小さく始めて共感を広げる施策で 働く幸せを生み出したい

創立23年目を迎える、さくらインターネット株式会社はインターネット黎明期よりレンタルサーバサービスを提供。現在もインターネットインフラサービスを中心に事業展開している同社が、どのような人事戦略を図っているのか、お話を伺った。

Profile

矢部 真理子

さくらインターネット株式会社
管理本部 人事部 マネージャー

新卒で製靴・製鞄会社に就職し、その後、気象機器メーカーにて営業や秘書に従事。人事サービス会社を経て、2012年にさくらインターネット株式会社へ人事として転職。現在はマネージャーとして、人・組織で事業に貢献するための人事業務全般に従事。

急成長する会社の中で組織作りの大切さに気付く

今日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。実は矢部さんとは御社とカオナビという関係のほかに、個人的にも面識がありまして……。

「青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムですよね。ベンチャー企業の方から公務員や演出家まで色々な職業の方と一緒に授業を受け、とても勉強になりました。これから、運営スタッフも務めさせて頂くことになりました。」

肩書などをすべて外し、ある種、寛容にならざるを得ない環境で刺激的でしたよね。座学があるかと思えば手をつないでみんなで体操をやるなど、ユニークなカリキュラムばかりで。矢部さんの仕事観にも影響を与えたのでは?

「そうですね。共通言語や価値観が異なる人と、いかにコミュニケーションを図るかの学びは非常に多かったです。でも振り返ってみると、人事として最も大きな転機となったのは前々職の気象機器メーカーにいたときかも知れません。当時は社長のアシスタントをしていたのですが、社員が5人から100人へと急激に成長する様子を目の当たりにし、組織づくり・人事戦略の大切さに気付いたんです。そこで人事の立場から社会に貢献できる仕事をしたいと考え、人事サービス会社に転職し、7年ほど勤めました」

なるほど。さくらインターネットさんに転職されたのはなぜですか?

「前職の人事サービス会社でもお客様から『優秀な人が採用出来て、会社の雰囲気が良くなったよ』などと感謝の言葉を頂いたり、やりがいは十分感じていました。でも、やはり外部からお客様の支援をする立場での人事業務では、一種の限界も感じまして。社員が長きに渡って活躍したり、その会社で働く幸せを作り続けられる企業内人事として人・組織に関わりたいと考えたのです。弊社は現代社会に欠かせないインターネットインフラを手がけているので社会的貢献性も高く、採用担当として自社の存在意義を自分の言葉で語れるだろうと思いました。また、面接の際に担当者が静かに熱く語る人だったので、『ユニークな人だけでなく、一見、目立たないけれども真面目で誠実な人が活躍できる会社だろうな』と感じたことも大きな理由でした」

ひとつひとつの事柄にじっくり向き合い、考えてらっしゃるのが矢部さんの人柄を感じさせますね。さくらインターネットさんに入社されてから、どのような業務を担当されましたか?

「もともと採用担当として入社したものの、しばらくは仕事がなかったんです!(笑)」

仕事がないとは……?

「当時は社の方針もコスト削減や効率化だったので、採用も欠員分くらいしかなくて……。業務はあっても仕事はない状態でした。前職と比べると残業もなく格段に働きやすくはなりましたが、役に立っている感じがしませんでした。その頃は理想と現実との間でかなり悩みましたね」

人的リソース確保へと方向転換し気付いた、“会社を好きでいてもらえること”の重要性

人事面から経営を支え、社員の幸せを形成したいという目的意識がはっきりしていらしたからこそ、苦しかったでしょうね。

「はい。それが一転、2015年に社の方針が『お客様、会社、社員の成長を掲げ、人的リソースを確保しよう』という方向へ舵切りしました。しかも当時200名くらいの会社に、一気に100名採用するぞという話になり、担当の私も信じられず『本気ですか?!』と何回も社長に尋ねに行ったくらいでした(笑)」

いきなり100名とはすごいですよね。最終的には何名くらい採用できましたか?

「83名を採用できまして、その経験が今につながっているかなと思います。結果論ではありますが、社員が会社を好きでないと採用は成功しないことを学びました。2016年から働き方改革を強化して、“さぶりこ”(Sakura Business and Life Co-Creation)と総称する人事制度をスタートし、その中にリファラル採用の仕組みもあるのですが、それはもともと2015年採用時の既成事実が仕組み化したもの。100名採用するぞ!となったときに、自主的にどんどん知人を紹介してくれた社員がいて、それが非常にうまく進み、それこそ内定率100%だったんです。きっと、紹介してくれた社員自身、会社が好きで自信を持って知人に勧められるという気持ちも大きかったのかなと」

2015年というと、おそらくリファラル採用が流行る前かも……。社員が会社を好きでいてくれるというのは重要ですよね。

「ええ、ですから今も社内にファンを増やす活動は重視しています。人事部のミッションは“個とチームのパフォーマンスの最大化、そして日本一幸せに働ける会社を目指すことで、経営目標を達成する”です。ビジネス創発力や専門スキルといった個人の力とチームの力、両輪で取り組まないと事業の成功、そして社員の幸せは成し得ないと思います」

ファンを増やす活動として、具体的にどんなことに取り組まれていますか?

「パラレルキャリアやテレワーク支援などの働き方を示した“さぶりこ”の導入にあたり、社員と対話の場を設けました。制度を理解し正しく使ってほしいので、お互いの行動が一致するように、とことん社員と話し合ったのです。新たな制度が浸透するためには、各人が決定のプロセスに関わったかどうかも重要だと考えていました」

それは確かに、自分自身を振り返ってみてもその通りですね。

「“さぶりこ”が注目されているのは、単に良い制度だという理由だけではないと思います。弊社では制度より風土づくりを大切にしています。風土づくりには、“きちんと機能し社員に評価されている”ことが欠かせないはずなので、社員に浸透し風土になっていることが素直に嬉しいですね」

エンゲージメント・サーベイを活用しながらWANTの見える化を図りたい

“さぶりこ”は「働き方改革企業2019」の特別賞を受賞するなど、対外的な影響も大きく非常にうまくいっているように思えます。そんな中で御社が今現在、感じていらっしゃる人事課題というのはあるのでしょうか?

「もちろんあります。一番の人事課題はやりがい指数の向上。“さぶりこ”により個の働きやすさ指数は上がったのですが、やりがいの指数は下がってしまった。特に、チャレンジの土台になる安心できる職場かどうかの指数が低く……自分がチームの一員だと感じている指数が低いんですね……」

働きやすい環境なのにやりがいが下がる、というのはなぜでしょうか?

「ティール型組織は社員の自律が大切で、関係性もフラット。加えて働き方が自由であるため、意図的に繋がりを作るようにしないと自分がチームの一員かどうかを感じにくいのかも知れません。繋がりを持つというのは心理的な安心にもつながりますので、それらをどう生み出していくか、役員と人事で話し合いを重ねています。

弊社は横軸に業務、縦軸に組織がある二軸キャリアです。現段階では、人と人をつなぐハブ的な役割の人をピックアップしたり、フラットな組織体系から外れた方向に向かいそうな人をうまく誘導するような仕組みが急務と考え、専門の人材(カタライザー的な人物)を採用し始めています。

また、個々の評価は横軸のシニアプロデューサーが作成したレポートを元に、縦軸に位置するグループマネージャーが行っていますが、それに対して評価する側、される側どちらからも満足度が低い。そういう意味では、人事におけるテクノロジーの活用ももっと工夫すべきかもしれませんね」

御社ではすでにカオナビを活用いただいていると思いますが、その他にテクノロジーの活用で具体的に検討していることはありますか?

「エンゲージメント・サーベイの導入を考えています。それから現在はカオナビを評価用として利用していますが、もっとタレントマネジメントとして活用できないかと。単にデータを積み重ねるだけでなく、閲覧・入力しながらインタビュー(面談)するといった活用法で、人材の社内流動化につながるのではと考えています。

実は、社員の中には『やりたいことが見つからない』という人が意外と多いんです。キャリア自律の観点で、パラレルキャリア制度もあるのに、活用率は1ケタ台にとどまっていて……。人事と現場・部門とで感じる課題感が異なるせいか、1on1もうまく回っていないように思います」

1on1はやりたいことへと導く場のはずなのに、それでは意味がありませんよね。

「そうなんです。とはいえ、エンジニアをしながら行政書士の資格を取って、自ら希望して法務へ異動した社員もいます。ですから、カオナビなどをさらに活用することで“Wantを見える化”したいな、と。まずは人事と希望する部門が導入し、アジャイルで進めていく予定です。それに加え、HRテック活用の一環として感謝を伝えるツールとしてピアボーナス的なものを導入したいですね」

より、個を惹きつけるための肯定ファースト、リード&フォローの方針

お話を伺っていると、戦略的なエンゲージメント形成にかなり注力されている印象ですね。

「はい。エンゲージメントを高めるためにもやりがい、現時点ではチームバリューをどう醸成していくかを重視しています。それにはまず、社員の自己肯定感を高める試みも大切かなと。そこで、“肯定ファースト”、“リード&フォロー(導くも支えるもどちらも大切)”、“伝わるまで話す”という3点を、チームで働くバリューとして設定しました。“肯定ファースト”はalways肯定(常に肯定)ということではなく、まずは、相手を肯定し、尊重し、お互いに安心してコミュニケーションできる環境を作り、その上でしっかりと議論をできる風土を醸成したいので設定をしました。さらにその方向性を、人事が率先して行動で示すよう取り組んでいます。

“社員の幸せ”を常に意識していることが伝わります。

「弊社では“カスタマーサクセス“を掲げているのですが、では人事のお客様が誰かと考えたら、それは社員。社員が満足し、幸せになるような方策を考えるのは当たり前です。先ほど申し上げた“肯定ファースト”も、人は誰しも肯定されたい、という人の本質をもとに設定しました」

お金よりも人の獲得の方が大変と言われる今、人事に携わる人に欠かせない要素とはなんでしょうか?

「まずは、人のことについては責任をもち、経営にもi Messageで意見を言えること。
そして、今は、個の能力/マンパワーの奪い合いが激しいので、個人をいかに会社に惹きつけられるかにかかっていると思います。
そのためには、人事が社員のWHYに答え、共感を引き出し、社員がどう豊かに過ごしていけるか、各人に寄り添って対話し考え続けることが大事だと思います」

なるほど。他には何かありますか?

「業務推進はアジャイルで!がポリシーですね。『社長が言っているから』はNGワード。自分たちから実行・実践し、小さく始めて共感を広げていくことを大切にしています。“さぶりこ”の成功も、それが下地になったかも知れませんね。以前、『社長が言っているから』とトップダウンで進めたときは炎上して失敗した施策もありますから(笑)」

ときには失敗もあるんですね。成功したエピソードや、緻密に考えられた施策について色々伺っていたので、なんだか安心しました(笑)。最後に、矢部さんが働く上で大切にしていることはなんですか?

「感謝ですね。一人では何もできませんからね。弊社の人事施策は、ほとんどがメンバー中心でつくりましたし(笑)。マネージャーだからと偉そうにせず、常に、ありがとうの気持ちを伝えることを心がけています。

もうひとつは、自己一致ですね。私は、人はどこからでも変われるという軸を持っていますが、それを自分から行動で示したい。本当は変わりたいけど変われない社員に『わたしは自分が行動して変わった!』『だからあなたも変われる!』とちゃんと伝えて、小さな勇気づけができる存在でありたいと思っています」

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会社概要

社名 さくらインターネット株式会社
設立 1996年12月23日
事業内容 自社運営のデータセンターでインターネットインフラサービスを提供
従業員数 491名
会社HP https://www.sakura.ad.jp/corporate/

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