今後求められるのは、“グローバルジンジニア”。 山を愛する人事が注力する、多様性への取り組み (後編)

クラウドサービスを通じ、より便利で働きやすい環境を提案し続けているHENNGE株式会社。より優秀なエンジニアを採用するため英語公用化へと舵を切った同社は、多様性の課題に対し、どのように向き合っているのか。山小屋で働いていたという異色の経歴を持つ川野氏に話を伺った。
(本作は2回にわたってお届けします。前編はこちらから

Profile

川野 貴司

HENNGE株式会社
Business Administration Division Human Resources Section

大学卒業後、所沢市役所に就職。就職後に登山に魅了され、八ヶ岳の山小屋に転職し約2年間住み込みで働く。その後、人事へとキャリアチェンジし2018年にHENNGE株式会社(当時は株式会社HDE)へ入社、ペイロールチームのリーダーとして業務に携わっている。

まずは自分たちで実践し、課題を見つけ、
解決するのがHENNGE流

御社の話が出てきたところで、事業内容などについて伺えればと思います。御社は昨年、社名変更をされましたよね。

「はい、昨年2月にHDEからHENNGEへと社名変更し、10月に東証マザーズに上場しました」

ユニークで印象的な社名ですが、由来を教えていただけますか。

「『変化する時代に、自らを変革しながら世の中を変えて行く企業でありたい』という思いから名付けられました。事業としてはクラウドサービスを主軸としています。SaaSが普及する昨今において、セキュリティ強化に課題を感じている企業様は多いはず。そこでセキュリティ化を図るとともに、シングルサインオンによる集中管理機能を可能にしたのが“HENNGE One”です」

そうしたサービスを活用して、社員も働く場所を自由に選べたりするのでしょうか。

「ええ、働きやすい環境というのは人それぞれですし、そのとき抱えている業務によっても変わってくると思うんです。個室のようなところでこもって集中したいこともあれば、メンバーみんなで仕事を進めていきたい場面もある。ですから、オフィスの作りも様々な状況に柔軟に対応できる作りにしています。
また、多様な働き方の一環としてリモート勤務も推奨していて、沖縄で働いている社員も在籍します。様々な働き方を実践した上で、『こういう働き方をしたら不便だった』という課題をどんどん解決し事業に仕上げていくイメージです」

自社の働き方と提供サービスが、同じ思想でつながっているんですね。

「はい、私たちはこの職場を“実験の場のひとつ”として捉え、社会に製品を出す前に実際に使い、あらゆるメンバーを巻き込んで会社全体でトライアンドエラーを繰り返しています」

なるほど、自分たちで実験をし、そこで出てきた課題に対してソリューションを作っていくサイクルが出来上がっているのですね。

「代表の小椋は常々『私たちは失敗する。失敗をどんどんしていこう。100回失敗して、1回の成功をつかめばいい』と発信していて、その思想は社内に根付いていますね」

のべ1万人が応募するグローバルインターン制度。成功裏にあるのは、地道な海外活動

御社は約2割の方が外国籍で公用語も英語だそうですが、その背景やそこに至った経緯を教えていただけますか?

「英語公用語化を宣言したのは2013年です。当時はまだほとんどの社員が日本人で、TOEICの平均スコアは300点台という状況でした」

それでもやろうと舵を切ったのはすごいですね!

「正式に社内英語化したのは2016年10月です。当時のことを想像すると、自分たちが当たり前に使っているものを捨てる勇気はすごいですよね。背景としては、2013年当時エンジニアの採用が、国内だけではなかなかうまくいかなかったことがあげられます。事業を拡大しようと思っても、開発ができなければ事業が行き詰まってしまいます。
そこで、外国籍エンジニアを獲得するために2013年からGlobal Internship Programという取り組みを開始しました。2019年9月までの累計で、世界140の国・地域から、延べ約1万人の応募があり、ウェブ面接やコーディングテストを経てインターンを選んでいます」

インターンは毎年受け入れていらっしゃるんですか?

「ええ、延べ24の国・地域から89名がインターンを経験しています。ちょうど今も2名、来ています」

どうやって1万人もの応募者を集められたのですか?

「ひたすら地道な活動ですね。世界中のキャリアイベントに赴いてPRしたり、テック系大学で企業説明をさせていただいたりしています」

インターンを経て入社される方は多いんですか?

「インターンを終えた後、毎年何人かが入社しています。開発の部署だけでいうと半数近くが外国籍で、エンジニアチームはかなりグローバルな雰囲気です」

日本人という枠を飛び越えて考える、
多様性への取り組み

国籍・文化が様々という中で、人事として気をつけていることや取り組みはありますか?

「そこはまさに人事課題であり、多様性にどう対応するかを日々模索しています。英語を公用化しても、文化や言語の壁はまだまだあるのが実情なんです。例えば、日本人同士で集まるとどうしても日本語で会話してしまいますが、外国籍メンバーの中には『日本人だけで集まっている』ことへの疑いの目や疎外感が生じたりすることもあります。
そういう不信感のようなものが社内に広がっていくのはよくないので、“Transparency(トランスペアレンシー=透明化)”を全社的に取り組み、クローズにすべき理由がない情報はすべて公開することを徹底しています」

やりすぎというくらいやらないと、うまくいかないのでしょうね。

「日本人という感覚を飛び越えてやらないとダメですね。悪意ない行為が悪く捉えられてしまうこともありますから」

目指すべきは“グローバルジンジニア”。
グローバル×人事×エンジニアの重要性

今、人事として向き合っていらっしゃる大きな課題はなんですか?

「引き続き多様性の部分もありますし、直接の担当ではないものの採用面で大きく変えようとしています。それから人材定着という部分ですね。働きやすい環境を目指してはいますが、カルチャーが強い会社な分、ミスマッチが生じると修復が難しいことも。採用面接の段階で、求める人材やカルチャーについてもっと丁寧に説明したり、入社初期に行うサポート研修のプログラムをさらに充実させなければと考えています」

多様性があって、カルチャーが強くて、変化と挑戦をし続ける会社というのは、社員にとって刺激的で常に成長を実感できる一方、負荷もありますよね。社員同士のコミュニケーションなどはいかがですか?

「例えば弊社では、月2回のコミュニケーションランチを実践しています。日頃業務であまり関わりのないメンバー同士がコミュニケーションを取れる良い場になっています。また、どうしても日本人同士や外国籍同士で固まりやすい傾向があるため、その壁を壊すことも目的の1つとして取り組んでいます。多様性については、自然とうまく回る部分と回らない部分があるので、担当部署が中心となって社内コミュニケーションの活性化をはかっています」

最後に、これからの人事に求められるのはどんな要素だと思われますか?

「3つあります。
1つ目はグローバル。加速する今のグローバルな環境で生き抜いていくためには、語学面はもちろん、多様性への理解を深めて自分たちがグローバルな人材にならなくてはいけないなと思っています。
2つ目は人事としての専門性、いわゆる知識やスキルを深めていくこと。これは昔から変わらない部分かと思います。
最後にエンジニアリング。いわゆるテックという部分に関して能力を高めていくことがとても大事だと考えています。自分たちの業務を変えていきたいとき、テックが使えないと行き詰まってしまうことが多々あると感じています。文房具を使うときのように気軽に『このテックを使ってみようか』と言えるエンジニア的な知識や技術がバックオフィスにも必要ではないかなと。
これらを備えた人事のことを、“グローバルジンジニア”という造語でいつもお話するのですが(笑)」

グローバルジンジニア!

「グローバルと人事とエンジニアという3つの軸で仕事をしていくのは、これからの時代に欠かせないと思いますね」

その上で、川野さんが業務上大切にしていることはなんでしょうか。

「社員と経営との間でバランスを取ることです。どちらかに偏った目線しか持てないと、経営課題を無視した施策となってしまったり、逆に社員が置き去りになってしまう恐れがあります。やじろべえのように真ん中に止まっているだけではなく、ときには経営比重を高く、ときには社員側へ寄り添うといった具合に、自由に行き来することができるという意味のバランスが大事だと思っています」

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会社概要

社名 HENNGE株式会社
設立 1996年
事業内容 SaaS認証基盤、クラウドサービスの開発運用
従業員数 158名(2019年12月末日現在)
会社HP https://hennge.com/

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