しており、そのなかでまずはベースとなる従業員が安心・安全に働ける職場環境を築かないといけません。たとえば当たり前のことですが、産業医の健康チェックを定期的・計画的に行える体制の整備も行いました。つまり前職では攻めの人事が求められましたが、今回は『守り』を整えた上での『攻め』を期待されており、そこを並行でやらないといけない。新たに勉強しなければいけない部分も多く大変ですが、やりがいを感じる部分です」
「知識や技術の継承」でサステナブルな組織をつくる
そんななか、現在抱えられている人事課題はどのようなものがありますか?

「これは経営課題でもあるのですが、知識や技術の継承です。組織を成長させ、世の中に大きなインパクトを与えるビジネスを実現することも大事ですが、それ以上に大切なのが長く続けることだと考えています。そこで、熟練したスタッフの知識や技術を次の世代に受け継いでいき、息の長いビジネスを行うためにも、あるべき採用のかたちや定年後の制度を模索しないといけない。さらに、社員の育成もこれまでと異なるアプローチを考えないといけないと感じているところです」
知識や技術の継承とは、具体的に何を指しますか?

「当社は太陽光発電所の保守メンテナンスをメインビジネスとして展開していますが、電気主任技術者という超難関の資格を持つ人じゃないと発電所の管理はできないんです。難関なだけに、保有者が非常に少ない状況です。そのため当社でも60代の方がたくさん働いており、なかには70歳以上の方もいます。そういった方たちは実業務で忙しく、次世代への教育や継承に時間が割けない現状があるんです。このままだと、当社の電気主任技術者が高齢化するという大きな経営課題があります。そこで計画しているのが、定年の65歳になったら希望者を募り実業務を離れていただいて、若手教育にシフトしてもらうという、定年再雇用時の役割変更です。そして新卒採用を強化し、知識や技術を継承しながら、若手社員が早くから経験を積める仕組みをつくろうと考えています」
次世代の育成を通じてサステナブルな組織を目指されているわけですね。

「はい。ベテランの方にとっても教育に従事することで、できるだけ身体への負荷を抑えながら安心して働いて欲しいと思っています。あとは給与や評価の見える化にも取り組んでいます。スマートエナジーはここ5年ほどで急拡大し、人数も3〜4倍になり、5年前にはまだ東京と九州にしかなかった拠点も今では30か所以上に拡大。その影響でマネージャーへの教育が追いついておらず、メンバーとマネージャーとの面談も少ないため、社員自身がどんな基準で評価されて、事業にどれくらい貢献しているか、そしてどのように報酬が決まるのかあいまいな状態でした。そこでちゃんとステップアップの過程がわかるような評価制度(名称は「成長支援制度」)や等級制度(名称は「ステップアップ制度」)、それに紐づいた報酬制度を準備しました。評価制度と等級制度は2023年4月から、報酬制度は7月から運用する予定です。2022年5月の入社以後、『人財マネジメントプロジェクト』と銘打って経営陣全員でスタートさせ、ディスカッションを重ねながらようやくここまで来ました。そして、次の課題は、マネージャーの教育や登用ですね。コンプライアンスやハラスメントにもかかわりますし、気を引き締めて取り組みたいです」
1年弱で実現したとは思えないほどいろいろと挑戦されているんですね。

「ありがたいことに任せてもらえるので、いろいろな施策を実行に移しやすい環境なんです。このほかにも、経営層の意向を伝えたり、各拠点のメンバーを可視化したりするために、『スマエネライブ』と題して月に1回社内イベントも実施しています。直近だと社長とCFOの田久保のパネルディスカッションを行いました。そのほか、30以上ある拠点のうちどこか1つの事業所やその土地、そこで働く従業員の紹介を行っています。また、4半期に1回『スマエネサミット』も開催し、ここでは部長陣が集まり、話し合いや今後の方針を発表しています。『スマエネライブ』や『スマエネサミット』では、新しい人事制度の共有や、ワークショップを通じてより深く理解してもらう機会としても使いたいと考えています」
成長企業の要員計画に1つの答えを出したい
これまでいろいろな施策に取り組まれてきたわけですが、どんなところに人事としてのやりがいを感じますか?

「これは人事だけではなくどんな仕事にも当てはまると思いますが、やはり自分が考えて実行した施策が、きちんとほかの社員の方にも浸透した瞬間は嬉しいですよね。たとえば、入社当時、オンライン会議用として『Teams』を使っていましたが、そのほかの用途としてはまったく使われていなかったんです。そんななか、私は5月に入社し、まず部門やチームのチャットグループを作って、そこに日記をひたすら書いていきました。一人で、です(笑)。まだ誰も使っていなかったので、とりあえず自分でコンテンツを作ろうと思ったんですよね。そんな日々が続いてコンテンツが貯まってきた段階で、『坂本が何か変なことやってる』と徐々に気づいてもらえるようになり、今ではみんながランチの情報やプライベートのことも投稿し、小さなことですが社員同士のコミュニケーション活性化につながっています」
そんな坂本さんが人事として大切にしていることも教えてください。

「よく言われることですが、経営者目線を持つことですね。たとえば、採用をやる場合、会社の代表として話すので、経営層の想いをきちんと人事が届けないといけないと感じています。とはいえ、私自身の経験ですが、採用をやっていると会社のビジョンを毎日のように話すので、自ずと経営者のような視座の高さが身につくように感じています。なので、とくに若手社員などに、採用説明会で会社代表として話してもらうと、視座や意識は変わるのではないかとも考えています」
ありがとうございます。最後に今後、取り組みたいことがあれば教えてください。

「やりたいことは、3つあります。1つは成長企業の要員計画に、1つの答えを出したい。成長企業の要員計画って本当に難しいんです。人を採用しすぎると成長が鈍化した途端に余剰になる。ただ、採用しないと会社が急成長して業務量が増えるなかで、今いる社員が疲弊してしまいます。このバランスを保って採用を進めるのは非常に難しい部分なので、だからこそ試行錯誤しながら検証していきたいです。2つ目は、大学院で人事施策の効果を測定する方法を学んだので、これを実務に落とし込むことですね。人事施策は効果測定が難しく、どう事業にインパクトを与えるのか、なかなか可視化できません。だからこそ取り組みがいがあると感じています。最後、3つ目はダイバーシティの推進です。ダイバーシティはとくに明確な答えがなく、後回しにされがちな分野ですが、成果が出るまで10年程度かかるため、推進しないとリスクにつながります。しかもダイバーシティは、スマートエナジーがサステナブルな組織として持続するためにも欠かせません。現代で組織を長く存続させるためには、制約がある方がイキイキと働ける環境を整えるだけではなく、イノベーションが起きる体質構築が重要で、そのためにも変化に応じて行動できる人財を育成することや、多様な価値観を持つ人財の採用と、それらを受け入れられる社員教育の推進をしなくてはいけません。サステナブルな組織をつくるためにも人事として向き合うべきだと考えています」
編集後記
前職や大学院で学んだ知識を活かし、未経験から攻めの人事に取り組んだり、急成長する企業で一筋縄ではいかない人事課題に向き合ってきた坂本さん。そんな坂本さんには、厳しい自然環境に左右されることも多い建設の仕事にずっと向き合ってきた、父親ゆずりのタフさが身についてるように感じました。さらに、空間プロデューサーとしての発想力と、設計したものを店舗やオフィスとしてかたちにする具現化力。そして、大学院で学んだ体系だった人事の知識。この3つの能力もうまく噛み合うことで、さまざまな人事施策を推進する力になっているのでしょう。
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会社概要
社名 | 株式会社スマートエナジー |
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設立 | 2007年4月 |
事業内容 | 「太陽光、水力等の再生可能エネルギー電気の販売」「発電施設、設備ならびに同システムの企画、設計、施工、管理、保守ならびに販売」「環境ファンドへの出資の募集、その運営と対策 」「排出量制度の調査・コンサルティング及び事業支援」 |
従業員数 | 234名(派遣社員及び出向社員は除く 2022年3月31日時点) |
会社HP | https://www.smart-energy.jp/ |