遠い人事ではなく「近い人事」へ。そのために必要なアジャイル開発の考え方(後編)

前編では、池谷さんがシステムエンジニアを経て人事に至った道のりと、人事の仕事のやりがいについて話を聞きました。続く後編では、クレスコの3つの人事課題とそれを解決するための施策のほか、「遠い人事ではなく近い人事」を目指す理由を聞きました。
【前編はこちらから】

Profile

池谷 幸子

株式会社クレスコ
人事部

新卒で株式会社クレスコに、エンジニアとして入社。その後、2021年度に人事へとキャリアチェンジし、カオナビの運用や中途入社者のメンター事務局を担当。エンジニアとしての経験を活かし、人事業務以外にも社内の業務効率化・RPAの開発に携わる。

定着率向上のために導入したメンター制度が、コロナ禍で高評価

現在の人事課題は、いまどういったものがありますか?

池谷さん

「まず1つ目はキャリアパスですね。以前は、入社したらエンジニア、リーダー、サブリーダー、マネージャー、というようにルートが決まっていました。そうすると、例えば現場で技術を磨いていきたい人や現場でお客様に寄り添って仕事をしていきたい人などは転職するしかなくなってしまう。それで、2021年に人事制度を刷新し、各個人が自分の希望するルートを選べるようにしました。もちろん、会社の要望もありますが、トップダウンで等級に合った業務や目標を課すだけでなく、個人の希望とリンクさせるようにしています」

スペシャリストか、管理職か選べるようにしたわけですね。

池谷さん

「はい。そして、2つ目は社員の情報の可視化です。現場でも社員のより詳しい情報を知りたいというニーズがありましたが、経営層からもリクエストが来ています。そこで、カオナビの『チャートボード』でグラフを追加し、今後もっとどのような情報が欲しいか反応を伺っているところです。見える化したデータを使って、今後どう施策につなげていくかも課題ですね。3つ目は社員の定着率の向上です。新卒の方も中途入社の方も、3年以内に辞めてしまうケースがあり、それをなんとか食い止めたいと考えています」

定着率を向上させるためにやっている施策はありますか?

池谷さん

「社員満足度の向上が重要だという仮説のもと、まずは社長賞などの表彰制度をブラッシュアップしました。がんばったことに対して評価され、『ありがとう』と感謝されるのはやっぱり必要なことですよね。以前は『業績優秀賞』『貢献賞』の2賞でしたが、2021年度から優秀な成果をあげた『業務貢献部門』、高度な技術や難易度の高いことに挑戦したことを表彰する『テクノロジー部門』や『チャレンジ部門』、ステークホルダーの満足度に貢献した『特別賞』の4賞となり、さまざまな観点から表彰しています。それから、私がメインで関わっている取り組みとして、メンター制度も導入しています。これは新入社員だけでなく、中途入社の方も含めて、入社直後のサポートを手厚くしようという施策です」

メンター制度ではどんな業務を担当されているんですか?

池谷さん

「さまざまな業務に関わっていますが、私はとくに中途入社の方のメンター事務局を担当しています。中途社員は即戦力で仕事ができて当たり前という目で見られがちなせいか、アドバイスやフィードバックの機会をあまり得られず、それが原因で会社に馴染むのに時間がかかることがあります。そういう人たちを支援するために、外部講師を招いて研修を行ったり、一人ひとりにフィットするメンターを選定したりするのが主な仕事です。とはいえ、メンターをあてがって終わりではなくて、折々に困ったことがないかを聞いてみるなど、メンターの方にもメンティーの方にも、個別にコミュニケーションを取っています。中途入社者の場合、新入社員と違って入社時期がバラバラになりますが、研修の都合もあってペアの選定や活動のスタートを年度初めに統一しています。今後はもっときめ細かく支援するため、中途入社者には入社後すぐにメンターをつけられるよう、いまやりかたを考えているところです」

メンター、メンティーの方からはどんな反響がありましたか?

池谷さん

「コロナ禍でコミュニケーションが減っている現状で、ますます、メンター制度の評価は上がっています。目安として一ヶ月に一回、一時間は少なくとも話をする機会を作っているんですが、『雑談ができる場があってよかった』『会社の制度など気軽に聞ける相手がいてよかった』『オンラインミーティングでは話しにくいことも話せた』と言ってもらえてますね」

目標は遠い人事ではなく「近い人事」

中途入社の方にとってもより働きやすい職場になっていきそうですね。

池谷さん

「はい。私自身、人事になってからは社員の働きやすい環境を考える機会が増えました。IT関連というとブラック企業のように思われることも多いですよね。でも、私は3回も産休・育休をとっても、批判的な態度や言葉を投げられたことが本当に一度もないんです。スムーズに受け入れてもらえるだけでなく、『大変だけど頑張ってね』と応援してもらえて、すごくありがたかった。ここは、ホワイト企業だって自信をもって言えますね(笑)。男性も従来から短期の育休を取得するケースはありましたが、ここ数年で長期の育休を取得する方も増えてきました」

ご自身が3回、産休・育休を取ったからこそ実感する部分ですね。

池谷さん

「はい。子育てサポート企業として一定の基準を満たした企業が厚生労働省から受けられる『くるみん』という認定があるのですが、クレスコはさらに高い水準の『プラチナくるみん』の認定を受けて、そのロゴマークが名刺に入っていますし、社内に向けてウェブサイトなどで発信し、浸透を図っているところです。会社員にとって仕事って人生の大半を占めるくらい大きな部分ですよね。それを支えるのが人事だとすると、自分の行動一つで、もしかしたら社員の誰かが助かるかもしれない。例えば、中途入社の誰かが会社に入って右も左もわからない状態のとき、会社に定着できるか、『ここではダメだ』とまた転職してしまうかの分岐点で、人事のサポートが役に立つかもしれない。大事な仕事だと思って、やりがいを感じています」

ありがとうございます。最後に、人事として大事にしていることを教えていただけますか?

池谷さん

「人事に入るときに受けた研修で『社員はお客様と思うようにしましょう』と言われたのがとても印象に残っていて、日頃から忘れないようにしています。同じ会社の社員であることに変わりはないのに、『人事』というポジションには何か権限があるように見られて、敬遠されてしまうこともあります。だからこそ『お客様』と考えて『こういうことで困っていませんか?』『こうしたほうがいいですか?』とこちらから歩み寄ってみると、『そう言えば困ってたんだよ』と言われることがあるんです。自分から意見を聞きに行くようにしていると、『人事には言いにくい』状況も少しずつ変わって行くのではないかと思っています。とはいえ 、いずれは現場と人事の壁をなくし、『お客様』みたいな距離のある人事よりも、もっと近い人事、言いたいことが気軽に言える人事になっていきたいと思っています」

そのために、何か始めていることはありますか?

池谷さん

「近い人事になるための一歩として、最近、SEのときにやっていたアジャイル開発の考え方を取り入れようと考えています。アジャイル開発を簡単に言うと、リリースしてからも開発やテストを繰り返しながら、プロダクトの価値を高めていく手法のこと。社内にアジャイル開発を推進している部門があるので、そちらにお願いして人事向けにアジャイル開発の考え方をインプットする研修をやっていただきました。人事の施策は一方的に発信するスタイルが多いものの、正解がない。だからこそ、一度、施策をリリースし、現場を巻き込みながら改善・検証を行っていくことで、現場の声を反映した人事制度を作っていきたいと考えているんです。社員の声をちゃんと拾って施策に反映し、お世辞じゃなくて『助かった』『話してよかった』と言われる。そんな人事でありたいですね」

編集後記

自身が産休・育休を3回取得したときに、周りからの応援やスムーズな職場への復帰を実現できたからこそ「クレスコは本当にいい会社なんです」と、職場への感謝も込めながら話していた姿が印象的だった、池谷さん。エンジニアというシステムに向き合う仕事から、人事という人に向き合う仕事へと、やることは大きく変わったかもしれません。ただ、カオナビの導入をはじめとした人事のDX化や、正解のない仕事だからこそ活きてくるアジャイル開発の考え方など、エンジニア出身の池谷さんだからこそ、人事業務に貢献できることはたくさんあるだろうな、と感じた取材でした。

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会社概要

社名 株式会社クレスコ
設立 1988年4月1日
事業内容 情報システムに関するコンサルティングおよびソリューションサービス、設計、開発、運用管理、保守など
従業員数 連結2638名(単体1369名、2022年4月1日現在)
会社HP https://www.cresco.co.jp/

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