当事者意識を生む秘訣は「社員のやりたいを受け入れる包容力」(後編)

前編では堺さんがリクルートに入社し、財務担当やクラブハウスの運営、新規事業開発などに携わり、最終的にクロス・マーケティングに入社するまでの道のりを紹介しました。続く後編では、同社の人事課題を踏まえ、前編でも話に出た社員に当事者意識を持ってもらう秘訣に迫ります。

【前編はこちらから】

Profile

堺 啓一

株式会社クロス・マーケティンググループ
コーポレート本部長

リクルートで28年間、管理部門の担当や新メディア・新規事業の立ち上げを経験。「もっと勢いのある会社にしていきたい」という社長の思いに共感し、2014年にクロス・マーケティングに入社。人事・総務・広報など、管理部門を幅広く担当する。

2ヶ月間でM&Aした企業の統合作業。貴重な経験だからこそ面白い

クロス・マーケティングに転職してから、最初にどんな業務を担当したんですか?

堺さん

「最初は経営企画室として入ってきたのですが、2日目からは当時M&Aしたばかりの老舗のリサーチ会社に一人で赴任する役割でした。M&A用語で『PMI』と言うんですが、M&Aした後の統合作業を行ったんです。クロス・マーケティングのこともよく分かっていない状態でしたが、2ヶ月の間に、彼らもクロス・マーケティングの本社に引っ越しをしてもらう必要がありました。それを機会に就業規則などもすべて揃える必要があったんです」

同じ場所で同じように仕事するから、就業規則を揃えようってことですね。

堺さん

「ええ。退職金や年金制度なども異なる中、それを2ヶ月で移行させる必要がある。あまりにも急な話なので、もちろん反発も出てきますよね。で、円滑に移行するために何をやったかというと全員と飲んだ。毎日17〜18人ずつぐらい集めて。全員と腹を割って話し、生身のコミュニケーションを取るようにしたんです。そしたら徐々に、外部から来たぼくのことを信用してくれる人が一人二人と増えていきました。この2ヶ月間はほとんど土日も含めて休みなく働きましたが、無事、移行も完了。こんな経験はなかなか積めないから、面白かったですね」

とても大変そうです…が、面白いという感覚なんですね。

堺さん

この年になっても新しいことを学べること自体が嬉しかったんですよね。ただ、同じ業界とはいえ、仕事のスタイルも老舗と比較的新しい企業では異なる。例えばクロス・マーケティングは営業部門やリサーチャーなど、分業が進んでいる会社。比較的新しいリサーチ会社はその傾向が強いんです。一方で老舗のリサーチ会社は、一人の担当業務が幅広い。お客さんと話をしながら調査票も作り、レポート書きも全部やる。ただそうなると、新しいクライアントを見つける、要するに営業活動にあまり工数を割けないんです。競合会社もどんどん出てくる中、常に新しいお客さまも少しずつ取り込んでいかないといけない状況もあり、クロス・マーケティングの仕事のスタイルに慣れてもらうまで、時間がかかった方も多いと思います」

ミッションとビジョンの定義で社員の自律性を高める

その後は何をされたんですか?

堺さん

「今度は、自社のマーケティングや業績管理、営業のサポート部門全体を見てと言われました。その過程で3年目から、人事もみるようになったんです」

まず人事としては何の業務から始めたんですか?

堺さん

「採用や教育に携わるのはもちろん、カルチャー浸透をメインに行いました。当社では『未来をつくろう』というミッションや『やればいいじゃん』というビジョンなどを定義し、それをカルチャーブックとしてまとめ、社内に配布しています。ただそれだけでなく、ファミリーデイやイヤーエンドパーティ、キックオフミーティング、年間表彰式など、社員同士でつながる機会も増やしたんです。これまでもこの会社なりにやってきたことでしたが、より規模が大きく組織が複雑になってきた中で、その瞬間、誰もがカルチャーを再認識できるようなイベントのプロデュースに私自身は関わってきました。細かいルールを設定する以前に、まずは会社としての方向性を明確にし、カルチャーの浸透を促す。それが、社員の自律性を高める上で大事だと考えていたためです」

人事業務で苦労した経験はありませんでしたか?

堺さん

「うーん…。正直言うと、苦労という意識はなかったんですよね。人事になると、労働基準法や社会保険など、これまであまり触れてこなかった専門的な知識も学ぶことになる。先ほどもお伝えした通り、新しいことを学べること自体、面白かったんです。あとはトラブルってもちろん起きない方が良い。でも、私は、トラブルが起きるからこそこれまでにない経験や知見を蓄積できるとも考えているんです」

その考えも、堺さんの行動の原動力になっていそうですね。

堺さん

「リクルート時代から思い返すと、確かにそうでしたね」

「できなくてもいいからやってみよう」信じて任せるから成長につながる

ここで話は変わりますが、自社の人事課題はどう捉えていますか?

堺さん

「クロス・マーケティンググループ全体の人事課題でいうと、入社3年以内の離職率を下げたいと考えています。そのためにも年に一回サーベイを行い、離職を検知したり、手を挙げさせたり、チャンスを与えたりする仕組みを整えようとしているところです。それだけではなく、若手の抜擢も積極的に行っていきたいと考えています。とくに20代マネージャーの抜擢ですね。また、ビジネスの特性として、ローテーションが難しいところもあります。営業やリサーチャーなどそれぞれが専門性を持っているため、ローテーションがしづらいんです。だからこそ、戦略的な異動によって、できるだけ機会を与えたい。そのためにも各グループの人員にゆとりを持たせて、異動が発生しても業務に支障が出ない環境を整えようとしているところです」

機会を与えるという考えは、前職の経験も活きてますか?

堺さん

「はい、やっぱり前職でも人を動かしてましたね。例えば、大宮支店で営業部長をやっていた人がいきなり総務部長になるなど、まったく経験のない役割を与えられることがあるんです。周りのスタッフがちゃんと支えるのはもちろんですが、やはり当事者意識を持つカルチャーがあったので、総務部長を与えられたからには『俺が総務のスペシャリストになってやる』という意識があったんです。そのカルチャーがあるからこそ、異動して新しいことを始めても馴染めるし、社員も成長できる。うちの社長も当事者意識はかなり重要視していて、やっぱりそこに尽きる。目の前にいるクライアントや、自分のやっている業務に対して当事者意識を持てるかどうか。会社としては、そのカルチャーを作ることが大切だと考えています。そのためにも人を動かしてどんどん挑戦の機会を与えながら、『できなくてもいいからやってみよう』と、信じて任せる包容力が必要ですよね」

挑戦を受け入れる包容力が、当事者意識を持ってもらう環境づくりでは大事なわけですね。

堺さん

「はい。そのカルチャーを作るためにもミッションやビジョンの浸透が必要だと考えています。例えば『やればいいじゃん』というビジョンを定義したことで、それに背中を押されるように、一部の社員がどんどん動くようになってきた。新サービスについて社内共有すると『自分も参画したい』という声が若手からあがるようになってきました。そういうときにはできるだけ機会を与えるようにしています。ぼくらの3年と若手の3年は意味が違う。若手の3年はとても長いし、飽きやすい。だからこそ、こういうときに上がる声は大事にしていきたい。それが、単に『逃げたい』でなければ、ですが」

ミッションやビジョンの浸透が、社員の行動を変える例も出てきたわけですね。

堺さん

「はい。今後はミッションやビジョンを人事制度にも反映させながら、この動きを加速させたいと考えています。世の中的な流れとしても転職するのが普通。会社に対する『ロイヤリティ』という言葉も、死語になりつつあるのではないかと考えています。とくに当社みたいに、スペシャリストの方が集まると、その傾向は強まる。その中で社員のキャリア支援を考えるとき、やはり新しいことに挑戦できるように、機会を与えながら、当事者意識を持ってもらう環境づくりに注力していきたいですね」

ありがとうございました!最後に、今後やりたいことがあれば教えてください。

堺さん

「若い世代にどんどんバトンタッチしていきたいです。抜擢の話にもつながりますが、『これがやりたい』というやる気があれば年齢に関係なく、任せていきたいと思います。ぼく個人でいえば、これまでやはり仕事に時間を注いできた人間なので、クロス・マーケティンググループを引き続き大きくしていくのはもちろん、いずれはまた、企業の立ち上げもやりたいと思っています。新しい経験が会社にとっても個人にとっても財産にもなる。そうして蓄積した経験を、次の世代に語り継いでいきたいですね」

編集後記

物腰が柔らかく穏やかな雰囲気の堺さんから語られるエピソードは、どれも口調からは想像できないほど濃密なエピソードばかり。正直、この記事には書いてないエピソードが、まだまだたくさんあります。「トラブルが好き」とご本人は冗談めかして話していましたが、逆境を面白がるからこそ、いきなり任されたクラブハウスの運営や、2ヶ月間もの短期間で行った統合作業など、振り幅の大きい経験をできるのでしょう。堺さんご自身がこれまで経験してきた唯一無二で、数多くの経験は、ぜひ語り継いで欲しいと思いました。

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会社概要

社名 株式会社クロス・マーケティンググループ
設立 2013年6月3日
事業内容 デジタルマーケティング事業、データマーケティング事業及びインサイト事業を行う子会社等の経営管理及びそれに付帯または関連する事業
従業員数 1361名(内、臨時従業員250名)※2021年12月末時点
会社HP https://www.cm-group.co.jp/

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