人事データの蓄積と分析サイクルが、エンジニアのミスマッチと流出を防ぐ

長年エンジニアとして活躍していた浅野氏は、その経験と採用実績を買われ、一度退職したデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(以下、DAC)へ人事マンとして再入社したキャリアを持つ。元エンジニアだからこそ見えてくる人事課題とその解決法とは……?

Profile

浅野 正隆

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
経営管理本部 シニアマネージャー

大学卒業後、エンジニアとして複数の企業に勤務。2007年にDACに入社、インフラエンジニアやプロダクトオーナー、マネジメントを経験。その後ベンチャー系企業への転職を経て、2018年にDACへ再入社。再入社を機に人事へとキャリアチェンジ。

元エンジニアが抱いたHRテクノロジー導入の野望

浅野さんはいつ頃DACへ入社されたのですか?

「実は2回入社しておりまして、1回目は2007年入社で10年勤めました。その後、一度ベンチャー系企業に転職し、2018年2月にDACの再雇用制度(リジョイン制度)にて再入社し、現在の仕事をさせていただいています。」

最初の入社時から人事に携わっていらしたのですか?

「いえ、新卒からベンチャー企業に在籍していた時まで、ずっとエンジニア職でした。最初にDACに入社した際はインフラエンジニアやプロダクトオーナー、そしてマネジメントも担っていました。その流れで、エンジニア採用にも関わっていましたが、本格的に人事に携わったのは再入社したときからです。」

再入社をきっかけに人事へと大きくキャリアチェンジした理由とは?

「面接や評価した経験はありませんでしたが、もともと人事には興味がありキャリアで悩んでいました。DACからベンチャー企業に転職した後、あるきっかけで現在の上司と話す機会があり相談したところ、以前在籍していた頃の採用実績などを評価されたのか、声をかけていただきました。」

上司の方は浅野さんにどんなことを期待されていたのでしょうか?

「HRテクノロジーの活用推進にチャレンジしたいという思いは、上司と私とで合致していました。人事データはあるのに使えていないという課題感が大きかった。だから今でもその課題解決が使命です。」

すごい転身ですね。そもそもDACを一度お辞めになったのはどんな理由だったのですか?

「技術的にもマネジメント的にも、スキルや経験は向上している実感がありました。けれども、社内スキルの積み重ねではないかと疑問に思うこともあった中、10年という節目を迎え一度外に出てみようと思い立ったのです。」

エンジニア時代から採用に関わる中で、学びや気付きはありましたか?

「ありましたね。ひとつは、“エンジニアのスキルをどのように見極めるべきか”。もうひとつは“自分の思考や観点は、いかにバイアスがかかっているか“ですね。例えば『経験している業界・卒業大学を見て、私自身の過去の面接や経験に引きずられこういう人だろう』みたいなことです。」

なるほど。いわゆる履歴書データから、その人となりを結論づけてしまうようなことですね。

「そうですね。今でもバイアスがかかっている部分が無いとは言いませんが、経験を積むことで以前よりは周辺情報に引きずられずに、面接ができるようになったと思います。」

人事データを分析することでリソースマネジメントのヒントが見える

HRテクノロジーの導入・活用のほかに課題はありましたか? また、それに対してどのような解決策を取られましたか?

「大枠としては人が足りないという課題です。その一方で社員の労働時間を短くするという課題もある。相反する課題を解決するには、やはり離職防止が効果的かつ効率的なので、現在は四半期毎に社員に対しコンディション調査を実施し、解決につながる傾向が見えないか探っています。これまでも年に一度の割合で仕事量や業務内容を調査し、データを溜めてはいたのですがうまく活用できていませんでした。それを整理しつつ、コンディション調査結果も加えることで、さらに密なデータを蓄積しようとしているところです。」

それらのデータから見えたことはありましたか?

「傾向は見え始めましたがまだまだです。一方でコンディション調査によって、人事面談を希望する人が、一定数存在することがわかりました。これは、今すぐ辞めるまではいかなくても、何かしらの不安や不満、問題を抱えているということですよね。この問題を理解することができれば、個別の対策・全体的な施策を考えることができるので、蓄積したデータを、社員が抱える問題発掘と解決に役立てる仕組みを作ろうとしています。」

手持ちのデータから新たなシステムへ昇華させていくというのが、非常にエンジニアらしい発想ですね。コンディション調査の他に、テクノロジーの活用事例はありますか?

「今は過去の人事データを整理し、全体像が数字で見えるようになってきたところです。過去10年間の増減の数、それらの部署ごとのデータなどです。」

データ分析や可視化はどのようにされていますか?

「はじめは過去の経験から、仮説を立てデータを集め検証するということを繰り返していました。でも現状のデータだけでは社員一人ひとりのコンディションが違いすぎて、満足いく結論には至っていません。現在のデータで会社全体の大きなトレンドを掴んだ上で、追加で蓄積されつつあるデータを細かな問題解決にどう活用するかを考える必要があると考えています。」

それは例えば、「この人は異動させた方が良い」というような、“しきい値”をどう設定するかということでしょうか?

「そうですね、そういったことができれば良いですが、まずはデータ活用し流れを掴むことが第一目標です。そのために、データの仮説、実行、検証、改善のPDCAを繰り返しています。」

エンジニア経験があったからこそわかる事業側の“意思”と“求める人材像”

人手不足以外に人事課題はありますか?

「各人のマネジメント能力をいかに判断するかですね。一般的ですが、自分が手を動かす事は優秀だが、マネジメントができるかというと全く別問題です。」

現場とマネージャーとでは大きなギャップがありますよね。

「現場とマネージャーは置かれている状況や求められる成果が違う中、方向性としては同じなのに、不満が出ることは珍しくありません。そのすれ違いに対して、人事としてどうアプローチできるかは、取り組みたい課題です。」

視座を変えないといけない、ということですよね。そういった意味でも、エンジニア出身の浅野さんが人事にいらっしゃる意味は大きいのではないでしょうか。浅野さんは、ご自身の強みはなんだと思いますか?

「私の強みの1つは事業側の経験が長いので、恐らく人事経験のみの人よりも事業側で求める人材を理解できるのではないかと思います。また、それにより求める人材をイメージできるので、採用後のマッチ度が高いことです。もう1点は、事業とエンジニアの経験から仮説を立て、分析を行える点は強みだと思いたいです。」

お話を伺っていると、事業にフィットした人事の文化を作り、新たな人事システムを生みだそうとされているように思えます。

「文化創出の具体例としては、メンバーのパフォーマンスを上げるためにマネージャーが時間を割き、そしてそれがちゃんと評価されるといった文化は人事課題解決のキーになると思います。」

自分の判断のどこにバイアスがかかっているか。常に見直すことで、採用の最適解を導き出す

人事に携わる中で苦労されていることはありますか?

「絶対的な正解がない問題や課題に何かしらの回答をしなければならないことです。エンジニア業務では、機能・納期・コストなど、結果は分かり易いですが、人事は、人を相手にするため、個々人の状況が違う中、いかに最適解を提示できるかということは、個人的な課題のひとつです。」

浅野さんが人事業務で心がけていることや目標を教えてください。

「繰り返しになりますが、常にバイアスを取り去った視点を持つよう意識しています。事業部がOKを出しているのに自分だけNGを出した人材が、結果的にうまく事業部にはまった場合は自分の判断が間違っていたということですよね。その間違いはどこで起きているのかを常に見直すようにしています。」

最後に、人事や採用担当者に求められる要素についてお聞かせください。

「エンジニア採用では『やることが明確な方がマッチしやすい』というのは定説です。採用候補者が何をできるかと、事業側が何をやらせたいかを明確にすべきですし、候補者が持つ経験の“長さ”と“深さ”を間違えないように私自身も気をつけています。人事全般で言うなら、数字と分析が得意な人は、これからの人事に重宝されるでしょうね。個人的な目標ではありますが、同業他社を含め人事の横のつながりを作り、課題解決に役立てていきたいと考えています。」

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会社概要

社名 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
設立 1996年
事業内容 メディアサービス事業、ソリューションサービス事業、オペレーションサービス事業
従業員数 連結2,443名(2018年3月末時点)
会社HP https://www.dac.co.jp/

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