正解がない人事の仕事は「仮説と検証の繰り返し」。営業から人事への転身で得た気づき(前編)

入荷から出荷までを代行することで、アパレル・ファッション・ジュエリー物流を総合的にサポートする株式会社オーティーエス。同社に総務として入社し、現在は人事として採用や教育研修などを担当するのが蘆田 英資(あしだ えいじ)さんです。新卒で入社したのは、まったく畑違いの不動産会社の営業職。そこからいかにして人事という仕事にたどり着いたのか。前編では人事になろうと思ったきっかけや、就任後の苦労を聞きました。

後編ではオーティーエスの人事課題や、採用に関する話をお届け

Profile

蘆田 英資

株式会社オーティーエス
管理部

新卒で不動産会社の営業職を経験後、職場環境の改善や労務関連の知識に興味に持ち、社労士事務所に入社。その後、企業人事をやりたいという想いが強まり、株式会社オーティーエスへ。入社して以降、人事として採用面接や教育研修をメインで担う。

「働く環境を改善したい」想いを強めた営業時代

まずはこれまでのご経歴をお伺いできればと思いまして、オーティーエスに入社する前も人事をされていたんですか?

蘆田さん

「現在の業務とは異なるのですが、社労士事務所で労務の業務をメインに担当していました。労務関連の業務を受託としてお受けするかたちで複数のクライアントを担当していたのですが、お客様のオーダー以上のことも以下のこともできない。だんだんと、裁量の余地のなさに、物足りなさを感じてしまって……。企業の人事をやりたくてオーティーエスに転職した、という経緯があります」

企業の人事として、具体的にどういう業務をやりたいと考えていたんですか?

蘆田さん

「憧れで言えば、やはり採用や人事制度を一から設計するプロセスに関わってみたいと考えていました。社労士事務所での社歴を重ね、ある程度自分のやれることのキャパシティも大きくなってきた中、そういう欲が出てきましたね」

人事への憧れは新卒のときから持っていたんですか?

蘆田さん

「そういうわけでもなく……。社労士事務所に就職する前の話をすると、僕は新卒で不動産会社の営業をしていました。そこは営業がかなり過熱で、常にプレッシャーと闘っていました。営業以外にも事務的な作業を抱えており、週のうち半分ぐらいは始発電車で帰るような生活が続いてしまい、体調を崩したんです。そこを1回辞め、当時は特に何かやりたいことはなく、一旦は契約社員として働いていました。そこで働いていた際にふと『契約社員でも有給休暇は使えるのか』という疑問が生じたんです。もともと大学が法学部だったこともあり、労働基準法を学校で勉強していたことも思い出し、そこから労務の知識を調べていくようになりました。今思うと、新卒で勤務していた会社での経験が働く環境を改善したいという想いを強めたこともあり、そのベースとなる労務の知識をインプットしたいと思って社労士事務所に就職したんです」

そして社労士事務所での経験から、今度は企業の人事になりたいと思ったわけですね。

蘆田さん

「はい。社労士事務所では複数の担当顧客を持っていましたので、クライアントとなる窓口の人事の方と、やり取りをしてました。話をする中でその企業の人事課題や取り組みに関する話を聞く機会が増え、試行錯誤の余地があることや裁量の大きさに魅力を感じたんです。企業の人事に対する関心が芽生えていきました」

その後、オーティーエスに人事として入社されたと。

蘆田さん

「それが最初は、厳密に言うと総務として入社したんです。ただ、1年半ぐらい経過したとき、前任者が他部署へ異動するタイミングで無事、人事に異動できました(笑)」

人事だから影響力があるわけではない。人事就任前後で感じたギャップ

会社としてオーティーエスに決めた理由は何だったんですか?

蘆田さん

「企業の人事をやりたいと思って転職活動を始めたとき、規模感さえ間違っていなければ良いと考えていました。あんまりにも規模の大きい会社だと、業務の一部分しか担えない。一方であまりにも小さすぎる会社だと、業務の幅が広がりすぎてしまい専門性を高められないと感じて。その中間ぐらいの規模の会社だったことと、面接官や社長の人の良さに惹かれてオーティーエスに入社しました」

いざ人事の業務を始められて、元々描いていた人事像とギャップはありましたか?

蘆田さん

「人事は、全社に影響力がある存在だと思っていたんです。でも、当たり前ですが、全然そんなことはない。人事だから影響力があるわけではなく、〇〇さんが人事をやっているから影響力があるすごく属人的なものなんだなと、ギャップを感じましたね。その点、人事に異動した当社、僕はまだ入社して2年経たないぐらいでしたので、社内に顔見知りの人もそんなに多くはない。『この人だれ?』と思っている従業員の方が、多い状況だったと感じます」

その後、ギャップは埋まっていきましたか?

蘆田さん

「いきなり影響力が強まるわけではないですから、一つひとつの積み重ねしかないですよね。つまり、従業員の方一人ひとりと、関係性を丁寧に作っていくしかないと思いました

どうやって関係性を作っていったんですか?

蘆田さん

「例えば他の事業所に仕事で行ったとき、従業員の方に声をかけられるタイミングがあれば、自分から話しかけるようにしました。それにより、少しずつ自分の存在を認知してくれる方が増えていきましたね。ただ、いろんな従業員の方とお話しをする中で感じたことですが、人事に対して結構壁を持っているんだなと。あえて人事側から接点を作りに行くと、裏の意図はなんだみたいな感じでちょっと構えられるんです。そこで、目的がなくともちょっとした雑談をするようにしたことで、人事になりたての頃より、壁は取れてきていると感じます」

蘆田さんから従業員の方と積極的にコミュニケーションを取るようにしたわけですね。

蘆田さん

「そうですね。元々、僕の直属の上長や社長が、仕事の話に限らず雑談も重要視しているタイプなんです。関係者と事前にコミュニケーションを取っておくことで、取り組みに対する理解などが得られやすいという考えもあります。本来であれば僕は性格的に自分から積極的に話すタイプではないのですが、そうした上長や社長の価値観に背中を押されている部分もありますね(笑)」

正解がないからこそ仮説と検証を繰り返すのが、人事の仕事

コミュニケーション以外に、人事業務で苦労した経験はありますか?

蘆田さん

「もうずっと苦労しっぱなしです(笑)。例えば、人事になり立ての頃は前任者のやり方をそのまま踏襲してやっていくので精一杯でした。苦労とはまた違うかもしれませんが、自分の裁量で活動していた感覚はないですね」

逆に言うと型を作る期間があり、その型をもとにブラッシュアップしていく期間が今ってことですよね。

蘆田さん

「そうですね。自分より人事経験の長い方が付き添ってくれるという環境ではないので、ネットや書籍、セミナーなどで収集した知識をもとに、今も試行錯誤の連続です。例えば採用にしても、コロナ前後で求職者の集まり方、他企業との比較や、選考に進むスピードなどが大きく変わり、環境に合わせて常にブラッシュアップしていかないといけない。人事の仕事に正解はなく、本当にこの施策が合っているのかなかなか判断できないからこそ、仮説と検証の繰り返しが大事だと改めて気づきました。そのためにはインプットもアウトプットも、量も増やさなければいけない。持ち得る情報を材料に検証し、これをやるって決めて、施策は打ちますが、本当に大丈夫かなという不安は常にありますよ。でも、試行錯誤の余地があるからこそ面白い仕事だなとも感じています」

コロナでの採用はどのように変わったと感じますか?

蘆田さん

「物理的に会うことが制限され、オンラインが増えたからこそ、面接のハードルが下がり、学生さんはすごく数を打っているなという感覚があるんです。ただ数をこなすことや動きの早さに飲まれ、自分が本当は何をやりたいのか、やるべきなのかを十分に考える時間を失っているように感じます。そういう課題感を感じ、弊社では自己分析や自己理解をテーマにしたセミナーを開催するようになりました。もちろん狙いとして『自社に興味を持って欲しい』という想いもあります。ただそれだけでなく、学生にとっての内省を促すことで自己理解の場にして欲しいという気持ちがあるんです。自分を理解した状態で面接を受けてもらわないことには、仮に『採用』となり、入社したとしてもミスマッチが発生しやすくなる。そうなると、学生側も採用する側の企業も、お互いが不幸になってしまいますからね」

学生さんの変化は具体的にどういった行動で感じ取れますか?

蘆田さん

「具体的なシーンで言うと、説明会を開催しても学生側から質問がまったく出てこないんですよ。『質問がある人』って聞いたとき、シーンとする場面が多い。『なぜ質問がないんだろう』と考えたとき、自分の中で会社を見極めるポイントがないからだろうというのが、僕の理解なんです。自分の中で会社を選ぶ軸を持っていたら、質問が湧いてくると思うんですよ。でもそれがないのは説明する側が寂しいのはもちろん、学生さんも聞いていて本当に楽しいのかなと思う。こうやって言っている僕自身が、就職氷河期世代で『内定をもらえればいいや』ぐらいの感覚で失敗した人間。今は人事になり、せっかく就活中の学生と接するポジションにいるわけなので、自分の経験も踏まえても学生も企業も幸せになる採用を目指したいと思うんです」

採用において、学生を見極める上での苦労はありますか?

蘆田さん

「面接だけだとやっぱり良くも悪くもわからない。精度を高めるためにも、面接だけでなく職場体験を通じて学生さんに何日間か働いてもらい、働く場を見極めてもらうようにしています。願わくば1〜2ヶ月ぐらい業務現場に入ってもらい、学生さん側の見極めはもちろん、企業側もその人のパフォーマンスを見ることができたら理想ですよね。その短縮版として今は職場体験を行っているイメージです。とはいえ、これが正解とも思わない。面接だけでは限界があると感じつつも、ほかに代わる手段がないか、考えているところです」

人事として自分の存在を認めてもらうためにも、従業員の方とのコミュニケーションを大切にしてきた蘆田さん。続く後編ではオーティーエスの人事課題や、蘆田さんがメインで担当する採用にかける想いを中心にお届けします。

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会社概要

社名 株式会社オーティーエス
設立 1986年
事業内容 ファッション物流に関する一切の業務
従業員数 833名(2020年9月現在)
会社HP https://www.e-ots.jp/index.php

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