働く人たちから「選ばれる会社」になるために。人事が導く、改革への道のり

国内第3位の広告代理店として名を馳せるADKグループは、2018年にベインキャピタル傘下となったことで大きな変革の時を迎えている。体制、経営方針などが大きく変わっていく中で、人事はどのようなミッションを受け、戦略を支えているのか。自ら志望し、人事マンへと転身した岡野氏に話を伺った。

Profile

岡野 千速

株式会社ADKホールディングス
人事企画部 人材開発室 キャリア開発グループ 兼 採用グループ

2007年、株式会社アサツー ディ・ケイ(現・株式会社ADKホールディングス)に新卒入社。ライツビジネス、アカウントエグゼクティブ職に携わり、業務の傍ら経営学修士を取得。2018年に人事企画部へ異動。採用業務とキャリア開発を担当している。

経営層から与えられたミッションは
「育てた人材をモチベーション高く、長く働いてもらう」こと

国内有数の広告代理店として知られる御社ですが、2019年より社名・組織変更されましたね。

「ベインキャピタルによる公開買付を経て、持株会社体制へと移行したのと同時に、マーケティング領域における統合的なソリューション提案やデータドリブンに基づくマスメディア・デジタルメディアを提案するADKマーケティング・ソリューションズ、コミュニケーション領域における企画・制作・実施までをワンストップで実施するADKクリエイティブ・ワン、IPコンテンツの製作、ライツビジネス、マーチャンダイジングなどの事業を行うADKエモーションズに分社化し、ADKグループ全体の管理やバックオフィス機能を担当する持株会社としてADKホールディングスが誕生しました」

組織体制の変化に伴い、人事に期待されていることや、ミッションも大きく変わったのではないでしょうか?

「経営層からは“育てた人材をモチベーション高く長く働いてもらう”をミッションの1つとして与えられています。一見華やかな業界ですし、中途採用で人が集まらないということはありませんが、弊社の業務は幅広くかつ高い専門性が問われます。デザイナーやプランナーといった職種のみならず、クライアントの業種によっても専門性が分かれてきますので、一度育てた優秀な人材が辞めてしまうのは大きな痛手となるのです。そのため、人材を育成する文化と同時に、多様な雇用体系を用意し、個々が働き続けやすい環境を作ろうとしているわけです」

働きやすい環境づくりについて、具体的にどのようなことに取り組んでいらっしゃいますか?

「昨今の働き方改革に沿った制度・風土づくりです。私は長らく現場側の人間だったのですが、その体験からも広告やマスコミ業界には独特の空気があるとは感じています。クライアントと会食を通じてコミュニケーションを深めたり、仕事の山場では体力・根性勝負のような部分があったり……。休日も仕事のヒントを探しに外出したりと、オン・オフ付けにくい業界でもあります。ただ、そういった古き良きファミリー的なノリは、現在の働き方改革にはそぐわない部分も出てきました。今は22時消灯と毎週水曜日をノー残業デー、そして一斉有給取得日などを推し進め、少しずつですが生産性を高めることで労働時間の短縮化が進んでいるように思います。

とはいえ、『俺は働くのが楽しくて、仕事をやり遂げたい。だから長く会社にいるのは苦にならないんだ!』という社員も少なからずおり、そのせめぎ合いではありますが……」

岡野さんご自身は、人事としてどんな業務を担当されていらっしゃいますか?

「メインはキャリア開発で、入社4年目と7年目で異動を行う『キャリアステップ異動』と、入社年に関わらず自己申告制で行う『キャリア開発自己申告』の異動の担当をしています。自己申告だけでも毎年100名以上の異動希望者がおり、それを5~6人で面談して進めているため人事1人あたりの面談数はかなり多いです。他人の人生を決めてしまうというプレッシャーはありますが、キャリアデザインを一緒に考え、会社としても社員としても成長できるパスを支援することで社員一人ひとりが“キャリアに対して腹落ちできる”ことが重要と考えています」

ということは、面談がかなり重要ですよね。

「昨年から全社員に対して人事面談制度を充実させるとともに、キャリア研修も増やし、社員のモチベーションを上げる工夫をしています。グループ全体で約2200名いる社員に対しキャリア開発担当者は6~7名ですが、なるべく密に面談ができるように心がけています」

中途採用候補者にもなるべくリアルな接点を持ちつつ生産性を高めることで、社員のキャリア面談担当としての力を入れる

お話を伺っていると、社員と会って話すことに力を傾けられている印象を受けます。

「おっしゃる通り、社内の人に会う時間は極力増やそうとしています。また、中途採用についても同様に考えており、応募いただいた方の書類選考という紙上でみるだけではなく、応募者の熱量がわかる動画によるエントリーを導入し、出来るだけその方のリアルなパーソナリティーに触れたいと思っています」

現在、グループ全体の人事は何名くらいで担っていらっしゃるのでしょうか?

「人事領域全体で60名です。体制変更に伴い、従来はいなかった人材も積極的に採用するという戦略に変わり、中途採用に関しては昨年比の1.5倍のペース、今年は130名ほどを採用予定です」

従来いなかった人材とは、どのような領域の方ですか?

「エンジニア、データサイエンティスト、アドテクノロジーのスペシャリスト、そして事業会社でマーケティングに従事されていた方などですね。限られた時間の中で、これらのような採用難易度が高いポジションの採用と、異動・キャリア開発のための面談の時間を効率的に行うべく、中途採用では実際にお会いする前に採用オウンドメディアでのメッセージ発信を行ったり、事業戦略を伝えたりすることでブランディングを行っています。また、先ほど申し上げた動画選考などを使っていかに質を底上げするかが大事。逆にキャリア開発ではしっかり社員1名1名に会うことで質を上げていこうと考えています」

お話を伺っていると異動業務に対しても非常に熱い思いをお持ちのようですが、岡野さんが人事として取り組みたいこと=(イコール)キャリア開発だったのでしょうか。

「ええ、キャリア開発と会社の人事制度立案ですね。もともと弊社は創業時から“全員経営”を理念としており、自発的に業務に取り組むことが良しとされてきました。今でこそティール組織がトレンドとなっていますが、そのずっと前から弊社はフラットで自由に何でも取り組める社風だったんです。僕自身が上司に恵まれたこともあるかもしれませんが、やってみたいことがあれば『どうぞ、どうぞ』と何でも挑戦させてくれる。もし失敗しても、それを反省点として次に活かせばいいと上司は責任を負ってくれる。僕はそれを『ダチョウ倶楽部のような社風』と言っていますが(笑)。そんなADKの良いところをもっともっと促進させ、会社を成長させたいという思いがずっとあったんです」

経営学の勉強から人材戦略に興味が。
現場を知る強みを活かすべく、自ら人事へと転身

ちなみに、岡野さんはこれまでずっと人事一筋でいらしたのでしょうか。現在までのキャリアをご紹介いただけますか?

「2007年に当社(当時は株式会社アサツー ディ・ケイ)に新卒入社しました。大学は理工学部の電気・電子工学科でしたが、きっちり計算で割り切れるものばかりに触れていたせいか、その反対の雰囲気や空気を作り出すような仕事がしたいと考えるようになりまして(笑)。
入社から3年間はアニメやキャラクターなどのライツビジネスを担当し、権利収益の最大化業務に携わりました。4年目からはアカウント・エグゼクティブ、いわゆる営業に異動し、業務内容がマージン/フィービジネスへと変わりました。担当していたのは玩具メーカー、証券、出版、アパレルなどで、業界によって雰囲気はもちろん、業務の進め方、コミュニケーションのとり方などあらゆる面で違いがあったのは勉強になりましたね」

人事になったのは最近ですか?

「実は昨年です。自ら希望を出し、それが叶った形です」

なぜ人事へのキャリアシフトを希望されたのでしょうか?

「営業時代に社会人大学院で経営学修士を修めたのですが、その授業で人材戦略について学ぶ機会があり非常に面白かったんです。それまで、大学院はインプットの場としか考えていませんでしたが、『人事の道に進んでみたい』という新たな展望が開けました」

ご自身で希望されたとはいえ、人事の仕事をすることに対して周囲はかなり驚かれたのでは?

「ええ、『体調、大丈夫か?』、『何かあったのか?』とはよく尋ねられました(笑)。人事になって2ヶ月後、昨春から新卒入社の内定からフォローまでお手伝いしていたのですが、7月には中途採用が強化されるようになり、そちらに注力するようになりました。昨年、中途採用のオウンドメディアも立ち上げたんですよ」

メディアを立ち上げられたのは、なぜですか?

「応募者から『女性は働きやすいですか?』『残業はどれくらいありますか?』など同じような質問ばかり受けるのですが、その都度回答するのは効率的ではないし、そもそも応募前にそれらの情報がわかっていればミスマッチも防げると考えたんです。リファラル採用でもこのサイトのURLを送れば、企業紹介として十分機能しますし。社員の本音を紹介できるコンテンツは、『あれ、面白かったよ!』と社員からも好評です」

確かに、応募者からの質問は似たりよったりになりがちですよね。 弊社も真似して取り入れたいです(笑)。

「ちなみにQ&Aでご紹介している回答は、カオナビのアンケート機能を使って集めたんですよ」

そんな風に活用していただき、光栄です!その他にHRテクノロジーを活用されるシーンはありますか?

「キャリア面談の際に必ず見るのが、異動履歴、年齢、これまでの部署歴、評価履歴。また部署や上司とのミスマッチを記録することで、データに基づいた配置転換ができるように活用しています。今後は、採用から最新の活躍状況まで一貫して紐付けられるようなシステムに出来ないかを検討しています」

「ADKで働きたい」と選ばれる会社になるよう、中間管理職の意識をアップデートさせたい

社員の方には、どんなキャリアを目指してほしいと考えていらっしゃいますか?

「ADKグループでは複式型人材、すなわち2つの専門性を持った人材になることを推奨しています。異なる2つの専門性を持つH型の人材になれば、専門性×専門性=レアな専門性を持つ人材、となり市場価値を思う存分高めて欲しいと思っています」

岡野さんもライツ事業、営業、そして人事と、まさに複数の専門性をお持ちですものね。

「弊社には人事のスペシャリストもいますが、その人に僕が勝てるとしたら現場を経験しているという点。現場を知っているからこそ話せること、考えつくことがあると思いつつ、人事スペシャリストの方と刺激をし合ってより良い会社にしていきたいと思っています」

岡野さんが今後取り組みたいことを教えて下さい。

「中間管理職の研修です。広告会社は、消費者インサイト(心理・行動)を理解しなくてはいけない業務に携わっているにも関わらず、自分の部下のインサイトが理解できないという上司も残念ながら多いです。

昨今、ハラスメント関連の問題はどの会社でも常につきまとう人事課題だと思います。でもその原因の本質は、管理職以上が部下に対する意識をアップデートできていないからではないかと考えています。『俺達の若い頃はこうだった』『この仕事では、これが普通』という考えが、現代や若い世代にフィットしていないことでギャップが生まれ、ハラスメントへと繋がっていく。上司にはそんなつもりがなくても、部下が深く傷付いてしまったらアウト。ではどうすれば良いかというと、情報や価値観をアップデートすればいいだけなんです。中間管理職に残業がしわ寄せされてはいけませんが、メンバーファーストで行動することで部内全体のモチベーションも上がり、ひいては『ぜひADKで働きたい、働き続けたい』と選ばれる会社になっていくと考えています」

なるほど。ではハラスメント問題を解決するためにも、人事として求められる素質、能力とは何だと思われますか?

「対面人事力、すなわち傾聴力でしょう。人事の仕事は、言うなれば『社員インサイトの先読み』に尽きます。いま社員は何を考えていて、どういう希望があるのか。もしかしたら社員自体が気付いていないインサイトを人事として気づき、研修や人事制度の企画に反映させられれば社員と会社双方の幸福につながる人事戦略が担えるのではないでしょうか」

最後に、岡野さんがお仕事の上で大事にしていらっしゃることを教えて下さい。

「『社員ファースト』です。人事異動やキャリア面談はすべて1on1で行い、テクノロジーによって集めたデータを落とし込みつつ、相手社員の目線に立った話が出来るように心がけています。配置転換は、全員の希望を叶えることは出来ません。でも、例え会社から与えられた仕事やミッションが望まないものだったとしても、新たな目標を立てて、その仕事がどういう風に未来につながっていくのかを考えれば、その人にとってその仕事はポジティブなものに変化させられると思うのですよね。そういったキャリアの新たな気付かなかった視点を一緒に考えて、新しいキャリアの景色を見せてあげられるような人事になりたいですね」

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会社概要

社名 株式会社ADKホールディングス
設立 1956年 ※前身である株式会社旭通信社の創業
事業内容 マーケティング課題解決の提案やメディアプランニングを手掛けるADKグループの全体戦略・運営方針の立案。ならびに事業会社の管理・監督、およびグループのバックオフィス機能などを提供する純粋持株会社
従業員数 約270名(グループ全体では約2200名)
会社HP https://www.adk.jp/

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