多様な人を支える仕事だから「まだまだ慣れない」。人を中心に置く湖池屋人事のタレントマネジメント推進(後編)

湖池屋に入社後、経理部配属を経て、学生時代から志望していた人事になった大倉さん。前編では会社は『人が起点』という考えから、そんな人を支える人事の魅力や難しさについて、お話いただきました。続く後編では、タレントマネジメントの推進や、コロナ禍における部署を超えたつながりの希薄化といった同社の課題を踏まえ、現在取り組む施策について聞いていきます。
【前編はこちら】
*本記事の掲載内容はすべて取材時(2022年8月2日現在)の情報に基づいています

Profile

大倉 奈々

株式会社湖池屋
経営管理本部 人事部 人材マネジメント課

早稲田大学を卒業後、新卒で株式会社フレンテ(現 株式会社湖池屋)に入社。経理部へと配属後、2013年より人事部に異動。採用活動、各種研修プログラムの企画運営をはじめ、人材育成に携わる。2017年より人事制度設計チームに加わり、組織開発・制度全般の見直し・改定も手がけたほか、現在はタレントマネジメントの推進にも取り組む。

タレントマネジメント推進の「一歩目」が、システムの導入

ここからは、湖池屋の人事課題や取り組みも聞きたいと思いまして、まずは現在の人事課題にはどんなものがありますか。

大倉さん

「一つは、タレントマネジメントの推進です。その第一歩目が、タレントマネジメントシステムの導入です。元々、各部門で評価運用のフローがどう進行しているのかきちんと把握できない状態でした。そこで、評価フローの可視化を目的として、まずはタレントマネジメントシステムであるカオナビを導入しました。私が2019年に一人目の育児休業から復帰した際、カオナビの導入に加え、タレントマネジメントの推進を任されました。そのとき、あえて堅苦しくならないように、『評価システム』という点は強調せず、自由に自己紹介や顔写真を登録してもらうよう、カオナビを案内しました。まずは、見て楽しい情報を充実させることで、システムを使うハードルを下げたいと思ったんです」

社員という使う人の目線も大切にしているから、思いついた取り組みのように思いますね。ちなみに、現在はどういった使い方をされているんですか?

大倉さん

「最近では、希望職種の入力欄を設け、全社員に希望職種を書いてもらうようにしました。これまで人事や管理職の間でクローズになっていた情報を、オープンにする狙いがあります。従業員からすれば、カオナビに入力することで、希望職種やキャリアパスを会社に伝えるチャンスが広がります。会社としても、新卒採用時の希望やどこかで耳にした噂に頼らず、リアルタイムでアップデートされる情報があるので、それも踏まえて人員配置を行うのが目指すところです。もちろん、100%従業員の意向に沿うのは難しいのですが、日常的にカジュアルに主張できる場があることで、『希望職種に異動できないから辞める』といったネガティブな離職を防止する効果もあると考えています」

「ナナメの1on1」で部署を超えた交流を促す

そのほかに感じる課題はありますか?

大倉さん

「コロナ禍で、新卒入社の社員が社内でネットワークを築きづらいという課題が表面化したことです。そこで、『手挙げ式のナナメ1on1』を導入しました。元々、弊社は部署を超えた「ナナメ」の交流も盛んだったのですが、コロナ禍で出社の機会が減り、それも希薄になっていました。そこでとくに若手社員と先輩社員のコミュニケーションを活性化させる目的で、1on1を導入したんです」

ちなみに『手挙げ式』とは、普通の1on1とどのような違いがありますか?

大倉さん

「その名の通り、強制ではなく、手を挙げた人なら誰でも受けられる1on1です。カオナビに書かれた自己紹介や経験職種などの情報を見て面談したい人を指定し、申し込む仕組みです。メーカーという事業上、他部署との『ナナメ』のつながりも重要です。そのため、開発の社員が営業経験のある社員に話を聞くなど、考え方や人脈の幅を広げる狙いがありました。まず2021年度に、コロナ禍で他部署との接点を持つのが難しかった新卒と2年目社員を対象に、所属部門の異なる入社3年目以降の先輩社員がメンターとなって実施したんです」

社内での反応はいかがでしたか?

大倉さん

「若手社員から『日頃の疑問や不安が解消できた』という声はもちろん、メンターとなった先輩社員からも『自分自身の振り返りになった』と良い反応をいただいています。1on1では、カオナビのスマートレビュー機能を活用し、相談事項やフィードバック、それを受けたネクストアクションも入力してもらっています

1on1が形骸化する心配はありませんでしたか?

大倉さん

「カオナビで1on1の内容を可視化したことで、自分自身を振り返り、行動変容につなげるきっかけになっているようで、形骸化することなくやり遂げられています。期間中は1ヵ月に1度、人事側で進捗を確認するようにもしています」

これまでお話いただいた取り組みを行う上で、苦労した点はありますか?

大倉さん

「一つ挙げるとすると、カオナビの導入時説明会が、コロナの影響ですべてオンラインになってしまったことですね。マイクもオフにしてもらっていたので、一人で話しているような気分になり戸惑いました。本当に聞きたいことがある社員からしか質問も挙がらず、一方通行になっているのではと不安でした。そのため、1回だけの説明で終わらせず、発信頻度を上げることで、カオナビの定着を図りました。とはいえ、支店や工場など遠隔にある場所はオンラインの方がコミュニケーションの頻度を上げられるため、今後も継続していきたいと思います」

採用と制度設計を経験し、「パッション」と「ロジカル」のさじ加減を覚える

採用や制度設計、タレントマネジメント推進とさまざまな業務を経験されていますが、人事の仕事に『慣れてきた』という実感はありますか?

大倉さん

まだ慣れていないというのが正直なところです。配属当初と比べれば、パッションとロジカルの使い分けができるようになったかもしれません。熱量が求められる採用と、論理的であるべき制度設計の両方を経験し、さじ加減を上手く扱えるようになったと思います。ただ、人事の仕事に『慣れた』と断言するのは違和感があります。人事の仕事は、人を支える仕事。人は一人ひとり違い、これまでと同じ業務を担当していても『慣れた』にはなかなかならないですね。また小さいことですが、ダイレクトリクルーティングやオンライン面接と、私が育休をとっている間に手法もどんどん変化しています。経験がある業務でも、初めてのものに出会うので、フレッシュな気持ちは忘れずにいたいですね」

そんな人事の仕事をしていて、とくにやりがいを感じる部分はどこですか?

大倉さん

「採用や育成業務で、入社後に活躍する社員の姿を目にすると、人と会社の双方に貢献できたようで嬉しくなります。例えば、私が採用を担当した社員で、入社後、20代ながら管理職として活躍している方がいます。さらに組織を引っ張る彼を目標にしている管理職候補の社員も、たくさんいるんです。その彼は、いま若手の採用・育成に力を入れており、彼のチームの社員は必ず伸びるなんて言われています。採用は入社して終わるのではなく、その後も続いていくものなのだと実感しますね。人事になって7年、ようやくその流れが見えてきました」

人事として大事にしていることもお聞きしていいですか。

大倉さん

「人に主眼を置きつつも、虫の目、鳥の目、魚の目と、多角的な視点も忘れないようにしています。人事の仕事は、社員に寄り添いながらも、組織の在り方や経営の考えも汲んで施策を実行していく必要があるためです。そうしたバランスを取った施策の一例が、タレントマネジメントの推進だと考え、いま取り組んでいるところです」

ありがとうございました。最後に今後、取り組みたいことを教えてください。

大倉さん

「いまは丁度、コンパクトな組織から規模が大きくなり、システムを通じて業務の効率化や仕組み化に注力していく転換点にあります。さらに、タレントマネジメントシステムをきっかけに、業務効率化などにとどまらず、現在の取り組みを戦略人事へと昇華させていきたい。例えばカオナビに集めた情報をきっかけに、一人ひとりが持つ特性やスキルは、自分が思う以上に価値があることに気付いてもらいたい。加えて情報を開示することで、その価値に周囲が気付く状態を作り、自分の強みを活かして部署を超えた協業なども促したいと考えています」

編集後記

ご家族の仕事や日頃手に取る商品など、身近なきっかけから湖池屋×人事の道を選んだ大倉さん。「人っておもしろい」という興味は、人事に着任してからも尽きることなく、むしろ社員の成長や、変わっていく組織に触発されてどんどん大きくなっているように感じます。そして、人を中心に置く姿勢が、「人事の仕事にはまだまだ慣れない」という大倉さんの学ぶ姿勢にもつながっているようでした。社員一人ひとり、組織、そして会社の経営と、多角的な視点を持つ大倉さんの話を聞き、改めて人事の仕事の魅力を感じた取材でした。

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会社概要

社名 株式会社湖池屋
設立 1958年1月
事業内容 菓子製造業
従業員数 909人(国内604名、海外305名。2022年3月31日時点)
会社HP https://koikeya.co.jp/

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