「自分のキャリアは自分で決める」星野リゾート流、社員が自律的に“成長し続ける”文化の神髄

「自分のキャリアは自分で決める」――この言葉を、社員数4,000名を超える組織で徹底するのは容易ではありません。にもかかわらず、星野リゾートでは、社員一人ひとりが自律的にキャリアを描き、スキルを磨き続ける文化が根付いています。その背景には、創業から続く「本質を追究する」という揺るぎない経営姿勢と、企業と個人を対等なパートナーと捉える価値観がありました。
そんな星野リゾートで、学習休職制度の活用やマネジメント立候補制度への挑戦を通してマネジメントに着任するなど、ご自身もその文化を体現してきたのが人事グループの鈴木麻里江さんです。今回は鈴木さんに、これまでのキャリアや同社の人事施策を聞きながら、「自律性の育み方」や「企業と個人の理想的な関係性」に迫ります。

Profile

鈴木 麻里江

株式会社星野リゾート
人事グループ

2012年入社。初年度に全国3カ所の施設での勤務を経て、「星のや京都」へ。2016年に社内の学習休職制度を用いてMBAを取得。復職後は、立候補制度により「星のや京都」のユニットディレクターに就任。2019年に再度、立候補により人事グループへ。2020年より現職。

「個と組織が対等」であることは、ビジネスを次の100年続けるために必要

改めて鈴木さんのこれまでのご経歴と、人事に進んだきっかけから教えていただけますか?

鈴木さん

「私は新卒で星野リゾートに入社しました。実は、最初から人事の仕事がしたいとは、まったく思っていませんでした。大学では芸術や哲学といった人文系の分野を学んでいたので、ビジネスや経営という分野には、ほとんど触れたことがありませんでした。そのようなバックグラウンドを持って就職活動をするうえで、私の中では3つの軸を大切にしていました。1つ目は『人の気持ち、感情といった“こと”を扱う仕事がしたい』ということ。2つ目は、私自身が地方出身ということもあり、『地方の文化に代表される、日本ならではの多様な文化の維持深耕に寄与できる仕事がしたい』ということ。そして3つ目が、『個人ではなく、チームや組織として成果を出す仕事がしたい』ということでした。就職活動をしていた当時、正直な気持ちを言うと『サービス業は給与が少ない』『休みが少ない』といったイメージがあって、避けたい分野でした…。しかし、この3つの軸を重ね合わせて探したときに、最終的に最も合致したのが星野リゾートだったため、覚悟を持って入社を決めました。入社してからは、全国各地で施設運営に携わってきました。一番北は福島県、南は沖縄県の西表島まで、勤務する機会を持つことができました。特に西表島での勤務は、改めて日本という国の文化の裾野の広さを感じる貴重な機会でした。当時はまだ『界』ブランドもなくて、『リゾナーレ』と『星のや』の2ブランドしかない、今ほどの知名度もなかった時期でした」

まさに星野リゾートが急成長される黎明期を、現場で支えてこられたのですね。

鈴木さん

「そうですね。そして現場経験を積む中で、より成果にコミットするため、マネジメントへの挑戦を志すようになりました。入社6年目には『立候補制度』を使って、サービスチームのユニットディレクターになりました。その後、会社が急速に成長し、ブランド展開や施設の拡大を進める中で、私個人としては総支配人の経験を積みたいと漠然とですが考えていました。しかし、会社の成長スピードを考えた時に、ほかにもキャリアの選択肢があるという提案を受け、結果的に人事の仕事に立候補をして、異動をすることになりました。ただ、異動したのが2020年3月。コロナ禍に突入した時期で、大混乱の真っ只中でした。観光・宿泊業界が大きな打撃を受ける中で、雇用維持という重要なミッションを抱え、人事としてのキャリアをスタートさせた形になります。この数年間は、通常とは違う環境下で人事の経験を積んできました」

キャリアの節目節目で、会社からの期待と、ご自身の強い意志である「立候補」が重なっているのが、すごく印象的です。この「個と組織が対等」な文化の源泉は、どこにあるのでしょうか?

鈴木さん

「私たちのサービス業という業態の特色と、戦略を考えたときに、必然的にこの文化に行き着くと考えています。私たちは、目に見えない『こと』や『感情』を扱いながら、サービスを提供します。そして、このサービスを『チーム』で提供しています。チームが単なる個の集まりではなく、互いに影響し合い、大きな相乗効果を生み出すには、チームの力を最大化するための「組織文化」がコアになければならない。では、その組織文化を成立させるために何が必要か。それは、所属する一人ひとりが、今持っているものだけで満足するのではなく、どうすれば自分のスキルが向上し、成長し続けられるかを考え続けることです。そして、その成長を持続させるためには、『こうありたい』という本人の強い気持ちと、自分自身を深く理解していることが前提になります。さらに、チーム内で互いに刺激し合い、磨き合う関係性も欠かせません。会社が存続すること、つまり持続可能性は、社員の生活の安定と、その家族の安定に直結します。だからこそ、会社経営は持続可能性を目標とし、それを実現するために必要な人事施策として、自律的なキャリア形成を大切にしてきました。これは、私たちが会社と個人が対等な関係であることが理想だと掲げ、醸成してきた文化であるということ以上に、『このビジネスを次の100年も続けるために何が必要か』という本質的な問いから導かれた、経営戦略の一貫性そのものだと考えています。そのため、私たちにとっては、経営戦略と人事戦略が繋がっていることは当たり前なのです」

「私以上に私のことを考えてくれている」と感じたとき、私は自発的になれた

経営戦略と人事戦略の連動に苦労する会社さんも多い中で、星野リゾートでは実現できているのですね。また、文化を体現する仕組みの一つが、鈴木さんも経験された「学習休職制度」や「立候補制度」だと思います。社員の「キャリア自律」を信じ、任せることの重要性を、ご自身の経験を通じてどのように感じていますか?

鈴木さん

「まず、私自身がグロービス経営大学院でMBAを取得するために『学習休職制度』を利用しました。私が大学院を選んだのは、『このままのスピードで現場経験を積むだけでは、組織の成長スピードに間に合わない』という危機感があったからです。当時、社内にも色々な学びを支援する制度はありましたが、やはり体系的で専門的な知識が必要だと感じました。グロービスのプログラムは、国内にいながら最短9〜12ヶ月という短期集中で、世界各国から集まる優秀な学生と一緒に学べる点に魅力を感じましたね。英語での受講でハードルは高かったのですが、どうせ挑戦するならと、業務後に英語力の強化に励み、飛び込みました。そこで得られたものは、座学の知識以上に、『自分が何を知らないのか』を知ることができたという点です。そして、自分ができること、持っている知識は本当にごく一部だと自覚した上で、今自分ができることに立脚して、仕事と継続的な学びを通して、スキルや知識を磨き続けるしかないという覚悟を持てたこと。これが一番大きかったですね。立候補制度のような仕組みを通じて、社員が自分のキャリアを主体的に決め、会社がそれを支援する。そうすることで社員は、『この会社は私を必要としている』『私のキャリアを真剣に考えてくれている』と感じられるようになります。重要なのは、『会社都合の提案ではない』ということです。会社は、社員の表面的なやりたいという気持ちだけでなく、『この人は、今は興味がないかもしれないけれど、これを経験すれば本質的に成長できる』という、その人のインサイトに近い部分まで見極めて提案することが理想なのではないかと考えています。それを社員が受け取り、『私以上に私のことを考えてくれている』と感じたとき、人は、自分が思う以上の力を発揮することができるのかもしれません」

まさに企業と個人の理想的な関係に思えます。その社員の「学び続ける姿勢」を育む上で、ユニークな取り組みとして「麓村塾」があります。「学びたいときに学びたいことを学ぶ」という思想は、一般的な企業の「研修」とは一線を画しますが、このスタイルが生まれた背景を教えてください。

鈴木さん

「麓村塾とは、創業の地である長野県軽井沢にて、浅間山の麓で開催された社内塾を起源としていることから付いた名前であり、個人の成長が会社の成長に繋がるという考えの元、仕事に活きる知識やスキルを習得する場です。特に現代においては、個人が得たいスキルや知識を得る場は沢山提供されています。一方で、会社として社員に学んでほしい優先度の高い知識を体系的に提供すること、そして、その知識を実務の中でどう活かせばいいかにつなげること、さらに、実際の成功や失敗の経験を持つ社員から直接、生きた知恵としてシェアされること。これらが合わさることで、学びが最大化すると考えています。麓村塾の最も特徴的な点は、受講が『社員のプライベートの時間』で行われることです。休憩時間や休日など、業務時間外に参加します。これは、知識やスキルを必要とするタイミングは個人差があり、会社指定のタイミングで行う研修では、学習効果が限定的になるという考えがあるからです。自分の時間を投じることで、学びの時間に向き合う姿勢がより前向きなものになり、得られることが最大化されると考えています」

「自分ごと」として学ぶ姿勢を徹底して引き出しているんですね。講師も社員が務めることが多いそうですが、社員が自ら教え合う文化は、どのようにして醸成されたのでしょうか?

鈴木さん

「星野リゾートの社員は全員、OJTなどを通じて誰かに何かを伝え、できるようになるまでのプロセスに関わっています。この経験を通して、『自分ができること』と『相手にできるように伝えること』はまったく違うことを実感します。人に教える経験は、自分の知識を整理し、自分自身の仕事の質を客観的に見つめ直す機会になります。社員は、『麓村塾で講師をするのは大変だけれど、自分に返ってくるもののほうが大きい』ということを、日々の業務の経験も通して、感じています。この利他的な行動が、結果的に自分を成長させるという実感が、社員の知的好奇心と主体性を引き出しているのかもしれません」

働く期間が長くなる中で、真に「核」となるものを持ちながらしなやかに動く

採用活動においても、この「キャリア自律」の考え方は貫かれていますね。御社に多くの応募者が集まる背景と、採用における工夫について教えてください。

鈴木さん

応募者が多く集まる要因として、BtoCビジネスなので、応募者自身が顧客として商品に触れる機会が多く、ブランド認知度が高いという点は正直大きいと思っています。子どもの頃に『リゾナーレ』に行ったとか、家族旅行で『界』に泊まったなど、消費者としてブランドに接する機会を持ったことがあるという方も増えてきました。ただ、私たちが目指すのは、プロダクトブランドに頼らずとも、マッチングの高い採用ができることです。採用のプロセスは、人を採るという一方的なものではなく、会社と個人の『関係性構築』の始まりだと捉えています。会社が持続可能性を高めていくため、そして社員一人ひとりが星野リゾートで働く時間を良い時間にするために、この関係性をいかに強固にするかが重要だと考えています。そのため、私たちは選考を通じて、情報を一方的に伝えるだけでなく、学生が持っている“やりたいこと”の奥底にある、本当に大切にしたい『本質的なニーズ』を見つけ出し、提案していくことに注力しています。これは、マーケティングにおけるインサイトの発見に似ているかもしれません。『あなたはこれをやりたいと言っているけれど、本当に大事にしたいのは、こういうことではないですか?』という視点を持つイメージです。仮に、応募をしてきてくださった方が入社というルートを選ばなかったとしても、将来的には顧客として、あるいは社会の一員として、関係性は継続していきます。だからこそ、私たちはどの段階においても、一人ひとりと真摯に向き合うことを大切にします。選考に多くの時間を使ってくださる学生に対し、良い時間だったと思ってもらえるように努めることが、私たち人事の責任だと思っています」

ご自身の現場経験からMBA取得、そして人事というキャリアを歩まれた視点から、これからの時代に個人がキャリアを築いていく上で、最も重要になることは何だと思いますか?

鈴木さん

「今後、私たちは皆、70歳、80歳、もしかしたら90歳まで働くことになるかもしれません。そうした未来を考えると、組織に所属し続け、自分自身を活かし続けるために最も重要なのは、柔軟さだと感じています。社会の状況も、所属する組織のあり方も、そこで求められる役割も、常に変化していきますよね。その予測できない変化の中で、しなやかに対応できることが必要だと考えます。この柔軟さというのは、ただ流されることではなく、真に『核』となるものを持ちながら、しなやかに動く竹や柳のようなイメージです。その核となるものが、日々の仕事の中で磨き上げられた『スキル』であり、個人の『信念』です。私自身もそうですが、今持っているスキルも、将来を考えればまだまだ足りません。若手だけでなく、どの世代も、自分自身と向き合い、対峙し、スキルと信念を磨き続けることが、未来の自分を活かし続ける唯一の道だと考えています。組織に属さない生き方もあるかもしれませんが、私自身の経験から言えば、最終的には組織やコミュニティの中で何らかの役割を担うという形で人生を全うすることが、充実した生き方につながるのではないかと感じています。定年後に社会とのつながりを失い、生きがいを失う『燃え尽き』を避けるためにも、年齢に縛られず、社会の一員として貢献できる場を持ち続けたいと感じます。日本人は学ばないと言われたりもしていますが、組織に属する皆が、謙虚に学び、経験を積み、自分の市場価値を高めて、その力を未来を変える活動に活かしていく。そうすることで、私たち一人ひとりが、希望を持って生きられる社会が実現すると信じています」

ありがとうございます!最後に、社員の主体性や才能を最大限に引き出したいと考える人事担当者へ向け、メッセージやアドバイスをいただけますか?

鈴木さん

「私は、次の30年を担う私たち、そしてその次の世代に対し、『未来は明るい』とポジティブなメッセージを発信していくことが、今、最も重要だと感じています。私たち、今の30代から40代の世代は、バブル崩壊後の、どちらかというとネガティブな情報が多い時代に育ちました。その結果、『社会は暗い』『どうせ変わらないだろう』と感じてしまう傾向があるかもしれません。しかし、ビジネスの世界は自分たちの手で未来を変えていける、数少ない場所です。人事の皆さんには、ぜひ、社員の主体的な学びと成長への意欲を後押しし、そのスキルを未来への変化につなげていってほしいと願っています。社員の真のニーズを見極めて、短期的な利益ではなく、長期的な成長のために投資し、『あなたを必要としている。一緒に会社を、社会を良くしていこう』という真摯なメッセージを発し続けること。それが、社員の主体性を引き出し、組織の力を最大限に高める鍵になるのではないでしょうか。学ぶことを楽しみ、挑戦し、明るい未来をつくっていきましょう!」

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会社概要

社名 株式会社星野リゾート
設立 1914年
事業内容 リゾート・温泉旅館運営、ブライダル、別荘マネジメント、エコツーリズム、スキー場運営
会社HP https://hoshinoresorts.com/jp/aboutus/profile/

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