やりたいことではなく「やるべきこと」に目を向ける。人事になって変わった私の考え|前編

湘南の海のほど近くに本社を構える荒井商事は、創業から100年を超える老舗企業。そんな荒井商事で新卒から25年間働いてきた藤原さんは、スーパーのスタッフやポルトガルでの貿易事業などを経て、2014年より人事となりました。前編では、現在の仕事の原体験ともいえるスーパーでの経験や、自社ビジネスのありがたみをより実感したと話す海外赴任の経験を中心に、人事に至るまでの過程を聞きました。

後編では、挑戦できる風土を育てる荒井商事の人事方針や、藤原さんが主導した「創業100周年プロジェクト」について話を聞きました】

Profile

藤原 正英

荒井商事株式会社
人事部長

新卒で荒井商事に入社し、スーパーのスタッフやポルトガルでの貿易事業などを経て、2014年より人事へ。人事領域では、主に採用、教育、人事制度の制定や運用のリーダーを担う一方、コーポレートブランディングにも携わる。創業100周年を機に実施した「創業100周年プロジェクト」では統括リーダーとして、10名の委員と共に企画と実行を牽引した。

裁量の大きいスーパーでの経験が仕事の原点

元々、荒井商事を選ばれたきっかけは何だったんですか?

藤原さん

「私が入社した1998年はいわゆる『就職氷河期』と呼ばれる時代で、行きたい会社に行くことは今以上に難しい状況でした。とはいえ、ITや金融のように形のないものを扱うのではなく、物体としての商品がある仕事がしたい思いがありました。たとえばリンゴを100円で仕入れて150円で売って50円の利益を出すような商売をやっているところに行きたかったんです。海外への興味が強かったこともあって貿易にも関わってみたかった。そこで、すべてを満たせる食品系の商社である荒井商事を選びました」

入社後、最初に任されたのはどんな業務でしたか?

藤原さん

「スーパーのスタッフです。青果に肉、魚、惣菜、そのほかの食料品や日用品などを売る一般的なスーパーで、それぞれの部門すべてで自社を介した商品を売っていました。スーパー1店舗につき10名ほどの社員が在籍しており、私は青果部門の担当として1年間携わりました。実際にやってみて、スーパーの仕事に対する認識は大きく変わりましたね

 

どう、意識が変化したのですか?

藤原さん

「正直にいうと、スーパーの仕事にあまり良いイメージを持っていなかったんです。労働時間が長く、立ち仕事で重たいものを持つイメージがありました。ただ、いざやってみると確かに大変ではあるけどすごく面白かった。青果は売れないとすぐに腐ってしまいます。上の判断を待っていると目の前の商品がダメになってしまうので、その場の判断が求められる仕事なんです。そのせいもあって、自己判断でタイムセールを行うなど、現場の裁量が大きい環境でした。毎日PDCAを回しながら裁量を持って仕事に取り組むことができ、非常に充実していました。商売の基本でもある『仕入れて売る』ことのイロハを学べた一年間でした」

裁量が大きく、学びも多い環境だったんですね。

藤原さん

「はい。早い段階でアルバイトの方々を監督する立場にもなりました。アルバイトの方は、自分の母親と同じような年齢の方々も多く、早い段階からさまざまな立場・年齢の方とコミュニケーションを取る機会に恵まれました。そのなかで、年齢的にも下の私が要望を一方的に言っても聞いてもらえないと思い、まずは相手の話を聞いて理解することに徹し、気持ちよく仕事をしてもらうことを心がけていました。人事になった今でも立場の異なる社員と対話するときに大切にしていることです。今思うと、PDCAサイクルを回しながら試行錯誤したり、相手の立場に立ったコミュニケーションを行ったりと、仕事の基礎を網羅的に学べた期間でしたね」

海外に住み、自社のビジネスのありがたみをより実感

スーパーでの業務のあと、どのような仕事に取り組みましたか?

藤原さん

「当社は食品流通とオークションの2つがメインの事業で、人事になるまでずっと食品流通に関わってきました。スーパーを経験した後は、まず米穀卸の部門で事務的な業務に取り組みました。そして貿易の部門に異動。そこでは商社が品物を仕入れて売るまでの工程を一通り経験できたのはもちろん、2010年にはポルトガルに赴任し、貿易の必要性を肌で感じることができました。面白い経験をさせてもらったなと思います」

具体的にどういうところに面白味を感じましたか?

藤原さん

「たとえば私は、『ガラナ』というブラジルのジュースを日本で売る仕事を担当しました。荒井商事は製造元の『アンタルチカ』の日本総代理店として1987年から現在まで販売し続けているのですが、当時、私が担当していたなかで最も利益の高い商品でした。『ガラナ』を主力としてほかにもブラジルの商品をたくさん販売していたのですが、日本国内での購入は在日ブラジル人の方が大半なんです。日本人に売れているわけじゃないの?と思うかもしれませんが、当時日本に住むブラジル人は32万人もいたんです。これは中堅都市1つ分の人口です。そのため、ニッチではあるものの実は需要が大きく、稼げるビジネスなんです。そうした日本人を対象としなくとも、しっかりと利益を出せる商売が面白いと感じましたね」

ニッチな商品でも、きちんとニーズがあれば利益を出せるわけですね。

藤原さん

「それだけではなく、在日ブラジル人の方にとって貢献度の高いビジネスだと感じました。ポルトガルに行ってみると自分自身が日本在住ブラジル人と同じ境遇になりました。当時のポルトガルには日本人は500人ほどしか住んでおらず、醤油を1つ買うのにも苦労する状態。1〜2時間かけて怪しげなお店に行き、キッコーマンの醤油と日本のお米とお味噌を『高いな』と思いながらも、買ったときにようやくわかったんです。『ガラナを買ってくれていたブラジル人たちも同じように、我々が提供しているものを頼りにしてくれていたんだ。自分は彼らに貢献できていたんだ』なと」

ポルトガルは日本と商習慣も文化も違うと思います。業務において苦労しませんでしたか?

藤原さん

自分たちがマイノリティなので、日本の普通はまったく通用しません。彼らの価値観を踏まえた上で、こちらの望む目標を達成してもらえるようにマネジメントを行う必要があります。日本で行うよりも2段階ほど難易度が高いマネジメントを間近で見ることができました。あらゆる立場の人と関わりながら仕事を進めていく必要がある人事となった今でも、このときの経験は役立っていますね」

会社のためにできることをやる。年次が上がったからこその心境の変化

貿易部門から、人事担当になったきっかけを教えてください。

藤原さん

「2014年に帰国後、『人事をやるように』と上司の指示があったのがきっかけです。当時、人事になるとは考えたこともありませんでした。ポルトガルにもっといてもいいとすら思っていましたし、もし日本に戻ったとしても、食品部門の海外事業に携わる気満々でした。だから、突然の人事に戸惑い、異動後の最初の数ヶ月はなかなか気持ちの整理がつかない時期がありましたね

事業に関わりたい想いが強かったんですね。

藤原さん

「はい、やはり商売に関わっていたいという想いがありましたね。今は商売にこだわらなくていいと思えていますが、そう思うまでに時間はかかりました」

人事業務に向き合えるようになったきっかけは何だったのですか?

藤原さん

「視野が広くなり、かつ視座が高くなったことが大きいですね。人事業務に取り組むなかで現状が見えてきて、『それじゃ駄目なんじゃないか』と感じることがあったんです。そこで変化に向けて動いたり、動いたことで新たにわかった問題に取り組んだりすると少しずつ、やりたいことではなくやるべきことに目が向き始めました。勤続年数も長くなり、職位や報酬も上がり、これまでやりたいことをやらせてもらってきた。そのため、自分が人事をやることでより会社を良い方向に進められるのであれば、課題に目を向けてやるべきことをやろうと考えるようになったんです。人事になって最初に新卒採用に携わり、彼らがきちんと成長できる環境を整えたいという思いもありました。こうして最初は自分の担当する商売だけを見ていたのが、会社全体を見れるようになったのが大きいと思います」

 

続く後編では、挑戦できる風土を育てる荒井商事の人事方針や、藤原さんが主導した「創業100周年プロジェクト」について話を聞きました。

*本記事の掲載内容はすべて取材時(2023年5月25日)の情報に基づいています

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会社概要

社名 荒井商事株式会社
設立 1956年(創業:1920年)
事業内容 オークション事業、食品流通事業 など
従業員数 正社員 484名 非正社員 289名 計 773名(2022年9月現在)
会社HP https://www.arai-group.co.jp/

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