人事の面白さは「ゴールがないこと」。人の力を引き出すために、考え、動き続けたい

創業以来システム運用会社として第一線を走り続けるアイティーエム株式会社は、2017年にさくらインターネット株式会社の100%子会社化・社名変更に至った。人事として企業風土を変化させる役割を担う吉崎氏に、これまで行った施策、今後の展望や課題と対策、さらに人事の仕事の魅力について語っていただいた。

Profile

吉崎 淳

アイティーエム株式会社
コーポレート本部 人事総務部 人事課課長

2002年に小売業の営業として新卒入社。2005年にIR(投資家向け広報)支援会社へ転職し、営業として活躍するも自身の希望により2009年に人事部へ異動。2013年にエヌシーアイ株式会社(現・アイティーエム株式会社)に転職し、同社にて採用・労務・評価・教育など、人に関わる業務全般を担っている。

自ら望んだ、人事へのキャリアチェンジ

まずは御社の業務内容について教えてください。

「当社はシステムマネジメント事業を中心に、データセンターやネットワークサービスなどITサービスを手がけています。創立は1997年ですが、2017年にさくらインターネット株式会社が完全親会社となり、社名変更しました」

吉崎さんは初めから人事に携わっていらしたんですか?

「もともと新卒採用された会社では営業をしておりまして、前社に転職した際も営業での採用でした。前社はIR支援を行っており、数多くのトップ経営層に接することができました。大学を卒業して3、4年の社会人経験を積んだ20代半ばながら、非常に稀有な経験を積ませていただいたと思っています。そうして5年ほど働くうちに、“社外から優秀な人を招き入れ活躍させたい!”という思いが生じ、人事への異動を希望、2009年から人事としてのキャリアがスタートしました」

営業という経歴とともに、経営層に多く出会えたというのも貴重な経験ですね。

「そうですね。人事の仕事を始めた頃は、それこそ給与計算から社会保険手続きに使われる用語ひとつ分からずに一から学んでばかりでしたが、業務を進めるなかで“人と人との仕事である”という、営業とさほど変わらない人事の仕事の本質を少し垣間見ることができたように思います。忙しく充実した日々を過ごしていましたが、当社が人事を募集しているのを知り、2013年に転職しました。管理部門を一から立ち上げる準備をちょうどしており、人事としてのキャリアを長く積んでいきたいという私自身の思いがある中で、その機会に参加できることに非常に魅力を感じたのです」

その頃の人事担当者は何人くらいいらしたのでしょうか。

「入社した時は、私の上司である人事総務部長と私の二人でした。入社して1年間は激動の日々を過ごしました(笑)。現在は私を含めて人事課のメンバーは3人です」

かなり少数で回していらっしゃるのですね。

「採用から労務、評価、教育、そして社内イベントなど、それこそ人に関わる仕事は一通り人事課が担当しています。限られた人数で回すためにも、効率化は常に念頭にある課題ですね」

アナログから切り替えたことで、社内に先駆けて在宅勤務が可能に

現在の会社に転職された際、ギャップなどは感じましたか?

「当社はIT企業であるのですが、バックオフィス業務はほとんど紙で行っていたほどアナログな部分が非常に色濃く残っていました。そこで私が入社した初年度に導入した勤怠ツールを皮切りに人事情報管理や評価、採用など、人事課のあらゆる業務に専用ツールを導入し、現在はカオナビの他、勤怠管理ツール、人事労務ツール、採用管理ツール、人事管理DBなど業務ごとに専用ツールを活用しています。入社時と比べると劇的に変化したと思います」

それは大きな変化ですね!

「アナログから切り替わったことで、人事業務について今現在は在宅で業務を回すことが可能となりました。人事課には時短勤務のメンバーがいるので、在宅勤務が可能な環境を実現したことで、家庭の事情とも調整しやすいですし、今後、企業が多様な働き方を受け入れることができないと既存社員のリテンションや優秀な人材の採用が難しくなる現実が迫っているなかで、テストケースとしていち早く在宅勤務を実現して、社内の先駆けとなれたのは良かったと思います。

ただ、人事課で導入した各ツールをデータ連携するところまでは実現できておらず、ツールを使いこなしているとは言い切れないことが目下の課題ですね。また、数年前よりも格段にデータが蓄積されているにもかかわらず、それを活用しきれていないことも課題ですね。例えばマネージャーがメンバーのマネジメントをするための判断材料となるデータが、実務に活かしきれていないケースもまだまだあると実感しています。もっと人事が丁寧にサポートに入る必要があるのかな、と」

確かにデータを溜めるだけではもったいないですよね。

「はい、データを溜めるだけでマネジメントに活用できていなければ無駄だと思います。またサポートに入るとは言っても、全て型どおりにやってもらうようなことにならないように気をつけています。2017年に親会社が変更になったときに、従来のトップダウン型から“一人ひとりが自ら動ける社風にする”という方向性が打ち出されました。親会社が変わったことで当然経営方針も変わりましたので、当社として目指す方向性や企業風土も変わり、評価や環境作りについても変化が求められました。

それなのに人事が『この基準を使って、こう評価してください』と言ってしまうと、“一人ひとり……”という方向性と矛盾してしまいます。部署ごとに役割や業務内容、抱える課題も異なりますし、それぞれの状況に合わせたサポートができるといいなと思います」

アナログからデジタルへという変革と同時に、入社当初からの管理部門立ち上げという責務など、様々なご苦労があったのではないでしょうか?

「たしかに大変でしたが、逆に言えば何事にもチャレンジできると前向きに楽しんでいました。まだ道半ばとは思いますが、少なくとも数年前よりもいろいろな意見を発信しやすくなっていますし、それまでの縦割りが強い社風に少しは風穴が空いた手応えを感じています」

評価制度に1on1を取り入れ、一人ひとりが自ら動ける社風を目指す

先ほど、評価についてのお話が出てきましたが、評価制度も変わりましたか?

「2018年の4月に目標管理をもとにした評価制度から各部門や現場のマネージャーに裁量を持たせた制度に切り替えました。具体的には期初にマネージャーとメンバーとが対話を通じて期待値を設定し、月1回の1 on 1の場で定期的に進捗確認や立て直し、キャリア相談等をするというものです。マネージャーとメンバーとの対話を通じて、社員一人ひとりの自律的行動を促すことを目的に導入しました」

約1年経ってみて、反応などはいかがですか?

「もともとの社風が比較的トップダウンの風土が強かったため、『自分たちに与えられた裁量の範囲で期待値を設定して評価しましょう、と言われても……』という現場の戸惑いの声は聞こえてきます。これまでは『この基準に沿って評価をしましょう』という型があったのに、その型がいわば外されたことで、プレッシャーややり難さを感じる人がいることは確かです。まだまだ色々な声は聞こえてきますね。

でもそんな反応も含め、個々が自ら考え動ける仕組み作りをする、“人事の仕事”に面白みも感じています。一人ひとりが心の中に持っている前向きな気持ちをもっと大切に引き出していきたいです」

御社ではエンジニア職の方が多いと思いますが、それ故の苦労や工夫はありますか?

「社員の約7割がエンジニア、営業と管理系がそれぞれ1割強程度なので、確かにエンジニアの人数は多いですね。でもエンジニアが多いからというより、私たちの業務自体が自由度や創造性を求められる業態では決してないため、一人ひとりが自ら考えて動き出せる社風へはまだまだ切り替われない部分があるのかもしれません。

当社の主たる業務であるシステム運用監視は、お客様が求める品質を実現するために予め定められた手順に従って確実に実行することが高い水準で求められるため、どうしてもエンジニアは手順やルールを重視せざるを得ません。そのため、目指すべきゴールを示すのであとは一人ひとりが自ら考えて動き出きなさいと言っても、戸惑いを感じてしまう人が出るのは当然です。かと言って、管理部門やマネージャーがルールや基準を決めすぎてしまえば、トップダウンと同義になってしまいますし、今の時代に求められるスピード感で社員一人ひとりがお客様の課題に対応できないようでは経営が目指すものとは正反対のことになってしまいます。極論すると、よくよく世の中で言われているように『手順通りに行う業務に対し、現場のマネジメントが必要なのか……?』となってしまい、人事としてどこまでルールを定めるべきか、というバランスには、常に気にしています」

人事の仕事の面白さは、終わりやゴールがないこと

評価方法の他に、企業文化の変革を促す取り組みは行ってらっしゃいますか?

「当社は親会社が近くにあるのに双方のエンジニア同士の交流が意外と少ない状態だったのですが……。技術部門のマネージャーとランチでの雑談をきっかけに、外部の方を招聘しオープンソーステクノロジーについて語っていただく外部との交流の場を開きました。この交流会をきっかけに、今後さらに気軽に、当社の社員一人ひとりが外部の方の知見を吸収しつつ、対話を通じて様々な視点を持てるような機会を作っていきたいと考えています」

管理職から上がる意見が増えてきたと先ほどもおっしゃっていましたから、良い方向に変わっているように見受けられます。

「社長の村上が発起して、親会社で開催していた“TGIF (Thanks God, It’s Friday)”という社員の誰もが経営陣と話ができるイベントを開催しています。『廊下ですれ違った社長や他部門の上長に気軽に相談できるくらいの空気を作ろう』というのが目的で、もともとは毎回話すテーマを設定しようと考えていたのですが、現在は社員がゲームやたこ焼き器などを持ち寄り、ワイワイと楽しんでいる雰囲気ですね。だいたい20名ほどが集まり参加者も増えつつあるので、このイベントも変化を促す一つとなっているのかもしれません。参加者の中から前向きな意見も出てきていますし、継続することに意味があると思っています。今後も定期的に行っていこうと考えています」

なるほど。最後に、吉澤さんが感じていらっしゃる人事の面白さと、大切にされていることを教えていただけますか?

「人事の仕事の魅力のひとつに、一人の人間の側面が見えることがあげられると思います。働く目的、働く意味、働くモチベーションなど、一人ひとりの人間っぽさが垣間見えるのは人事ならでは。そしてなにより、人事という仕事は『これで終わり!』がないんですよね。期が終わっても、なにか課題解決しても、それがゴールではない。常に社員が最大限にパフォーマンスを発揮できるように考え続け、仕掛け続けなければいけないということにこそ、面白みや難しさを感じます。

もともと人事にキャリアチェンジしたときから“人が活躍する支えになりたい”という思いがありましたから、常に人とどう向き合うか考え続けています。良い方向に転がれば大きな喜びを感じますし、悪い方向に転がれば気が滅入ることもあります。だからこそ、当事者でありつつもどこかで客観的な視点を持ち、常に冷静にフェアであることを見失わないように気をつけています」

人対人であることが仕事の魅力であり、大切にすべきことなのですね。

「そうですね。様々なツールのおかげで業務の効率化もある程度は実現できましたし、ツールやデータを使いこなすテクニカルな部分は今後さらに重要になってくると実感していますが、それに加えて、人対人の関係性であったり、思考を捉えることが人事として大切なスキルではないかと感じています。

テクノロジーに飲み込まれず、テクノロジーを使いこなした上で、人と向き合う力を兼ね備えた人がこれからの人事に求められる人物像ではないかなと思います」

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会社概要

社名 アイティーエム株式会社
設立 2017年(社名変更、設立は1997年)
事業内容 システムマネジメント事業、データセンター事業、ネットワークサービス事業、クラウドサービス事業、情報セキュリティ事業
従業員数 128名(2019年3月時点)
会社HP https://www.itmanage.co.jp/

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