BIツールとタレマネシステムの二刀流で人事DXを推進。製造業の老舗メーカー「OKI」が描くデータドリブン人事とは?
沖電気工業株式会社 |
人事戦略部 戦略企画室人事DX推進チーム
小鯛 颯人さん
2025.06.02
1881年、日本初の電気通信機器メーカーとして産声を上げ、以来、日本の産業を支え続けてきた沖電気工業株式会社(OKI)。中期経営計画2025で事業ポートフォリオの見直しと将来事業の創造を掲げる今、イノベーションが生まれやすい組織づくりに向け、人事DXを進めています。
こうした人事DXを推進するキーパーソンの一人が、OKIの人事、小鯛颯人(こだいはやと)さんです。「たまたま」だと話す人事の仕事に就いてから、人材情報の可視化や分析を通じ、データドリブン人事の実現を目指しています。
そんな小鯛さんには、周囲の同世代が自身のキャリアを真剣に見つめ始める中、「このままではいけない」と焦燥感を抱いた過去がありました。この記事では、小鯛さんのキャリアを紐解きながら、同社が直面する人事課題や人事DXの取り組みに迫ります。
Profile

小鯛 颯人
沖電気工業株式会社
人事戦略部 戦略企画室人事DX推進チーム
新卒で入社した会社で人事を経験後、グローバルコンサルティング会社へ転職し、BIツールなどのITスキルを習得。その後、「ゼロからシステム基盤を作り上げたい」という思いでOKIへ入社。現在は、BIツールとタレントマネジメントシステム「カオナビ」を活用し、グループ全体の人材情報の可視化やデータドリブン人事の実現に取り組む。
真剣にキャリアと向き合い始めた友人を見て「やばい」と感じた
まず、小鯛さんが人事になった経緯から教えてください。

「最初は本当にたまたまたどり着いたのが人事だったんです。就職活動して内定をもらった会社がコーポレート系で、『人事か、経理かどちらかをやってください』と言われて『じゃあ人事をやります』となったのが、最初です。振り返ってお話すると、高校卒業後から家庭の事情で学費を稼ぐ必要があり、勤労学生ではないですが、まわりより働き始めるのが早かったんです。当時は仕事を“お金を稼ぐための手段”としてしか捉えてなくて『キャリア形成』みたいな意識はなかったんですよね。当時は『これがどうしてもやりたい!』という強いこだわりはなくて…。とりあえず働いて生活できればいいくらいに考えていました。人事でも経理でも『言われたことをとりあえずやる』という気持ちで入社しました。でも、キャリアをちゃんと意識し始めたタイミングがあって、それが24歳のときでした」
何がきっかけだったんですか…?

「まわりの同い年の友人が、キャリアについて真剣に語るようになり始めたんです。周りは大学を卒業して私よりも後に働き始めるわけですが、お金を稼いで生活できれば良いくらいの心持で働いていた私に対し、友人は真剣にキャリアの話をするんですよ。そこで急に『やばいな』と思い始めたんです。
なぜなら、彼らが順調に進んでいく一方で私がこのままだと、生活水準も価値観も視座も、どんどん合わなくなって“そのうち友達でいられなくなるのではないか”と感じたんです。そんなことを考え始めた頃に、ずっと登録した状態だった転職エージェントからたまたま、『現在の状況はどうですか?ちなみに、こういうコンサルの会社からの募集があるんですが』と言われたんです。
当時の業務にも会社にも不満はなかったのですが、そこそこ知名度がある会社だったので、ブランドに惹かれてしまい、いわば浮気心で転職したという感じです(笑)。
結果としてその会社でハードワークに目覚め、デジタルツールの活用という今のキャリアの軸となるスキルを身につけることができました。入社したばかりのときは、ゆとりを持って仕事をしていた自分にとっては本当に厳しい環境で、『何を考えて仕事をしているんですか?』『どう考えたらそういう結論に至るんですか?』と、コンサルの方の基準(いま考えるとそこまでじゃなかったかも)で厳しく詰められました(笑)。
でも、大学を中途退学してしまっていた私には後がないと感じ、逃げ場のない状況だったからこそ、挫けずに猛烈に仕事に打ち込むことができたのだと思います。
結果として、会社がDXの分野に力を入れ始めたとき、メインがBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを使った業務内容になり、そこで身につけたスキルが今でも役に立っています」
前職のコンサルティング会社での経験が、今の小鯛さんのキャリアの土台になっているんですね。

「本当にそう思います。徹底的に鍛えられました。BIツールだけでなくETL(Extract:抽出、Transform:変換、Load:読み込みの略)ツールを活用したデータマートの作り方を学べたのは今に活きてますね。システムを構築する際、一年そこらで賞味期限が切れるようなものではなく、将来のリスクを見越した構築の考え方も、とても勉強になりました。
とはいえ当時は本当に忙しく、夜遅くまで帰れずに友達との約束を何度もドタキャンするような状況でしたが、今となってはそこで鍛えられたことに感謝しています。
振り返ると、業務レベルの高い人が多く、当時一番若く経験も浅かった私は、『自分にしかできない仕事がない』と感じて悔しい思いをしました。だからこそ、何か一つでも自分の強み、魅力を作らなければと思い、必死だったのかもしれないです」
「ゼロから作り上げたい」衝動が抑えられず、無限の可能性を秘めたOKIへ
そこからなぜ、OKIという歴史あるメーカーへの転身を決意したのですか?

「前職は、グローバルに展開するコンサルティング会社で、最先端のノウハウやツールが常に提供されながら、業務を遂行できる環境は非常に魅力的でした。例えるなら、自由に利用して良い広大な砂場が用意されており、最新の遊具も揃っている状況です。そこで、与えられた土壌の中で、いかに精緻な砂のお城を築き上げるか、ということに私を含む多くのスタッフが情熱を注いでいましたし、それはそれで素晴らしいことだと理解していました。
しかし、その恵まれた環境に身を置く中で、ふつふつと『ゼロから作り上げたい』という衝動を抑えられなくなったんです。
そんな折、人事系の企画職を探していたのですが、当時のOKIでは何をするのか、どんな人材を求めているのかといった情報が詳細には公開されていませんでした。まさに白紙に近い状態で、いわばゼロから”なにか”を構築できる環境に思えたんです。面接で話を聞けば聞くほど『何もないところから作っていく』フェーズだと感じました。その曖昧さこそが、私にとっては無限の可能性を秘めているように思えたのです」
入社された当時、どのような課題が顕在化していたのですか?

「最初に痛感したのは、グループ全体の人材情報の可視化ができていないことでした。例えば、今お見せしているこのBIツールは、グループ全体や各子会社に、どのような人員構成で、どれくらいの人数が在籍しているのかを、タイムラインで把握できるものですが、こういった情報の可視化すらできていなかったんです。
正直なところ『どこに、何人いるのか』『契約社員の数』『グループ各社の人数』といった基本的な情報は、システムにデータがきちんと入力されていれば、容易に集計できるはずです。ところが、以前は各部署で各々データをまとめており、同じ切り口でデータを抽出しても集計後の粒度が揃わない。そもそも人力なので、集計や変換作業に膨大な手間がかかっていたんです。
そこで常に最新の人材情報を、誰もがリアルタイムに確認できるシステムを構築したことが、最初の大きな成果です」

「ほかの皆さんも見やすいように可視化したことで、シニア社員の数が今後数年で急増することもわかってはいたものの、ちゃんと危機感を実感できるようなものができあがりました。バブル世代が定年を迎える時期が迫っており、この傾向はさらに加速する見込みです。そのため、新卒採用だけではなくキャリア採用の強化が急務ということが数字としてわかり、『どのグレードの人材を、どれくらいの人数採用すべきか』具体的な根拠を示す土台が誰に頼まずとも出てくるようになったわけです。
加えて、根拠ある適材適所のアサインメントもできていませんでした。今後は、個人のスキルや経験、キャリア志向を可視化できる『カオナビ』のデータをBIツールに連携させ、『なぜこの人がこの部署にいるのだろうか?』『このスキルを持つ人材を、なぜこのポジションに配置したのか?』といった判断が、明確な根拠にもとづいて行われるようにしたいです」
がんばる人がきちんと報われる、”置いていかない”DXを目指す
BIツールとカオナビの使い分けについて、もう少し詳しく教えてください。

「大前提、全体を見るBIツールと、個々の情報や年度ごとの情報を見るカオナビを連携させるイメージです。さらに、カオナビは異動シミュレーションなどもできますよね。この人をこう動かしたらどうなるか、顔写真のドラッグ&ドロップを使ったシミュレーションもビジネス部門で使ってもらいたいと思っており、機能の開放をさらに進めていくつもりです。
カオナビは色々な情報を蓄積できる『データの集積地』の役割を果たしてくれます。
今後は、それらの情報を高度に活用したいです。歴史のある企業なので、過去のデータはたくさんあります。その情報を活用できていませんでしたが、カオナビに登録することでこの人がいつ入社して、過去にどんな経歴があるのか、といった情報がすぐに分かるようになりました。
最近も色々な機能がリリースされており、例えば発令系の機能なども早く検証を進め、タレントマネジメントシステムとして機能するようにしていきたいです」
入社時にご自身が思い描いた「やりたいこと」に対し、現在、どの程度の進捗ですか?

「入社時に思い描いていた理想の状態を100%だとすると、現状(2025年4月時点)ではまだ45%程度です。前職ではすでに整備された舞台のうえで、決められた役割を演じる感覚がありましたが、その舞台は多くの人々の想像を絶する苦労と時間によって築き上げられたものだと実感しています。
ようやくかたちになり始めたシステムも、まだ手入れを怠れば崩れてしまうような状態です。そのうえで、本来やりたかった高度な施策を実行していくには、まだまだ時間がかかりそうです」
そんなやりたいことが、推進力につながっているんですね。

「社会人として働き始めた頃はやりたいことはなかったと言ったんですが、働いていくうちに色々な人のがんばりを見て、人の力を引き出して組織のレベルを向上させたいと思うようになったんです。
それと私は、“がんばる人を置いていかない組織”にしたいとこっそり思っていて…。デジタルとは無縁な何かを真面目にがんばってスキルを身につけてきた人が、デジタルが苦手であるがゆえに置いていかれることもあると思うんです。そういう人を置いていかない、がんばる人がきちんと報われるような基盤を構築したいなんて考えています」

「カオナビも目指しているものが私と似ていると勝手に思っていて。UIが使いやすいからこそ、システムに不慣れな人やITが苦手な人でも、どこを触ったらどうなるか不安にさせないデザインになっており、本当にすばらしいと思います。
人事系のシステムって、人を扱っている割に意外とユーザーファーストじゃなかったり、使いにくかったりするツールも多いんですよ。私の予想ですけど、作る人がシステムに詳しい人だから、どうしても詳しい人の感覚に合わさっちゃうんじゃないかと思うんですよね。でもカオナビは、システム開発者の方々とカスタマーサクセスの方々が密に連携をとっていることが普段のコミュニケーションから感じるのですが、そのお陰なのかユーザー目線で考え抜かれている、使いたくなるシステムに仕上がっていると感じます。私も、その世界観をOKIで実現したいんです」
「属人的なスキル管理の脱却」と「グローバル人材の可視化」に取り組む
製造業特有の課題についてもお聞きしたいです。

「全社的に目標がシステム上で管理できるようになったのですが、製造業のように専門職が多い業界では、目標はスキルという土台のうえに成り立つと考えています。このスキルがあるから、こんな目標を立てようという順番になるはずです。しかし、肝心のスキル管理が部署ごとに属人化していたりして、現状可視化されていないんです。
業務経験のようなスキルは、全社的なプラットフォームがなく、部署の上長がExcelのヒアリングシートのようなもので管理し、それをレビューしている状況。こうしたスキル管理にはやはり、課題があると感じます。
そのため『ワークフロー』機能などを使い、スキルを収集したうえでカオナビ上で可視化できないか、検討を進めているところです」
中期経営計画による「事業ポートフォリオの見直し」も進められている状況かと思いますが、人事面での課題もあれば教えてください。

「人件費の把握や適切なアサインといった、要員計画の精度向上ですね。今の市場の状況に合わせて迅速に、かつ適切なポジションとのマッチングによって配置検討できるプラットフォームを現在構築中です。
このマッチングの元となるデータは、カオナビに蓄積しているデータを連携して活用する予定です」
中期経営計画ではグローバル人材の育成も掲げていますが、どの程度の進捗でしょうか?

「グローバル人材の育成の前に、まず各海外拠点にいる人材の可視化はまだまだできていない状況です。例えば私の前職では、『ワンチーム』という考え方が強く、グローバル全体が一つの塊として捉えられていました。そのため日本のオフィスからでも、海外の従業員の情報が見れるんですよ。
一方でOKIでは、育成の前にまず誰がどこにいるのかよく分からないという状態なんです。そのため、もっと前の段階、つまり国内だけでなく海外拠点の人材情報の可視化を行う必要があります。
ですから、グローバル全体の情報をカオナビ上でまとめることが、私としてはまずやりたいことです」
最後に、カオナビを導入して得られた効果があれば教えてください!

「『カオナビ』というシステム名そのままかもしれませんが、一番は顔と人を結びつけて見られるようになったことですね。例えば、異動するときにどんな人と働くのかが事前に分かります。
今後は部長クラスの方々が、どんな仕事をしてきたか、どんな目標を立てたかなどまで見える化したいと思っています。そうすることで目標の立て方を見て、『こういうスキルを持っているから、こういう目標を立てられるんだな』という、目標設定や成長のヒントを得られると思うんです。
あと、機能面以外のメリットで言うと、まずサポート体制が素晴らしいと感じています。特に、カスタマーサクセスの方々とのやり取りが非常に丁寧です。私がお願いして定例会議を設定してもらっているのですが、本当にきめ細やかな対応をしてくださいます。また、他社が抱えている課題と、それに対する解決方法についても教えてもらえるので、自社の目線だけだと行き詰っていた課題も、『そんな方法が!』と解決できた時もあって、非常に助かっています。
まるでコンサルタントのように、他社の事例を交えながら具体的なアドバイスをいただけるので、『そういう視点があるなら、こういった施策をやってみよう』という発想につながるんです。さらにシステムの話に加え、『カオナビキャンパス』といったコミュニティの存在も大きいと感じています。他社のこうしたユーザー同士のコミュニティと比較しても、カオナビのコミュニティは非常に利用しやすいんです」

「例えば、海外製のツールを提供する会社のユーザーコミュニティだと、参加者のほとんどが海外の方で、人事やシステムに対する課題感の粒度も、日本とはまったく違うんです。言語の壁もあります。その点、カオナビは日本のユーザーさまで形成されており、抱えている困りごとが非常に共感できるものが多いんです。『あ、それうちも困ってる!』と。
必要に合わせて自分で情報収集したり、解決策を探したりする上でもこうしたコミュニティは心強いですね。
横のつながりを積極的に作ろうとしてくれる点もありがたいです。私のように引っ込み思案なタイプでも、先日ユーザー会などに声をかけていただき、輪に入れてもらうことができました。
システム自体の機能ももちろんですが、手厚いサポートやユーザー同士のつながりを構築できるきっかけをくれていることを考えると、システム利用料以上の価値を提供してくれていると思っています。単純な『システム』というよりかは、サポートも含めた『サービス』に魅力を強く感じています」
編集後記
取材を通して印象的だったのは、小鯛さんの話には人の話とデジタルの話がバランス良く混ざっている点でした。とくに「がんばる人が報われる会社にしたい」と語るその言葉には、デジタル化が進む現代において、決して見失ってはならない「働く人」へのリスペクトが込められているようでした。最新のテクノロジーを駆使しながらも、その根底には常に「人」を大切にする。そんな小鯛さんの価値観に共感した取材でした。
気になる企業の人事と気軽に情報交換できます!
会社概要
社名 | 沖電気工業株式会社 |
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設立 | 1881年 |
事業内容 | パブリックソリューションおよびエンタープライズソリューション、コンポーネントプロダクツ、EMSの各分野における製品の製造・販売、システムの構築・ソリューションの提供、工事・保守・その他サービスなど |
従業員数 | 4,674名(グループ連結:14,125名)※2024年12月31日現在 |
会社HP | https://www.oki.com/jp/ |