「守れ」と言われて入った人事。グループ会社の人事制度統一のために下した決断とは?(前編)

日本最大級の将棋アプリ「将棋ウォーズ」など、AIによるゲームアプリ開発で培った固有技術を様々な他産業に提供しながら、急成長するHEROZ株式会社。同社で人事部門の立ち上げを行った桑原さんは、前職となる大手人材サービス会社で営業から始まり、新規事業開発、そして人事へとキャリアを歩んできました。前編では、作るのが好きと話す桑原さんの原点から、グループ会社の人事制度統一を指揮するなど、前職での貴重な経験に迫りました。
【後半では、HEROZに転職した経緯や現在の人事課題・施策に関する話をお届け】
*本記事の掲載内容はすべて取材時(2022年4月1日)の情報に基づいています

Profile

桑原 孝典

HEROZ株式会社
HR Division, Division Head

大学卒業後、パーソルテンプスタッフ(旧テンプスタッフ)に入社。営業、営業企画、新規事業責任者、BPO事業立ち上げ・コンサル部門・運用部門の管掌を歴任。その後、パーソルホールディングス(旧テンプホールディングス社)に異動。人事企画部長・人事労務部長・人事管理部長を兼務・歴任し、グループ共通施策の推進に取り組む。2020年にHEROZに転職し、人事部門の立ち上げを行う。

「ゼロからイチを創りたい」が行動の原動力

最初の就職は大手人材派遣会社だったかと思いますが、初めから人材サービス業界を志望していたんですか?

桑原さん

「いいえ、もともとは広告業界志望でした。大学時代に所属していたワンダーフォーゲル部の部員勧誘チラシを作ったりしていて、人の関心や興味を引くものを創るのが好きだったんです。クリエイティブな仕事はおもしろいと感じた。あとは単純なミーハー心ですね(笑)。それで運よく大手広告代理店から内定が貰えたんです。そこで内定者インターンを行っていたのですが、部活動で雪崩遭難事故があり、捜索活動に専念するため、インターンを続けることが難しくなりました…。大手広告代理店も辞退するしかなくなったんです。その後、就職活動を再開した時期には、もう大手の広告会社の募集は終了。近い仕事で見つかったのは、求人広告の会社だけでした。どうかな、と思いつつ聞きに行った説明会で、たまたま『これからは人材が流動化する時代になる』『その中で人材サービスは人と企業を結び付ける重要な役割を担う』と言われ、まさにそうだなと感じ、人材系の会社も面白そうだなと思ったんです。それで、人材系の会社を中心に受ける中で内定をもらった、『テンプスタッフ(現:パーソルテンプスタッフ)』に就職しました」

テンプスタッフに入社されてから、まずどういう業務を担当したんですか?

桑原さん

「最初は営業に配属されました。3年ほど、人材派遣の活用提案を行う営業をしていたんです。ただ、基本の提案フローがあり、それに従っていれば一定は売れる。そんな仕組み化された営業に少し飽きてしまったところがあり、転職まで考えた時期もありました。もともと結構、飽き性なところがあるんですよね…。ただ、ゼロからイチを作れるような仕事をしたいと思い、当時の上司に報告したところ、辞めるなと引き留められたんです。代わりに、これから新規事業開発部を立ち上げることになるから『そこへ来い』って誘ってくれた。それで、結局は転職はやめて、新規事業開発に異動しました」

正解のない仕事は、ハードだけど面白い

新規事業開発ではどんなことをされたんですか?

桑原さん

「新規事業提案制度を作り、社内から新しい提案がどんどん出てくるように「事業企画」の研修を行ったり、最終的には全社員の前でその新規事業案を発表するプレゼン大会を企画したりしました。営業時代とは変わり、ルールも正解もない新しい仕事で、いろいろと模索しながら進むのは、ハードだけど面白かったですね。そうこうしているうちに、自分でも事業の企画を思いついて、運営側にいながら自分でも応募し、結局自分の案が通っちゃった。mixiやTwitterなどが出始めた頃、当時としてはあまりなかった、子育て世代に焦点を当てたSNSサイトの立ち上げでした。応募していたほかの社員は興ざめだったかもしれませんが(笑)」

思いついたきっかけはあったんですか?

桑原さん

「直接のきっかけではないですが、自分も新規事業を企画したいと、情報収集がてら人と会い、直接話を聞く中で思いついたことでした。例えばリクルートで新規事業提案制度の運営を担当している方に話を聞きに行ったこともあります。今のように何でもネットで簡単に調べられる時代ではなかったので。そう考えると、今は本当に便利。調べものだけでなく、会いたい人にはSNSからダイレクトメッセージでアポが取れる。信じられないぐらい簡単に人とつながれる時代です。人と直接会って話すことの重要性は変わったとは思いませんが、SNSやオンラインなど、会うための経由や手段はとても便利になったので使わない手はないですよね」

社風が異なる会社同士の制度統一を任される

そのあと、どんな経緯で人事に異動されたんですか?

桑原さん

「新規事業をやっていたのは3年ぐらいで、それからBPOの事業を5年経験。BPO事業では10名程度のメンバーで始め、最終的には数百億円の売上を上げる事業に成長しました。そうこうするうちに、テンプスタッフという会社がどんどん大きくなり、何社ものM&Aが進み、巨大な組織になっていったんです。なかでも、インテリジェンス(現:パーソルキャリア)のM&Aが大きかったですね。規模も大きく、組織も強いし、社風もまったく違う会社のM&A。当時、ホールディングスとして表面上は一体になっていましたが、中身は制度もポリシーもバラバラな複数の会社の集まりでした。売り上げや利益の足し算でしかない会社の群れみたいな状態から、グループ一体的な経営としてまとめて行こうという方針になり、そのタイミングでぼくは人事に異動になったんです。インテリジェンス出身者とテンプスタッフ出身者との半々で構成されたホールディングス会社でした。ただ、人事部門はテンプスタッフが中心となって運営したいという当時の経営の考えがあったと思うんです」

そこでテンプスタッフ側のメンバーの一人として、桑原さんが選ばれたわけですね。

桑原さん

「はい。当時、800人ぐらいいたテンプスタッフのマネージャーが受けていた適性検査の適正を見ると、インテリジェンスの方と似たタイプが、ぼくだったたらしく、『人事はテンプスタッフが主導したい』『お前しか戦えるやつはいない』とか焚き付けられました(笑)。なんでかというと、インテリジェンスのバック部門は非常に合理的で洗練されていたんですよ。人事・経理・総務・法務など、スペシャリストがしっかりと揃っていたんですよね。インテリジェンスは合理的で言いたいことはハッキリ言う社風。対してテンプスタッフは比較すると穏やかな人が多く、良くも悪くも日本的な曖昧さやホスピタリティを大切にする社風でした。バック部門もフロント部門から異動して初めてバックオフィス業務を経験している社員も多い。真逆の社風ですよね(笑)」

真逆と言っていいほど、社風の違いがあったんですね。それを、どうやって一つにまとめたんですか?

桑原さん

テンプスタッフ側の意向が反映された制度を作る想定もありましたが、早々にその想定は実情に合わないと気づきました。敵対的に争うよりもむしろ優秀で洗練されたバックオフィスをフル活用した方がいい。優秀なバックオフィスを得たと考えた方が良いと考えたんです。インテリジェンス型の人事制度には仕組みとして本当にすばらしい機能があり、それをベースに、グループ全体の人事の仕組みとして適用していきました。そして、インテリジェンスの人事にいた人もそっくりそのままホールディングスの人事に入ってもらった。インテリジェンス色の濃い人事部門にはなりましたが、結果的にはすごく強い人事組織になったと思いますね」

反発もあった人事制度の統一。成功の鍵は「相手に対する理解と尊敬」

ホールディングス体制になってから、人事としてはほかにどんなことをされたんですか?

桑原さん

「最初の一年はホールディングス株式会社の人事の仕組みを、翌年度以降はグループ全体の人事の仕組みを整備することに注力しました。当時はグループ会社がおよそ50社ほどあり、そのPMIプロジェクトの人事オーナーを担ったんです。ぼくの担当は全社の人事ポリシー、人事制度、人事規程の基準、人事システム、給与計算・社会保険事務、それらを統合すること。今思うと、壮大なプロジェクトでしたね」

グループ会社からは、反発もあったでしょうね…。

桑原さん

「もちろんです…。統合する子会社社長や人事部長から怒られることも多かったですよ。『何様だ』と言われたこともありました。とはいえ、みなさんそれぞれの社員の代表であって、責任がありますから、それこそそれぞれの会社の従業員の尊厳を守るのに必死なのもよくわかりました。だからこそ、統合のバランスを考えるのは大変でしたね。例えば福利厚生が良い会社に全体を合わせることは難しいので、全社のバランスをとって中庸に落ち着けるなど、新しく子会社となった社員の方々が大きく損をしないようにしました。もちろん、女性活躍や子育て支援など、グループとして押し進めていきたい分野は、一番良い制度を導入している会社に合わせた部分もあります。そのようになるべく凹凸を減らしたうえで、各社の人事がその社員たちに十分な説明責任を果たせるような材料を提供する。そういう話し合いでしたね」

話し合いを円滑に進める上で、工夫したことはありますか?

桑原さん

「まずは、利害の合う・合わないをハッキリさせておく。その上で、こちらの意見を押し付けるのではなく、合意形成を一番の目的にしたのは、論点の広がり過ぎるのを抑える良いやりかただったかもしれません。親会社としての論理は示すものの、各会社を代表する社長や人事部長は、ファイティングポーズを取らざるをえない。その構図をお互いが理解・尊敬している関係性をいかに築けるかどうか、が大事でした。そのため、まずは相手の利害を把握し、無理やりではなく、人対人のコミュニケーションの中で、どのようにその利害が合致するかを心がけました。ある意味、なるべく戦わないようにしたともいえます」

そうして一枚岩になっていったんですね。

桑原さん

「プロジェクトの完了まで3年かかりました。でもそうやってコミュニケーションを取ったらからこそ、雨降って地固まるで、終わってみると基盤や関係性がしっかり整った良いグループ組織になったとも思います」

続く後編では、HEROZに転職しようと思った経緯や、人事部門の立ち上げから現在の課題や施策に関する話をお届けします。

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会社概要

社名 HEROZ株式会社
設立 2009年4月
事業内容 AI技術を活用したサービスの企画・開発・運用
従業員数 65名(2022年6月時点)
会社HP https://heroz.co.jp/

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