1000回やって3回うまくいけばいい。挑戦できる風土を育てる荒井商事の人事方針|後編

藤原さんが入社してから25年間で、従業員も売上も倍以上になった荒井商事。会社が成長していくなか2014年に人事部へ異動した藤原さんは「創業100周年プロジェクト」などを主導しながら理念の明確化に取り組み、今後は挑戦しやすい風土を育むために人事制度改革を進めていく予定です。後編では、そんな藤原さんが主導したプロジェクトの全貌や、挑戦を大切にする荒井商事の人事方針について話を聞きました。
【前編はこちら】
*本記事の掲載内容はすべて取材時(2023年5月25日)の情報に基づいています

Profile

藤原 正英

荒井商事株式会社
人事部長

新卒で荒井商事に入社し、スーパーのスタッフやポルトガルでの貿易事業などを経て、2014年より人事へ。人事領域では、主に採用、教育、人事制度の制定や運用のリーダーを担う一方、コーポレートブランディングにも携わる。創業100周年を機に実施した「創業100周年プロジェクト」では統括リーダーとして、10名の委員と共に企画と実行を牽引した。

人事になり「マネジメントとは何か」という大きな問いに向き合う

人事に配属になり、大変だったことはありましたか?

藤原さん

「人事部に配属になるまで、プレーヤーとしての業務が多くマネジメントに関わることはほとんどありませんでした。それが人事になると、現場でマネジメントをしてる人とやり取りすることが増えました。それだけでなく、離職率やOJTの観点からマネジメントの改善を求めることもあります。そのため『マネジメントとは何か』という大きな問いと向き合わざるを得ない状況に置かれました。案件を円滑に進めるというプロジェクトマネジメントの経験はあったものの、人へのマネジメント経験はほとんどないなかで、経験値を積んでいくのは大変だったかもしれません。いろんな人に話を聞いたり、人の失敗から学んだり、情報収集をしたりとたくさん勉強しましたね」

配属された当初の人事部はどんな組織でしたか?

藤原さん

「当時は人事部は独立しておらず、総務部人事課でした。役割は新卒採用と中途採用がメイン。勤怠や社会保険関連などの労務は総務部総務課で行っていました。それから数年後に人事部が独立し、採用はもちろん能力開発やキャリア開発も行うようになりました。そのためこうあるべきと画一的なものはなく、やりながら修正していくことが多かったですね」

人事業務に慣れてきたと感じたタイミングはありましたか?

藤原さん

「まだまだ慣れたとは言い難いですが、一通り自社の事業について、話ができるようになったときです。どんな事業を行っているのか、会社案内を見ればわかることだけではなく、外部環境や戦略も含めて話せるようになってきました。また、食品流通事業には携わってきましたが、オークション事業は本当にわからなかったので、社内で話を聞き、今何をしていてどんな課題があるのかイチから勉強し直したんです。人の面から会社の成長に貢献するのが人事の仕事ですが、その人がどんなビジネスに携わっているのかまで深く理解していないとダメだと感じたので。自分がキャリアの初期の段階から人事の道を歩んでいたとしたら、もしかするとオペレーション的な役割をとにかく極めていくタイプになったかもしれません。ただ、人事のキャリアも10年近くやってきたとはいえ、まだ現場での経験の方が長いので、自然と事業や会社の継続にいかに貢献できるかに目が向くんですよね」

現在はどんな役割を担っているんですか?

藤原さん

「現在は人事部長として、人事部内にある採用課や広報宣伝課、キャリア開発課の統括およびマネジメントを行っています。それぞれのチームで動いているプロジェクトをできるだけ円滑に進められるように監督するのが役割です。とはいえマネジメントに徹するだけでなく、数年に一度の人事制度の刷新やカオナビのようなツール導入による業務改善など、自ら手を動かしたり考えたりすることも続けています。良い人事施策を行うには、直接社員の声を聞いて現状を把握しつつ一緒に考えていくことが欠かせません。そのため、できるだけ心理的安全性を担保して正しい情報を得られるよう、偉そうに思われないように細心の注意を払いながら社員とのコミュニケーションを積極的に行っています。とはいえ、人事部長の肩書きになってから、どうしても身構えられてしまうことも増えてきたんですが…(笑)」

「100周年事業プロジェクト」で漠然とした理念の明確化に取り組む

藤原さんは荒井商事の創業100周年を記念したプロジェクト「創業100周年プロジェクト」にも携わられていますよね?これは、どういったプロジェクトだったのですか?

藤原さん

「創業100周年を迎えるにあたり、改めて荒井商事はどこを目指すのかを明確化し、それを全社員と共有することで同じ方向を向いて歩むきっかけにしたいと始めたプロジェクトです。まずは、さまざまな部門のメンバーを募ることから始め、次に組織の課題を把握するために組織診断サーベイを実施しました。そこで、見えてきた課題が、理念が漠然としており、社員の拠り所として機能していないことだったのです。そのため、理念の見直しと再策定を行いました

理念の見直しとは、具体的にどんなことをされたのですか?

藤原さん

「理念、要するに会社としての考え方を明確にするために、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の言語化に取り組みました。そして、MVVが明確になったことで、その想いを社外にも伝えていくためには、VI(ビジュアル・アイデンティティ)も変えていく必要があると感じました。たとえば会社のロゴなど、視覚的な部分です。とはいえ、創業から100年変わったことのないロゴマークだったので、経営層に提案するときは非常に緊張したのを覚えています。ただ提案したところ『良い機会だ』と即決いただき、あまりのとんとん拍子で決まってしまったため、逆に『本当にいいんですか?』と私が聞いてしまうほどでした。社長自身『委員会メンバーが考え抜いてやりたいと思ったことを否定することはない』と言っていただき、挑戦を後押ししてもらえたことにとても感動しました」

荒井商事における「ミッション・ビジョン・バリュー」とロゴの変遷。
出典:https://event.link-ep.co.jp/case/case-3704

経営陣からストップをかけられるくらい、社員自ら挑戦する風土をつくる

現在の荒井商事の人事課題を教えてください。

藤原さん

「理念などは明確化できたものの、人事課題はまだまだ山積みというのが正直なところです。とくに、まずは経営戦略と人事戦略を連動させることが急務だと感じています。2018年に刷新した現行の人事制度と、制度策定後にできたMVVにズレが生じている部分もあります。そこを解消し、30年後の理想像に向かって必要なことをやっていくのが一貫したテーマです」

人事戦略のなかで特に肝だと感じる部分はありますか?

藤原さん

「現場の社員一人ひとりが失敗を恐れずに挑戦したいと思え、挑戦した人が報われる環境や、失敗した人を咎めない仕組みを作ることが軸になると考えています。具体的にどんな制度にするか、まだ形になってはいませんが、これから取り組むべき大きな課題の1つですね。当社自体、創業から今に至るまで、とにかくいろいろなことに挑戦してきた会社なんです。たとえば外国人バイヤーが集まる中古トラックのオークションをやったり、先ほどお話ししたようにブラジルのジュースを販売したり手広く展開しています。これらはピンポイントで狙い撃ちしていたのではなくて、100年のうちにたくさんやってきたことのうちいくつかがうまくいった結果、たまたま残っている事業、というのが正しい。1000回やって3回うまくいけばいいという意味の『千三つ(せんみつ)』という言葉がありますが、当社もまさにそれなんです。だからこそ社員の挑戦量が増えるような仕組みが必要なんです

「挑戦」が会社を作ってきたんですね。

藤原さん

「実を言うと、この100年は経営側がどんどん挑戦し、私たち従業員は何とかそれについてきたというのが実態。でもこれからは従業員自らどんどん挑戦し、むしろ経営陣からストップをかけられるくらいになっていかないといけないんです」

藤原さんは、25年間荒井商事で働かれているわけですが、入社したときと比べて社風や環境の変化は感じますか?

藤原さん

「環境は部署によるのでなんとも言えないのですが、社風はあまり変わっていませんね。現在、執行役員をしている私の上司のスタンスも昔から変わっていない。後ろめたいことは行わずに正直にやっていこうというスタンスです。危ない橋を渡っていたら100年も会社を続けられないはずなので、当たり前ではあるものの非常に大事なことだと思っています。また、他の会社で働いた経験がないので他社との比較はできませんが、当社はすごく真面目でいい人が多いと感じます。そこは私が入社した頃から変わっていません。一方で真面目ゆえに、大胆な挑戦ができない部分もあり、表裏一体ではあるのですが、大きな美点だと思いますね。誰かを蹴落として自分が前に行こうとする人はおらず、チームワークを大事にする社風は昔から変わっていませんし、これからも変えたくないところです」

ありがとうございました。最後に、藤原さんの考える人事のやりがいを教えてください。

藤原さん

「皆さんもそうかもしれませんが、自分が採用に携わった人が現場で活躍している話を聞くのは嬉しいですね。人事部にきて、一番最初に採用したのは2015年入社の新卒でした。彼らも入社して8年経ち30歳を超えています。係長やチームリーダーに昇格したり、結婚して子どもができて家を建てたりする人もいます。彼らが周囲から評価されているのを見ると、人事部冥利に尽きるなと思います」

編集後記

最近の苦労を聞くと、ご自身の中身は変わっていないものの、肩書きが部長になったことで社員から身構えられてしまうことだと話していた藤原さん。いまでこそ人事部長として、人事全般を統括する立場にあるわけですが、赴任当初は後ろ向きになったこともあり、なかなか目の前の仕事に前向きに取り組めない時期もあったそうです。ただ、自分のやりたいこと以上に、会社にとって何をやるべきなのかという考えに変わってからは、むしろこれまで以上に仕事が面白くなってきたそう。それはひとへに、誰かに貢献したいというシンプルな思いで仕事に取り組むからなのかもしれません。その思いが、「100周年事業プロジェクト」で社長にVI変更の提案を行うなど、会社をより良くするための原動力につながっているんですね。

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会社概要

社名 荒井商事株式会社
設立 1956年(創業:1920年)
事業内容 オークション事業、食品流通事業 など
従業員数 正社員 484名 非正社員 289名 計 773名(2022年9月現在)
会社HP https://www.arai-group.co.jp/

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