制度を作るのも、人を育てるのも、人事こそ「クリエイティブな仕事」(後編)
株式会社ポニーキャニオン |
人事総務本部 人事総務1部 マネージャー 兼)HR戦略室
森 ひとみさん
2022.02.14
前編では、森さんがポニーキャニオンに入社し、営業や宣伝を経験した後、人事に就任するまでの過程の裏側にある想いを伺いました。続く後編では、発見した人事課題を解決するために行った人事制度改革や、「人事はクリエイティブな仕事」と話す理由を紹介していきます。
前編はこちらから
Profile
森 ひとみ
株式会社ポニーキャニオン
人事総務本部 人事総務1部 マネージャー 兼)HR戦略室
大学卒業後、ポニーキャニオン入社。音楽部門の営業、制作宣伝を経て、2018年より人事総務業務に従事。HR戦略室では人事制度改革や組織・人材開発に取り組む。
多くの人が納得する制度作りで大事な「反対意見の収集」
人事総務本部との兼務で、現在はHR戦略室で人事制度改革や人材開発にも携わられているんですよね。
「はい。HR戦略室では、人事制度の仕組みから作っています。それを運用したり社内に浸透させたりする役割が、人事総務本部というイメージです。未来志向で考えるのは比較的好きなんですが、一方で考えたことを施策に落とし込み、運用していく過程で頭を切り替えないといけない。それが大変ですし、楽しいと思う部分でもありますね」
未来思考で考える部分だと、ポニーキャニオンでは「VISION2030」という取り組みも実施していますよね。
「はい。VISION2030は元々、中堅社員を集めて自分たちの会社を今後どうしていきたいかという話から始まり、それを夢に終わらさず、施策として実行していこうということで立ち上がった長期経営計画プロジェクトです」
プロジェクトを推進していく中で意識していることはありますか?
「賛同する人ばかりだと、議論ではなくなってしまいます。そのため、賛同する人が多い中でも、立場に関係なくしっかりと反対意見を言える方に入ってもらい議論を活性化させることは心がけていますね。あえてそういう人を入れることで、議論がダラダラしてしまうこともなくなり、引き締まるんです」
幅広い意見を集約し、施策に落とし込むわけですね。
「そうですね。自分の意見に賛成の人ばかりを集めて話をした方が、物事は進みやすいと思います。ですが、いまは多様性の時代と言われるように、いろいろな方の意見を取り入れながら施策に反映した方が、結果的に多くの人が納得する制度ができあがると考えています」
その中で、現在は人事制度改革にも取り組まれているところだと思いますが、施策を実行する中での苦労はありませんか?
「やはり、社員に向けた分かりやすい説明や、興味を持ってもらう過程が大変ですね。そこは現在進行形で苦労している部分です」
興味を持ってもらうためにどういった工夫をされているんですか?
「評価制度の見直しにあたり、評価者向けに役割認識やスキルをインプットする研修を実施しています。また、ケーススタディ形式のグループディスカッションなどを通じて、アウトプットによる定着化も図っているところです。被評価者向けには、評価制度の役割・運用のポイントを伝える動画を作成し、いつでも見れるようにしています。なるべく、見直した制度について社員にどうだったのかを聞くようにもしていますね。なぜか人事は経営陣と近いみたいな印象を持たれがちですけど、そんなことまったくなくて中立の立場。良い制度を作るためには、経営陣に納得してもらうだけでなく、社員にも納得してもらう必要があると考えていますから」
『社員全員クリエイティブであれ』という社内文化は人事の仕事にも当てはまる
人事制度改革を行うにあたり、元々、どういった人事課題があったのでしょうか?
「給与設計や評価制度の部分ですね。エンゲージメントリサーチを通じて社員の声を聞いた結果、若手ほど評価と昇給の紐付きが弱いことや、評価基準の不透明さに不満を持っていました。また、年功序列の名残もあり、昇給するときは年齢とともに金額もある程度横並びになったり、あの人は何をしているか分からないけど、給与が高いと思われてしまったりといった課題もありました」
課題を解決するために、まずは何から始められたんですか?
「最初は評価と昇給が紐づくかたちで、給与制度を改定しました。ただ、ビジョン2030の中で『ポニーキャニオンは10年後どうありたいか』という話を行ったとき、その理想の姿を実現するために社員はどうあるべきか、『人材像や行動指針』を定義する必要が出てきたんです。そこで、カオナビのセミナーでもお伝えしましたが、コンサルティング会社のフィールドマネージメント・ヒューマンリソース(FMHR)さんに入っていただき、人物像や行動指針を定義していきました。その際、ポニーキャニオンらしい社員とはどんな人物か、社内インタビューしたのですが、ある社員が『うちの人間はCUTE(キュート)だよね』と話したんです。そのとき『これだ!』と思い、CUTEの頭文字を使って『Creative』『User First』『Talent』『Enjoy』という人物像を定義していきました。定義した人物像をもとに、各等級の役割や職責を明確化するかたちで等級制度も変更。評価に関しては『会社全体の生産性を考えても、社員のがんばりに序列をつけることも大事』というFMHRさんの言葉を受け、相対評価を取り入れました。報酬制度も評価と昇給の紐付けたことで、がんばったらこれだけもらえるんだと可視化することで、若手社員のモチベーション向上につなげたいという想いがあります」
人物像、等級、評価、報酬と改定していったわけですね。施策に取り組む中で苦労もされているかと思いますが、一方で人事としての仕事のやりがいについても教えていただけますか?
「やはり社員が生き生きと働いているのが見えた瞬間ですね。人事制度を作り、『いい制度ができましたね』と直接声が届くと、きちんと整えてよかったなと思います。ただ、制度を作ったときの達成感はありましたが、いまは少し落ちている瞬間かもしれないです(笑)。人事の仕事って淡々とやるように思われがちですが、制度ができてひと段落というわけにはいかず、今度は社内の声や環境の変化に対応しながら運用していくなど、波がありますよね」
「人事と言う職種に波がある」イメージって意外と持たれていない印象です……。異動される前と後で、人事に対する考え方は変わりましたか?
「私自身、人事総務本部に来るまでは決まったことを決まったときにやるルーティン業務が多いイメージがあったんです。でもうちに限らず、人事の仕事って正解がないし、0から1で制度を作るなどクリエイティブな仕事でもあるなとすごく感じます」
「人事の仕事はクリエイティブ」。良い言葉ですね!
「弊社の文化も影響していると思いますが、『社員全員クリエイティブであれ』と言ってるんです。そして、それは人事の仕事にも当てはまると本当に思いますね。人を育てるのも、制度を作るのもクリエイティブ。例えば人事制度改革にあたり、評価基準やグレードの定義など、上長に繰り返し添削してもらいながら長い時間、考えました。そのときも本当にクリエイティブな時間でした。採用もクリエイティブですよね。インターンシップをやりますと言っても、その中身から学生への見せ方まで考えないといけない」
ある種、マーケティングとも近いですよね。
「はい。なので、マーケティングで言うところの顧客が求職者や社員に代わっただけで、そこのニーズを拾いながら企画を考える必要がありますよね」
社員がクリエイティブな仕事に注力できる環境を作る
人事の業務は正解がないことも多いからこそ、何か参考にされているものや、情報収集はどうされているんですか?
「業界団体などが人事同士をつなげてくれたりするので、二ヶ月に1回程度、設けられる話し合いの場に参加し、お話を聞かせていただくこともあります。セミナーに参加したり、人事の方のツイッターを見て企画を思いついたりなどもありますね。また、これが特徴的かもしれないですが、私が直感型なので、思い立ったときにやらないと飽きちゃうんです(笑)」
一度実行に移して、やりながら修正していくイメージなんですね。
「はい。毎年微調整を繰り返し、その年の流れにフィットするよう、変えていくようにしています」
ありがとうございます。最後になりますが、未来の話もお伺いしたいと思い、これから目指す理想の人事の姿があれば教えていただきたいです。
「世の中の流れがすごい勢いで変わってきてますよね。こういう時代だからこそ、人事が社会の流れやあり方を理解し、時代にフィットした働く環境を提供していきたいと考えています。また、社員が一人ひとり、やりたいことを実現しようとがんばっているわけじゃないですか。それを実現しやすい環境作りもそうですし、欲しているスキルを提供できるようにうまくキャッチアップしていけたら良いなという想いがあります」
社員の方が、よりクリエイティブな仕事に注力できる環境作りを目指しているわけですね。
「はい。身近な人事のメンバーにも、自分たちの仕事はクリエイティブだということを理解して欲しいですよね。現場から離れる寂しさもあると思うんですが、それが分かると、楽しくなってくると思うので」
編集後記
「人事はクリエイティブな仕事」。エンタメ企業の人事ならではの森さんのこのセリフは、人事の仕事を改めて捉え直してくれるとてもインパクトのある言葉だなと感じ、取材中「タイトルに使いたい」と思いました。「クリエイティブな業務に注力してもらうための環境作りが、人事の役割」と話していた森さんですが、そんな人事の仕事もまたクリエイティブ。「クリエイティブな仕事」と捉える姿勢こそ、大きな人事制度改革を推進していく原動力になっているのかもしれません。
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会社概要
社名 | 株式会社ポニーキャニオン |
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設立 | 1966年10月1日 |
事業内容 | 音楽、教養、文芸、スポーツ、映画、娯楽など各種オーディオ・ビジュアルコンテンツ、及び書籍の企画、制作、販売、映画配給、イベントの企画制作、地方創生事業 |
従業員数 | 450名 |
会社HP | https://www.ponycanyon.co.jp/ |