困っている人が目の前にいたから辿り着いた、社会保険労務士というキャリア(後編)
汐留社会保険労務士法人 |
事業統括役員 社会保険労務士/行政書士
新井 将司さん
2022.08.16
多様な個人に対応するために複雑化する人事課題や、スキルの可視化といった社内の人事施策について話を聞いた前回。続く後編では、新井さんご自身の経歴に焦点をあて、社会保険労務士になるまでの道のりに迫りました。
きっかけは「同僚から労務に関する相談を受けたこと」。新卒で一般的な企業を経験したからこそ、社会保険労務士となったいまでも、社員側の視点まで想像を働かせることができるようになったと話します。
Profile
新井 将司
汐留社会保険労務士法人
事業統括役員 社会保険労務士/行政書士
大学卒業後、2009年に印刷会社へ新卒入社。社会保険労務士の資格を取得後、2011年に汐留社会保険労務士事務所(現法人)に企業コンサルタントとして転職。労働社会保険法に基づく各種手続きから人事制度の設計・提案等幅広い仕事を担当。2014年に同法人役員に就任。IPO準備、M&A、組織再編支援などを得意とし200社以上のコンサルティングを経験する傍ら、事業統括役員として現法人の事業戦略を担っている。
同僚からの労務相談をきっかけに社会保険労務士を目指す
大学は法学部だったそうですね。その当時から今のようなお仕事を目指していたんですか?
「いえ、それがまったく…。弁護士や裁判官を目指している人は周りにいましたが、私はそこまで考えていなかったですね。そもそも大学も付属高校からの進学で、法学部を選んだのもなんとなく興味があってという漠然とした理由。ただ、いざ入学してみると、法律というのは案外身近なもので、自分の生活にも密接に関わっているとわかり、興味が増していきました。周りも司法試験の準備や資格取得を目指す人が多かったこともあり、せっかく知識を得たならば何か資格を持っておいたほうが、あとあと仕事にも活かせそうだな…という軽い気持ちで資格勉強を始め、在学中に行政書士の資格は取ったんです。ただ、専門職で働くというより、まずは一般的な企業で働いてみたいと思い、新卒では印刷会社に就職しました」
そこからどうやって、現在のお仕事でもある社会保険労務士になったのですか?
「印刷会社に入社してからは営業、印刷工程の管理などをメイン業務としていましたが、思っていたよりも大変な仕事で…。毎日のように終電帰りで、徹夜で仕事をすることもありました。ただ、初めて会社というものを経験したこともあり『社会人ってこういうもの…』かと考えていたところがあったんです。ところが、私が法学部出身ということもあり、同僚からは『会社からこんなこと言われたんだけど、法律的にどうなの?』と相談を受ける機会が多かった。これまで当たり前のように大学で勉強した知識が、労務トラブルで困っている人の役に立つんだなと実感したときでした。知識にちゃんとニーズがあることがわかったことで、じゃあちゃんと勉強してみようと、社会保険労務士の試験にチャレンジしました。当時は仕事もハードでしたが、通勤のわずかな時間や帰宅してからの時間を使って夜中の2時3時まで勉強していましたね。いまじゃ考えられないですが(笑)。実際に困っている人を目の当たりにして『もっと自分が役に立てることがある』『そこに自分の役割があるんじゃないか』と感じたからできたんでしょうね」
転職後すぐに社会保険労務士として現場へ。矢面に立つ経験が自分を成長させる
そして、資格取得後に現在の汐留社会保険労務士法人へと転職されたんですか?
「はい。いろいろな士業の方が集まっているグループ会社でもあり、さまざまな専門家の力を借りながら幅広い業務が経験できる点に魅力を感じました。ただ、実務経験が足りないなかでの転職だったので、最初は慣れるのに大変で…。多くの社会保険労務士事務所では、メインで仕事をする先生がいて、そのほかの経験が浅いスタッフは資格を持っていても事務やサポートといった一部の業務しか関わらない体制が多いようです。ただ、うちの事務所では未経験や新入社員であっても矢面に立ち、クライアントの相談窓口から就業規則の策定のような大きい仕事まで経験させる方針でした。始めから即戦力として数えて貰えたのは嬉しかったですね。その反面、いまとなってはチャレンジできる機会の豊富さが自分を成長させてくれたと思いますが、当時は先輩に教えてもらいながら知識や経験を積み上げていくのに必死でした…(笑)」
転職してすぐに現場へと出られたんですね…!
「最初は各種手続きの書類作成や、クライアントから請け負っている給与計算などをしていました。いまほど電子化されていない頃でしたので、間違ったら初めから書き直さなければいけない書類も多く、緊張しながら手書きしていたのが懐かしいですね…」
経験の無さがコンプレックスも…お客様に育ててもらう
前職の経験が活きた部分もありますか?
「いま思えば、前職の労働環境やそこで働く人たちの不満をじかに聞けたことは仕事にも役立ったと思います。ファーストキャリアから社会保険労務士という資格を活かして働く人が多いので、なかなかリアルな労働環境を経験する人はいませんから。『人事側はこう考えている』けど『現場側はこう思うのではないか』と、社員側の視点まで想像を働かせることができるのは、最初の印刷会社での経験が大きいと考えています。ただ、自分の知識や社会保険労務士としての経験の無さにはずっとコンプレックスを感じていたので、本やセミナーで勉強しましたし、同僚にも、他社の同業の方にもいろいろ教えてもらいました。さらにお客様に教えていただいたこともすごく大きかったですね。人事部長や社長といった経験の長いお客様から指摘を受けて勉強し直したり、『フォローするから一緒に作っていこうね』とお声がけいただいたりして…。本来は専門家としてお客様の課題に対して最適解を提案し、こちらが主導で導いていくべきところを、助けられ、教えられ、お客様にも育てていただいた経験はいまでも感謝しています」
人事労務に関する提案を行うなかで、ご自身の強みはどんなところにあると考えていますか?
「社会保険労務士が集まる会社に在籍していることもあり、私自身も労働法をもとにした労務の専門知識が強みだと考えています。時折、お客様の既存の制度を見せてもらうと、適正な残業代の計算ができていない給与体系だったり、社会保険手続きが行き届いていなかったりといった穴が見つかることがあります。さらに近年では同一労働同一賃金の内容にのっとるなど、複雑化する法改正や制度に対応する必要性も迫られています。そこで専門知識を活かしながら、労務関係の法律を順守しつつ、クライアント企業様の制度や体系を整備する提案を行なうようにしているんです」
また新井さんの場合、社内の人事課題解決に取り組むなど、ご自身で施策を実践しているところも強みになりそうですね。
「そうかもしれません。そのためにも、例えばカオナビさんであれば『カオナビキャンパスオンライン』やユーザー会で聞いたアイデアでいいと思うものをとりあえず試してみたり、自分で手を動かしたりしてみながらトライ&エラーを繰り返して最適解を探っていくことを大事にしています。その経験は、やはりお客様への提案にも活きると思いますので」
編集後記
社会保険労務士という専門家の立場でクライアント企業様に提案を行うだけでなく、自社では人事担当者として自らが手を動かしながら、施策に取り組む新井さん。弊社のセミナーでも専門家としてご登壇いただきながらも、ときには受講者としても参加。自社への施策やクライアントの課題解決に活かすため、人事領域の勉強も欠かさない姿が印象的です。「専門家と実践者の両方の視点を持つことが、クライアントにとっての信頼にもつながる」そう感じた取材でした。
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会社概要
社名 | 汐留社会保険労務士法人 |
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設立 | 2008年11月(2014年8月 法人設立) |
事業内容 | 労働・社会保険の適用・給付事務手続き代行、給与計算・人事労務のアウトソーシング、人事考課制度導入等の企画・立案・実施など |
従業員数 | 36名(うち社会保険労務士17名) |
会社HP | https://www.shiodome-sr.jp/ |