カスタマーサポートから人事部長に異色のキャリアチェンジ。「人材育成」と「最適配置」で会社に貢献する人事の姿

一人の先輩からの声かけがきっかけで、「ヒューマンテクノロジーズ」にカスタマーサポートとして入社した宍戸さん。当時の社長からの「カスタマーサポート部門での育成ノウハウを全社に展開し、今後は全員を見る役割を担わないか?」という一言で、人事のキャリアを本格スタートさせ、現在は社員一人ひとりが主体的に自分のキャリアを考え、成長していけるような「人材育成」「最適配置」に力を注ごうとしています。

そんな宍戸さんはどんな過程を経て、カスタマーサポートから人事のキャリアを築いてきたのか。また、人事課題の解決に向けてどんな取り組みをしているのか、人事としての等身大の姿に迫ります。

Profile

宍戸 聖子

株式会社ヒューマンテクノロジーズ 
人事人材開発本部 本部長

カスタマーサポートとして、当時20人規模のヒューマンテクノロジーズに入社。カスタマーサポート部門の人数が増えてきたタイミングで、育成部門の立ち上げを経験。組織がプロジェクト制に移行する過程で、会社全体で人材育成を行う人材開発プロジェクトのリーダーを務める。その後、「部長たちをもっと本来の業務に集中させてあげたい」との思いから、専任の人事チームを立ち上げ、現在は人事部長として全体をマネジメント。

カスタマーサポートから人事部長に。異色のキャリアチェンジ

宍戸さんが、ヒューマンテクノロジーズに入社した経緯を教えてください。

宍戸さん

「実は前職の先輩に声をかけてもらいました。『伸びしろのあるSaaS業界でやりがいのある仕事やってみない?』と誘っていただいたのがきっかけです。私が入社した15年前は20人ぐらいしかいない小さな会社だったので、まさか300名規模の会社になるとは思っていませんでしたね…」

現在、人事部長として活躍されていますが、入社した当初の業務は何だったのですか?

宍戸さん

「最初はカスタマーサポートです。当時はまだ先輩が2名しかいないところに私が入ってやっと3名という体制だったので、会社がある程度軌道に乗って人員を増やすまでは導入支援からアフターサポートまで一気通貫でやっていました。だから、キャリアの年数でいうと、カスタマーサポートの経験が長いんですよね。産休や育休を挟みつつカスタマーサポートを5、6年経験した後に育成専門の部門を立ち上げ、現在の人事部に至ります

未経験の領域で入社し、印象に残っている出来事はありますか?

宍戸さん

「Webサービスのサポートなんて未経験だったので、入社当初はシステムの仕様を覚えるのに苦労しました。最初は本当に、資料を一つずつ覚えることで精一杯で。でもある日、『あれ?今日1回も先輩に質問しなかったな』と思う瞬間が来るんですよ。それまで点でしか見えていなかった知識が突然つながり出して、機能の組み合わせから新しい提案が自然と出てくるようになりました。私はこの時期を『降りてくる』と呼んでいます。その後入社してカスタマーサポート部門に入った社員たちも、みんなある時期に“降りてくる”んですよね。それを実感できるのが本当に面白かったです」

その後、カスタマーサポートの育成部門を立ち上げたわけですね…?

宍戸さん

「はい。カスタマーサポート部門の人数が増え、新人教育が必要になってきたタイミングでした。最初は先輩として後輩に教える立場から、そのうち『教育担当』という役割を任されるようになりました。実は最初、教育担当になることを望んでいませんでした。むしろお客様対応を続けたかったくらいです」

そこから人材育成の楽しさを感じるようになったきっかけは?

宍戸さん

「教育担当になるたびに、最初は『また私なの?』と正直思ってました(笑)。新しい社員が入るたびに、部長から『よろしくね』って言われて。いつも自分が教育担当になるのがちょっと不満だったんです。でもあるとき、育成の楽しさに“開眼”したというか、『この部分をちゃんと教えないと絶対に詰まる』と、先回りして育成できるようになったんです。カスタマーサポートをしていたときと同様、『点』が『線』になってつながり始めたんです」

育成をするときに、心がけていたことはありますか?

宍戸さん

「とにかく、『自分のことを役者だと思って』と伝えていました。内心では敬意を持っていても、話し方が雑だったりすると、まったく伝わらない。だから、電話口でも『この人はちゃんと話を聞いてくれる』『親身になってくれる』『自分のために知恵を絞ってくれる』と思ってもらえるように、どう演じるかが大事なんです」

なぜ、役者のように演じるのが大事なのでしょうか?

宍戸さん

「素人っぽくオドオドしていたら、お客様も不安になるじゃないですか。自分たちで作っているものなんだから『あなたが分からないなら、誰が分かるの?』って話になってしまう。だから、みんながお客様にとって“プロ”だと思われていることを忘れずに対応してください、と伝えていましたね。
人によっては鏡を置いてもらうなんてことも提案しましたよ。顧客対応をしているうちに、疲れてくると表情が曇ってくる。だから自分の表情を客観視できるように鏡を置いて、常に表情を意識できるような取り組みをしていました。あとは『平常心』と書いた付箋を貼るなど、一人ひとりに合わせた育成方法を考えつつ、一人で全員を見るのはどうしても限界が来るため、仕組み化できるところは仕組み化していきました」

部門を超え、カスタマーサポートの育成から全社の育成へ

ヒューマンテクノロジーズではプロジェクト制への移行など、組織体制にも大きな変化があったと聞きました。

宍戸さん

「そうですね。それまでは部署ごとに採用も育成もバラバラだったのですが、よりフラットで変化に対して柔軟に対応する組織を目指すために、プロジェクト制の組織に移行しました。その過程で、会社全体で人材育成を行う仕組みが必要になり、社長に声をかけてもらったんです。『カスタマーサポート部門での育成ノウハウを全社に展開し、今後は全員を見る役割を担わないか?』と」

それが、人事になるきっかけだったんですね…!でも、全社の育成を担う役割を任されることへのプレッシャーはありませんでしたか?

宍戸さん

「もちろん不安もありましたが、それよりもありがたさが大きかったですね。当時の社長から直接声をかけていただいて、『やってみたい』と素直に思いました。その結果、教育を構築する人材開発のプロジェクトができ、そのリーダーを勤めていました。
さらに、各部門の部長は本来もっと重要な業務に集中したいのに、人がなかなか採れないなどの理由で採用と業務の両方をこなさなければいけない状況を見て、『どこかにこの業務を集約できないか』『部長たちをもっと本来の業務に集中させてあげたい』と思ったんです。そこで、上司に相談をした結果、専任の人事チームを立ち上げてもらえることになりました
今はもう頼もしい後輩がたくさんいるので、任せつつ、私は人事部長として全体をマネジメントする立場に切り替えています」

全社の育成を担ううえで、具体的にどんな取り組みをされたんですか?

宍戸さん

「一番大きい取り組みは、eラーニングの導入です。会社が大きくなり、集合研修だけでは対応できなくなりました。日本全国から採用するようになりリモートワークが前提になってきたので、教育の仕組みも変える必要がありました。私が現場で培ったノウハウを動画コンテンツにし、誰もが同じ質の研修を受けられるような体制を整えました」

これまでさまざまな経験をされてきた中で、ご自身のキャリアにおいて「転機だった」と感じる出来事はありましたか?

宍戸さん

「これまでのキャリアを振り返ると、『これが転機だった』とはっきり言えるような出来事が、実はあまりないんです…。人数が少なかったので、みんななんでもやるしかなくて。やっていくうちに少しずつ『こういうことをやりたい』という想いの輪郭がはっきりしてきて、グラデーションのように、じわじわと現在の自分ができあがってきた感覚です。ありがたいことに、周囲のすごい方達がよってたかって育ててくれたのも大きかったと思います。今は自分が会社からもらったものを下の世代のメンバーに返していくことに意識が向いています。いかに下の世代たちが育っていけるか、ということに関心がありますね」

一人ひとりが「キャリアオーナーシップ」を持てるようになって欲しい

改めて、現在の人事課題は何でしょうか?

宍戸さん

社員一人ひとりが、キャリアオーナーシップを持つことです。組織である以上、どうしても組織都合での人材配置が発生することは避けられません。ただ、それも含めて『この会社で自分はどうなっていきたいのか』をしっかり考えてもらえる環境をつくっていきたいんです。
ライフプランも人それぞれです。お子さんの誕生や介護といった転機があるなか、『この会社で何を成し遂げたいか』『どんな貢献をしたいか』を自分の言葉で定義し、実現に向けて動ける。そんな支援ができる人事でありたいと思っています。
最近“ウィルハラ”という言葉を聞いて『こういう主体性を求めることも、もしかしてハラスメントにあたるんじゃないか』と不安になることもあります。とはいえ、例えやりたいことがなくとも、これまでの仕事経験から『苦なくできたこと』や『パフォーマンスが高かったこと』はありますよね。そういった過去の経験から、仕事の軸を見つけることで主体的なキャリアを築けると考えています」

たしかに、やりたいことに縛られなくとも仕事の軸は見つけられそうですね

宍戸さん

「そうなんです。そしてもう1つは、変化に対応する力を身につけてもらうことです。社会の変化が激しいため、自ずと会社が変化するスピードも早くなります。そうした会社の変化に伴い、『必要とされるスキルや経験』もどんどん変わっていきます。
例えば、私たちは勤怠管理を起点に事業を始めたので、最初は労務知識を持つ人が重宝されていました。でも今後は、周辺サービスを広げていく中で、労務よりも別の知識や経験が必要になる場面が増えるかもしれません。給与計算に詳しい人のほうが求められるフェーズが来るかもしれない。
つまり、事業のフェーズに合わせて『価値あるスキルや経験』もどんどん変化していきます。以前は重宝されていた知識や経験が、短期間でそれほど重要でなくなる可能性があるんです。
とはいえ、当時必要とされたスキルを持って入社してくださった方々は、熱意を持って会社に貢献してくださっているわけです。だからこそ、そういった方々が“隣の領域”にも手を広げ、知識やスキルを加えて活躍の場を広げていけるような仕組みづくりが、これからの人事の大きな課題になると感じています」

 

カオナビにデータを集約し、「適材適所の人材配置」を目指す

キャリアオーナーシップの観点で、もし具体的に進めようとしている施策があれば、お聞かせいただけますか?

宍戸さん

「いま考えているのは、大きく2つの軸です。1つは、人材開発部門のメンバーに協力してもらって、「キャリア研修」を実施すること。そしてもう1つは、私自身や人事施策を一緒に考えてくれているメンバーとともに、全社員との面談を行うことを予定しています

全員と面談されるんですね…!

宍戸さん

「希望や要望はもちろんお聞きしますし、これまでどんなことをやってきたか、これからどうなっていきたいかといったことをうかがう予定です。ただ、希望を聞くことで『期待させすぎる』リスクもあるため、確約はできないことはきちんと伝えたうえで行います。それでも、できる限り嫌なことを無理にさせたくはありませんし、社員の意向には寄り添いたいと思っています。
とはいえ、それはあくまで会社のKPIに直結する配置であることが前提です。例えば『顧客対応が嫌だから異動したい』という理由ではなく、『こういうことを成し遂げたい』『こういう貢献がしたい』といった前向きな意志を持っている方に対し、しっかり支援していけるような体制をつくっていきたいと考えています」

最後に、これから取り組みたい施策があれば教えてください。

宍戸さん

「キャリアオーナシップを持ってもらったり、変化に対応する力を身につけてもらったりすることと関連しますが、個人の成長を後押しするために『適材適所の人材配置』を行っていきたいです。
例えば、入社時にしか行っていない適性検査を、今後は定期的に実施していくことを検討中です。スキルや才能には後天的に伸びる要素もあるとされているので、年に1回のペースで実施し、数年単位でスキルの推移を観察できるようにする。そのデータを『カオナビ』に蓄積して可視化し、人材配置やリーダー登用などの判断に活かしていければと考えています。そのためにもまずは、さまざまな情報をカオナビ上にデータベースとしてきちんと蓄積したいです。
最終的には、個人の成長が組織全体に還元されて、結果として会社全体の生産性が上がっていく、そんな循環が理想です」

編集後記

「面接では、できるだけ本音を話してもらうのが大事。だから、表情や相槌、質問によって相手が話しやすい雰囲気を作るんです」と話していた宍戸さん。その言葉通り、取材も宍戸さんのほうから話しやすい雰囲気を作っていただき、取材だけど日常会話のようなとっても自然な雰囲気で話を聞くことができました。
「女優になった気持ちで」という話もありましたが、常に相手がどう思うかを考えつつ、部長の方々を本来の業務に集中させるために自ら提案して人事チームを作るなど、協調性と行動力の両輪こそが、宍戸さんの実績につながっているのだと感じた取材でした。

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会社概要

社名 株式会社ヒューマンテクノロジーズ 
設立 2001年11月
事業内容 勤怠管理・人事給与を中心としたクラウドサービスの開発及び提供
従業員数 306名(2025年3月時点)
会社HP https://www.h-t.co.jp/

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