“圧倒的な信頼感”を得るために人事を科学し、性善説の組織づくりを支えたい
株式会社リブセンス |
人事部 部長
遠藤 正幸さん
2020.01.31
口コミによる情報透明化や、マッチング精度の高さで定評のある「マッハバイト」「転職会議」「IESHIL(イエシル)」などの情報サイトを運営するリブセンス。創業からまもなく14年、事業領域とともに組織もメンバーも変化を求められているという。大きな変革を求められる中で、人事が目指すべきことについて話を伺った。
Profile
遠藤 正幸
株式会社リブセンス
人事部 部長
大学卒業後、イギリスに留学。現地で知り合った人物に誘われ、ベンチャー企業に入社。帰国を機に教育関連の一部上場企業に転職し、100名以上のメンバーを取りまとめるマネージャー職などを経験。2014年にリブセンスに入社し、企画職に従事。地方支社立ち上げなどに携わった後、2019年7月より現職。
自己犠牲を伴う利他的な働き方に、持続性はあるか。自身の幸せと、会社の幸せが一致した転職を。
御社は口コミによる転職情報サービス「転職会議」などを手がけ、成長を続けていらっしゃいますね。御社の事業内容は、インターネットメディア運営が主と考えてよろしいでしょうか。
「現状はそうですね、しかし新たな事業も検討中です。創業からまもなく14年となる今、当時と比較して世の中に絶対的な正解がなくなりつつあり、会社を取り巻く環境もめまぐるしく変化しています。ちょうど最近、コーポレートビジョンである『あたりまえを、発明しよう。』へのビジョン回帰をおこない、既存事業であるHR領域や不動産領域のプロダクト価値向上だけではなく、それ以外の領域やビジネスモデルにもチャレンジし始めています。同時に、現在は第二創業期にあたるタイミングでもあり、組織づくりにも試行錯誤しながら取り組んでいるところです」
社内のカルチャーに、変化は感じていますか?
「そうですね。新しい雰囲気になりつつあると感じています。上場企業である以上どうしても目先の利益を追い求めたくなってしまいますが、私たちはもっと根本的な、“リブセンスで働く意味”を従業員自身が問い直すことを課題としています。もともと、“LIVE=生きる”と“SENSE=意味”を合わせた造語が社名の由来。『特定の利益に偏りがちな情報格差や社会の負を、テクノロジーを通じて解消していき、人々があらゆる意思決定を正しくできるような社会を作る。人々の幸せを追求した結果、私たちも幸せになる』というのがリブセンスの理念であり、存在意義です」
仕事や不動産を選ぶことは人生の大きな転機のひとつであり、幸福感を左右するものですものね。現在、人事のトップとして活躍されている遠藤さんですが、人事業務には長く携わっていらっしゃるのですか?
「いえ、2019年7月に人事部長となったのですが、それ以前は事業部の責任者や支社立ち上げなどに従事していました。大学卒業後、リブセンスを含めて3社経験していますが、約15年の社会人経験の中でも人事業務に携わるのは今回が初めてです。まさに偶発的なキャリアだと感じています」
転職先としてリブセンスを選んだ理由はなんでしょうか?
「結婚を機に、自分自身の幸せについて考え直すようになったからです。前職は教育を業とし、従業員も優秀で魅力的な会社でしたが、一方で、多少の自己犠牲が生じていました。前職での経験を通じて、自己犠牲を伴う利他的な働き方は長くは続けられないと思いました。
弊社は企業理念に“幸せから生まれる幸せ”を掲げています。誰かの幸せのために自身が犠牲になるのではなく、自分自身も幸せになるという考え方です。この理念を掲げた代表の村上は、自己中心的な野心がなく、社会をよくしたいという真っすぐな想いを持った人間。転職時の面接で感じた『世の中をよくしたい』というピュアな思いが入社の決め手となりました」
御社の規模感で、社長自ら採用面接にあたるのは珍しいですね。
「スキルだけでなく、人柄や姿勢も重視しているので、創業期から今に至るまで、最終面接には村上が参加します」
会社にシナジーをもたらし、
自身の糧にもなった地方支社立ち上げ
社長の思い、そして会社のあり方に共感して入社されたとのことですが、前社とのギャップなどは感じられませんでしたか?
「入社後は企画職として、企画業務とメンバーマネジメントをしていたのですが、前職でも100名以上いる組織のマネージャーを務めていたので業務自体には戸惑いを感じませんでした。人数の差はあれど、メンバーの構成比率などが似通っていたからかもしれませんね。ただ、カルチャーギャップは多少感じました」
どのあたりに感じましたか?
「前職は対面重視のコミュニケーションがベースで、従業員も同一性の高い人たちが多かった。それに対し弊社の場合、業務効率化の観点からコミュニケーションの半分以上はチャットで、一緒に働くメンバーも多様なバックグラウンドがあります」
大手企業とベンチャー企業を比べたときに、よく聞く差ですね。
「とはいえ弊社に入社した当時は『創業8年目の会社なのに、よくここまで大手とベンチャー双方の良さをバランスよく持っているな』と率直に思いました」
人事に異動されるまで、ずっと事業サイドのマネジメント職でいらしたのですか?
「大枠ではそうですが、入社した翌年に宮崎へと転勤になりまして」
宮崎ですか?!
「創業10年目を機に、雇用の拡大を兼ねて宮崎県にオフィスを立ち上げることになり、声をかけられました。一部業務の移管に加え、会社を拡大する過程で弊社が地方拠点を作ることで、少しでも地方創生に貢献できるのではという期待もありました。2年半にわたるオフィス責任者時代は、採用や育成、労務や総務、そして行政とのプロジェクトやその対応などありとあらゆる業務に携わりました」
まさに0からの立ち上げということで、ご苦労もあったのではないですか?
「大変ではありましたが、人員数や業務がどんどん拡大していくうちに、自社だけでなく地域にも貢献できていると実感することができ、非常に良い経験でした。東京ではチャレンジする機会に恵まれなかった人が宮崎で花開くなど、キャリア開発の場が広がったと思います」
宮崎時代の経験も、今の人事の仕事につながっているということですね。
「そうですね。振り返ってみると、宮崎時代には採用や育成、労務対応、宮崎独自の福利厚生策定、組織づくりなど人事領域全般の業務を経験することができました。その経験がまさか今につながるとは思いませんでしたが(笑)」
定性的だけでなく、定量的にみることで
人事のあるべき姿が見えてくる
人事に近い業務経験があるとはいえ、実際に異動のお話があったときは驚かれたのではないですか?
「宮崎オフィスの責任者からいきなり人事部へ異動したわけではないんです。宮崎の組織体制が落ち着いた2018年に本社に帰任することになり、転職サービス事業の責任者を務めました。人事部への異動はその後のことです。事業部や宮崎での立ち上げ経験があったからこそ、改めて組織の大切さを感じていたところでした。チャレンジングなオファーだとは思いましたが、弊社は、本人のためにならない会社都合の人事は絶対にしないと過去の経験から確信していたので、不満は全くありませんでしたし、飛び込んでみたいと素直に思いました」
会社に対しての信頼感がすばらしいですね。経営側は、どのような考えで遠藤さんを人事部長に抜擢されたのでしょうか?
「マネジメント経験と、多面的に会社と関わってきた現場感でしょうか。人事の前任者が人事制度や福利厚生などはきちんと作り込んでいたので、また違う視点からの可能性に期待された部分もあったかもしれません」
現場を知っているだけでなく、相応の事業成果を出しているからこそ声がかかったのでしょうね。実際に異動されてみて、会社の見え方は変わりましたか?
「はい。良い意味で人事と現場にはラインが引かれていたんだなと感じました。ただ、そのやり方は業務効率化には一定の効果があるものの、社員間の情報格差やミスコミュニケーションの要因にもなっていました。今は少しずつスタンスを変えているところです」
具体的にどんなことでしょうか。
「人事は、個人情報や人事データといった守秘性が高い情報を扱うため、どうしても現場と一線を引きがちです。フラットな関係性を良しとしつつも、扱っている情報の特性や公平性の観点から現場を敬遠しがちです。しかし信頼関係を構築するためには、まず人事から現場のために働きかけをしていく。情報をオープンにし、ときには事業部のミーティングや懇親会に参加するなど、人事から事業部に歩み寄る姿勢が大切です。また、人事業務は数字だけでは語りにくいものですが、それでも定性的だけでなく定量的に見ることも大切だと考えています。例えば、なんとなく差がありそうだと思われがちな、職種における評価の差異や勤務エリアにおける昇給率に、実は差がないことを理解してもらう場合などです」
その過程で、人事にテクノロジーを活用されていらっしゃる面はありますか?
「ええ、効率化と定量化を主目的としてHRテックを活用しています。実際に、実感値と異なるデータを発見することもあります。またテクノロジーを活用することで、少数精鋭で人事業務を回せるようにもなりました」
ビジョンと組織づくりを再定義。
生まれた施策をどんどん回すのが人事の役割
今現在、遠藤さんが感じている人事課題はなんでしょうか?
「リブセンスで働く意義を従業員自身が定義することだと思います。働き方を始めとして世の中が急激に変化し、キャッチーな企業理念や魅力的なビジョンを打ち出す会社が増えています。多くの選択肢がある中で、なぜリブセンスで働くのか。これは弊社だけではなくどの企業も同じ課題を抱えていると思います。そこで弊社は、その働く意義の醸成の一環として、2019年から“経営デザインプロジェクト”を始動し、リブセンスの価値や会社のあり方を再定義する取り組みを始めました。これにより私たちが大切にしたい指針や価値観がクリアになったと思っています」
経営デザインプロジェクトについて、具体的に教えて下さい。
「共同創業者の桂が主体となり、各事業部の若手メンバーから構成されたチームによって『わたしたちが変わるための9つの指針』を策定しました。事業だけではなく組織も含めた経営方針を定義し直すのが目的で、メンバー選定は完全なボトムアップ。かつての『リブセンスらしさ』を見つめ直し、改めてリブセンスで働く意義を感じられるようにすることが目的でした」
9つの指針はどのような内容ですか?
「①特定の利益に偏らない、②事業価値の反復的見直し、③学びとキャリアアップの推進、④挑戦を後押しする機会の提供、⑤自律性のための情報共有、⑥多様な働き方の実現、⑦差別、ハラスメントの根絶と平等の実現、⑧公正で納得のいく評価、⑨事業以外でも社会に貢献する、です。
どれもやれるならやったほうがいいけれど、実際にはなかなか制度や施策として落とし込めていないものばかりでした。たとえば、同性婚や事実婚への権利拡張や、リモートワークの上限撤廃、副業申請の廃止など。これらの施策を実施することで、一時的に生産性が下がるかもしれません。そのリスクも飲み込んで、9つの指針を経営側も合意したことは非常に意味があると思いますし、これらの指針の実現と売り上げや利益とを両立させることが人事としての役目だと考えています。難易度は高いですが、だからこそやる価値があり、一度きりの人生を懸ける意味があると思っています」
社員の方からの反応はいかがですか?
「ありがたいという声が上がる反面、2018年までの経営方針とは大きく変化したため多少の戸惑いも見られます。例えば、それまでは対面の良さを大切にしチーム一体となって働こうというスタンスだったのが、効率化やシステム化という視点からリモートや仕組みで解決できるものはしようと変わったこととか。
でも、私たちは『あたりまえを、発明しよう』をビジョンに掲げているので、人事領域も含めて、率先してあたりまえを作っていかなくてはと考えています」
性善説に基づき、データを提示しなくても
信頼してもらえるのが最終目標
指針を若手メンバーが策定していたり、指針の内容もかなり社員の自主性を重んじる傾向があり、かなり性善説で動かれているイメージを持ちますが……。
「社員はちゃんと正しい選択をしてくれるという信頼は、以前から弊社にあるカルチャーですし、最近改めて意識している部分ですね。データドリブンは人事課題の一つではありますが、それが目的になってはいけないと思っています。
『エンジニアが優遇されている印象だったが、データでみると意外とそうではない』とか、『東京と宮崎も昇給額の中央値はそこまで変わらない』といったファクトは非常に大切ですし、数字のほうが納得してもらいやすい。ただ、目指す先はデータがなくても安心してもらえる人事、そして会社です。さらに言えば、会社と社員の間に信頼関係があれば、説明すらしなくても通じる面もあるのではないでしょうか」
なるほど、一方で人事には秘すべき情報もあるとは思うのですが。
「もちろん、コンプライアンスやプライバシーは大切です。オープン化とプライバシー保護の関係のように、オープンにしていくことでプラスになるものと、オープンにすることでの弊害を考慮し、会社としての姿勢を決断することが重要だと思います。テクノロジーによる業務効率化と、対面によるコミュニケーションも同じですね。人事は社会の変化に応じて常に変化しなければいけませんし、科学することができると考えています」
人事に対して、科学できるのはどのような部分だと考えますか?
「今はすべての人事データを可視化しきれていないので、まずはデータを集めているところです。定期的にさまざまなデータを収集していますが、一つのデータだけで判断するのではなく、他のデータを照らし合わせながら立体的、多面的に推測しています。人事歴が長くない分、バイアスや過去の経験に引っ張られずに、ファクトとしてのデータを見られるのかなとも思います」
バイアスを外した視点を得られるのは、データの良いところですよね。遠藤さんは、人事に求められる人材像や資質はなんだと思われますか?
「一つの正解がない時代でもあるので、自分たちが信じる正解に向かって論理を作れる人物でしょうか。不可逆性は高いですが、仮説を立てて実行・チャレンジできる人。採用という側面では、とくにそれを感じます」
なるほど。最後に、遠藤さんが人事のお仕事で大切にしていらっしゃることを教えて下さい。
「経営指針の一つでもあるように、特定の利益に偏らないことです。『経営が言うから現場を無視して進める』、『現場が言うから経営と戦う』という特定の立脚点に偏ることなく、解決すべきイシューは何かをきちんと見定め、それらを最適な形で解決し、最大多数の最大幸福を実現していきたいです」
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会社概要
社名 | 株式会社リブセンス |
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設立 | 2006年 |
事業内容 | インターネットメディアの運営、データ分析・機械学習基盤の開発運用 |
従業員数 | 289名 |
会社HP | https://www.livesense.co.jp/ |