「飲食業界はブラックではない!」と広めたい。 現場を愛する人事が取り組む、体当たりの課題解決

シュラスコ専門店をはじめ、他ではなかなか味わえないメニューやホスピタリティを満喫できるレストランを、多数展開するワンダーテーブル社。「『飲食業はブラック』と言われるのが悔しい。業界全体のイメージを底上げしたい」と言い切る西島氏が取り組む、人事戦略と改革とは――?

Profile

西島 里沙

株式会社ワンダーテーブル
人材開発室 室長

2000年、新卒でワンダーテーブルに入社。様々な店舗でホールスタッフや支配人を経験。2013年に人材開発室に配属され、採用や研修プログラム構築に携わる。現在は評価からキャリアプランニングまで、人事業務全般を担当している。

ジェネラリストとプロフェッショナル、
どちらも活躍できるキャリアプランニングを

まず初めに、御社の事業紹介をお願いいたします。

「“新たな市場を拓き、嬉しいときを提供する”をテーマに『あったらいいな』という業態を開発し、ちょっとやそっとでは真似できないクオリティを持つ“ブランド特化型”の飲食店を国内50店舗、海外74店舗で展開しています。
この10年ほどは、お客様に愛され続けるためのフックとして専門店化を推し進めており、店舗数をむやみに増やすのではなく、“お客様から選ばれる特色・特長”を打ち出そう、というのが私どものブランド戦略となっています」

西島さんは現場経験もあり、社員の方とも積極的にコミュニケーションを図っていらっしゃったようですが、その中で感じられた人事的課題は何でしたか?

「研修制度とキャリアステップの整備です。これまで単発の研修はあったものの、あくまで一つのスキルやノウハウを学ぶ場でしかありませんでした。それをキャリアステップも踏まえたものへと変えていく必要性を感じたので、研修を増やしつつ体系的な仕組み作りに着手しました。現在は45講座を設定しています」

研修内容はどのように決めていったのですか?

「初めはどういう流れでプログラムを組めばいいのかも分からなかったので、他社の研修にたくさん出てみて、いいなと思う部分は真似してみたり(笑)。接客サービス、経営、衛生管理が主軸ではあるのですが、接客業に携わる者として幅を広げられる研修内容も取り入れています。
例えば“生産農家を訪ねて話を伺う”、“魚を捌く実習”などですね。
それをワンダーテーブル流にアレンジするよう工夫しています」

人気のある研修はなんですか?

「自由課目の中では、ワインや英会話ですね。資格取得を評価に反映させていますし、外国のお客様も増えていますので」

キャリアプランについては、どのように提示されてらっしゃいますか?

「会社としては“長く働いてほしい”というのが基本の方向性なので、キャリアの幅を広げる施策を模索しています。
弊社は支配人にかなり大きな裁量を持たせています。予算から人事管理、店づくりまで、ほぼ全権限を持つと言えるほどなので、やりたいことにどんどんチャレンジできる環境です。そのため、これまで支配人やマネージャーとして求められる人材像は、どちらかというとジェネラリスト的な人や経営者目線の人でした。
でも、何か一つのことを極めたプロフェッショナルの活躍の場が多いのも飲食業ならでは。人に教えるのが上手でトレーナーとしての手腕が高いとか、肉の知識や目利きが優れているとか、どんな技術も活かせます。そんなメリットを活かし、例えば卸し専門の上位職など、一つの技術に特化したプロフェッショナル路線を新たに設定したいと考えています」

店舗ごとの裁量が大きいというお話でしたが、目標管理や評価制度はどのようにされているのでしょうか?

「目標管理は基本的に1:1の面談方式で、店舗スタッフの場合は支配人が面談にあたります。それらの面談履歴や進捗状況はすべてカオナビで管理しています。
また、ユニット(役職やエリア、業態など)ごとのPEM(職能評価会議)で『なぜこの社員がこの評価なのか』をしっかり議論し、全社的な甘辛調整を行うとともに評価軸がブレることがないようにしています」

評価結果をプレゼンすることで、客観的な視点も得られますよね。

「時間も手間もかかるため、そもそも会議する必要があるのかという反対意見が上がることもありました。でも、この会議以外に社員全員の名前が上がる機会というのはありませんし、半年に一度のこの会議があるからこそ、成長も後退もせずに留まっている社員の存在を改めて見直すきっかけにもなってるのではと思います」

評価管理以外に、テクノロジーを活用している場面はありますか?

「研修履歴や資格取得、キャリアプランなどもカオナビで一元管理し、まとまった人事データを人員配置や育成計画に活用しています。
カオナビ以外では、メールにデータ共有機能を付加し書類管理できるようにしました。というのも、アルバイトを含めると弊社スタッフの1/4が外国籍のため、ビザや就労許可証の管理・届け出が大きな負担となっていたんです。
例えば『在留カードのコピーを持って来て』と頼んでも、なかなか持ってこなかったり、持ってきてもコピーが真っ黒で表情が全く判別できないものだったりすることも。
そこで、在留カードなどはスマホで撮った写真を共有すれば済むようにしたんです。当たり前のようですが、業務効率化には“紙ベース”で進んでいたタスクをデジタル化することが重要ですね」

1/4が外国籍とのことですが、人事として気をつけていることはありますか?

「社員、アルバイト問わず、スタッフには全員フィロソフィカード(企業理念、行動指針などをまとめたカード)を配布していますが、現在7カ国語で制作をしています。笑
また制度とは違う話にはなりますが、例えばある店舗の賄いではカレーを出すにしても、ベジタリアンやハラル対応など3種類用意しています。様々な文化が入ってくると大変なこともありますが、インバウンド目線がわかるので、今後のサービスをどのように進めていくかのヒントになりますし、得られるものは多いです。」

予算がなくても自ら動くことで
新卒採用を成功へ導く

大変ご活躍されていることをお見受けしますが、現場から人事に異動されたのはいつ頃だったのでしょうか?

「2013年です。
唯一いた上司は取締役で、内部の評価やメンタルフォローには携わっていたものの、人事だけにかかりきりになるわけにもいかなくて……。上司は会社全体を見ないといけない立場でしたしね」

右も左も分からない状態で、仕事も作らないといけないとなると、なかなか大変だったのではないですか?

「ちょうどその頃、リーマンショック以降しばらく止めていた新卒採用を再開しようという方針が決定したんです。同時に、全店舗でアルバイト採用の強化も図ろうということになり、必然的に人事の仕事が増えていきました」

人材強化にあたり、どんな取り組みをされましたか?

「まずは200名ほどいた全社員と面談し、現場の意見を拾いました。30分でもいいからとにかく話すことを心がけ、どんな人材が必要なのかを整理していったんです。
それから、新卒採用に対して当時は予算がなかったので、ひたすら学校などを巡り担当者にお話を伺いました。
採用に関する基本的なことも知らなかったので、ときには呆れられることもありましたが(笑)、『こうした方がいいよ』なんて教えていただきながら、なんとか採用を進めていきました」

すごいバイタリティと行動力を感じます。

「必要に迫られていたのもありますが、人と会うのが新鮮で楽しかったんでしょうね。結果的に、その年は3名の新卒を採用できました」

就活サイトも使わず、ノウハウもほとんど無い状況できちんと成果を出していらっしゃるのが素晴らしいですね。

「人手不足が今ほどは逼迫していなかったからというのもあるかもしれません。それから、外食産業の人事が集まる機会があれば積極的に参加し、情報を集めるようにしていたのも役立ちました」

なるほど。西島さんご自身が、人事業務で大切にされていることはなんですか?

「Face to Face、すなわち人同士できちんと向き合うことでしょうか。異動してきたばかりの頃は、現場の人から相談してもらうのに支配人やマネージャーなど2クッションを置くほどで、非常に時間がかかっていました。最近は“人事の西島さん”として、直接相談してもらえるようになってきましたが、そのためには相手からいかに信頼してもらい、腹を割った関係になれるかが大切だったように思います」

飲食業が天職に感じられた衝撃的な説明会

ところで西島さんはどのような経緯で御社に入社されたんですか?

「私は新卒入社です。当時は就職氷河期の頃で、マスコミやアパレルを受けては落ちるの繰り返し。学生時代、ずっとイタリアンレストランでアルバイトをしており、あまりにも身近な存在だったため飲食業界を受けていなかったのですが、まずは説明会だけでも、と訪ねてみたら、あまりにも面白くて! 現場経験のある社員の方は皆さん、とても生き生きと楽しそうにお話ししているんですよね。それを見て、『そういえばアルバイトもすごく楽しいし、きっと私にとって飲食業は天職なんだ!』と思い込みまして(笑)。飲食業界を3社受け、全てに受かりました」

3社受かった中で、御社への入社を決めた理由はなんでしょうか。

「“人”、でしょうか。そもそも、説明会のインパクトも大きかったんです。人事担当者として登壇した方が『私は現場が大好きで、ずっと現場で働きたい! 人事の仕事なんてしたくない!』と話し始め、慌てて関係者から降壇を促されるという……」

ええ? そんなことが?!

「ある意味ハプニングだったとは思うのですが、逆に『そこまで現場を愛する人がいるこの会社で、私も現場に立ってみたい!』と心動かされました。実際、入社後の店舗見学では、面白く魅力的な方にもたくさん出会いました」

とにかく現場が好き!どんな苦労も今の糧に

西島さんも入社後は店舗に配属されたのですか?

「はい。私はアルバイト時代の経験もありましたし、ワインのことも多少は勉強したつもりだったので、絶対イタリアンレストラン(東京ベリーニカフェ)に配属されると思いこんでいたのですが……。蓋を開けてみたら、鍋ぞうというしゃぶしゃぶ専門店に配属されました」

「その後はアメリカ発のロウリーズというプライムリブ専門店を日本で展開することとなり、その立ち上げスタッフに加わりました。アルバイトも1から採用しないといけない上に、1号店(赤坂店)は総席数400と大きく、女性スタッフが接客のメインを担当するというレギュレーションもあったので、てんてこ舞い。とても忙しかったですが、新規オープンや海外ブランドの日本展開という、まさにゼロから立ち上げる部分を学べましたし貴重な経験になりました。ロウリーズには2年ほどいて、その後、東京ベリーニカフェに配属となりました」

ようやくイタリアンに携わることができたわけですね(笑)。

「はい(笑)。その後、31歳でパンケーキ専門店の立ち上げを任されたり、居酒屋に配属されて全国レストラングランプリの全国大会に進出したりと、忙しくとも日々充実していました。居酒屋への配属後は、それまでの“かっこいい接客”とはまた違う、お客様の懐に飛び込むようなサービスを学べたことが心に残っています」

飲食業に就くことが、子どもの将来の夢として
真っ先に上がるような環境づくりを目指したい

今でも機会があったら、現場に立ちたいと思われますか?

「思いますね(笑)。実は異動を告げられた時は『いやです!』と即答してしまうほど現場が好きでした。
これから現場に立つ機会があれば、人事での経験を活かして、体当たりで離職を止めてみたいという思いもあります。でも、人事に異動してから採用した人が200人を超え、彼らの活躍を見ることも楽しくて。かつて店舗に立っていたからこそ、OJTの間に現場の面白さを伝えられるのも醍醐味ですし、私にとってはどちらの仕事も面白く、やりたい仕事なんです」

西島さんのお話を伺っていると、飲食のお仕事が非常に楽しそうに思えます。

「私、飲食業界はブラックだと言われるのが本当に悔しくて(笑)! 現場を知っている人事としてスタッフをサポートし、楽しく充実した職場づくりを目指すことで業界全体のイメージを底上げを図りたいです。ゆくゆくは、子どものなりたい職業ランキングに『レストランで働く人』がランクインするようになってほしいですね」

今後取り組みたい、人事課題はありますか?

「多文化・多国籍の話と繋がりますが、今後は外国籍のマネージャー・支配人も出てくるはずなので、その対応が急務です。
それから、女性やシニアスタッフが増えていることもあり、フルタイム/エニタイムだけではない働き方、そして人材育成を考える必要があるでしょうね。例えば“ランチタイム支配人”といった具合に、時間を区切った管理職制度もいいかもしれません」

それは面白そうですね! 新たな施策を次々と打ち出す西島さんにとって、“これからの時代に求められる人事”はどのような人材でしょうか。

「常々、人事こそプロフェッショナルでなければいけないと思っています。労務や法律などの専門知識を知ることはもちろんですし、その上で既定路線を打ち壊すようなアイデアを出し、遂行する能力も求められるため、グローバルな感覚も必要だと思います」

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会社概要

社名 株式会社ワンダーテーブル
設立 1946年
事業内容 飲食店の経営、フランチャイズチェーンシステムによる飲食店の募集・加盟店の指導
従業員数 276名
会社HP http://www.wondertable.com/

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