人事こそ「内省」と「自分のモノサシ」を大事にしたほうが良い理由

「人事は孤独である」ーー。組織の要でありながら、経営と現場の板挟みにあい、正解のない問いに向き合い続ける人事担当者。そんな孤独ともとれる時間を、「悩み」で終わらせるか、組織を動かす「推進力」に変えられるか。その分岐点は、自分の感情、考え方を客観的に見つめ直す「内省」と、そこから生まれる「自分のモノサシ」にあるのかもしれません。

そんな内省を大事にしてきたと話す、国家公務員の長野さんと株式会社うるるの神崎さん。2人とも過去、人事のヨコガオで取材しましたが、偶然の出会いによって意見交換する中、驚くほど考え方が似ているということで今回の対談が実現しました。

霞が関の人事と、ベンチャーの人事。異色の組み合わせに見えて実は、人事に対する哲学が共通するお二人に、人事こそ内省を行い、自分のモノサシを持つ意義について語っていただきました!

<プロフィール>
■国立公文書館総務課長 内閣府参事官 長野浩二
https://lp-campus.kaonavi.jp/yokogao/57-1

■株式会社うるる 人事部人事企画課課長 神崎智恵
https://lp-campus.kaonavi.jp/yokogao/22-1

「おい、ちょ、待てよ」のシーンと人事の意外な共通点

まずはお二人が出会った経緯からお聞きできますか?

神崎さん

私の会社の同僚が長野さんと以前から知り合いだったこともあり、その関係でHR担当者同士で会合を開いたのが最初です。私は事前に、長野さんが以前「人事のヨコガオ」に出演されていた記事を読み、「なんて真面目で、言語化が上手な方なんだろう」と感銘を受けていました。長野さんが参加されると知っていたので、いくつか質問を準備して臨んだんです。

長野さん

でも、実際の会合では、用意していただいた質問をする時間もなかったんですよね(笑)

神崎さん

そうなんです!「色々聞くぞ」と思ったら、お話のほとんどが芸能ネタで…(笑)

長野さん

それはそれで深い意味のある話なんですけどね。

長野さん

たしか、YouTubeで某タレントさんの「おい、ちょ待てよ」というドラマのセリフだけを編集した動画があるから見てくれ、と宿題まで出しました(笑)。実はあれ、とても興味深い視点があるんです。動画をよく見ると、「待てよ」と呼び止めても、相手は待ってくれていないんです。つまり「待てよ」と言っている時点ですでに手遅れの状態になっている。本当はその前から何らかの予兆が出ていたのに見逃していたのでしょうね。これは離職も同じで、「辞めたい」とはっきり言葉にされたときにはもう遅い。だからこそ、人事はその予兆を検知するためにサーベイなり1on1なりを行うわけです。

神崎さん

このお話を聞いて、長野さんは見聞きしたものを抽象化し、仕事に応用するのが非常に上手な方だと思いました。その後、改めてオンラインでじっくりお話しする機会があり、物事の捉え方や人事に対する哲学が驚くほど似ていることに気づいたんです。

長野さん

私も神崎さんのカオナビの記事を読み直し、特に「自分のモノサシで歩く方が自己肯定感を高く保てる」という言葉に深く共感しました。他者と比べて「あれが足りない」と悩むのではなく、自分らしくいるために「自分軸」を持つ。これは私がキャリア支援で大切にしている視点そのものでした。全く異なる環境にいても、見ている本質は同じだと確信しましたね。

経営と現場の間にいる人事だからこそ「意志を持つ」ことが必要

「自分のモノサシ」を持つことは、人事の仕事にどう関わってくるのでしょうか?

長野さん

人事が新しい制度を導入しようとすると、現場から猛烈な反対にあうことが多々あります。0から1を作るのは本当に大変なことですが、そんなときこそ「信念」が必要なんです。「これは絶対に組織を良くするものだ」という納得感が自分の中にないと、現場の抵抗に負けてしまいます。自分の価値観をしっかりと腹落ちさせておくことが、施策を推進するエンジンになるんです。

神崎さん

同感です。私はよく「意志を持った仕事」と表現しています。経営と現場の間にいる人事が、単に双方の言うままに動くだけなら、それは伝書鳩やロボットに任せればいいと思うんです。少し別の文脈にはなりますが、昨年末よりうるるの人事企画では「内発的成長モメンタム」の醸成を掲げて推進していくことを決めました。人事として制度やツールを整えることはできますが、結局それを使うかどうかは、従業員一人ひとりのマインド次第です。外から「やりなさい」と強制されるのではなく、自分の中から「やりたい、学びたい」という勢い(モメンタム)が湧き出てくる状態。そこに火をつけるのが人事の役割だと考えています。意志を持って働く人を増やしたいなと。

長野さん

すばらしい言葉ですね。従業員側に内側から突き動かされる「モメンタム」がないと、どんな立派な制度も形骸化してしまいますからね。

神崎さん

そうなんです。ただ、私は個人の内側だけに「想い」がある状態だけで終わらせるのも避けるべきだと考えています。「こういう業務だとやる気が出る」「こんな仕事をやりたい」という内側の想いを客観的に見つめることは大切ですが、それを言語化して初めて他者と共有でき、協力者を募ったり最適な人材配置につながったりするわけです。

長野さん

居酒屋の愚痴で終わらせず、自分の中で何が起きているのかを内省して言葉に落とし込む。そのプロセス自体が、「自分軸」を研ぎ澄ませることにもつながりますよね。

神崎さん

まさに。以前、採用で苦い経験をしました。必死に口説いて内定承諾をもらった採用候補者の方が、入社直前で辞退されてしまったことがあったんです。当時は悩みましたが、結局は外からの働きかけで一時的にうるるで働きたい理由を整理させただけで、本人の内発的動機とは結びついていなかった。候補者の方は「自分で決めた」感覚がなかったことに気付いたんだろうな、と思ったんです。

長野さん

それは人事に刺さる切実な話です。そこからどう、変えたのですか?

神崎さん

今のうるるでは、無理に口説くことは一切しません。こと新卒採用においては、最終面接前の候補者の方に人事が担当としてつき、徹底的に「思考整理」を手伝います。なりたい姿と現状のギャップ、何に心が踊るのかを言語化し合う。その結果「うるるじゃないね」という結論になることも大いにあります。本人が「自分で決めた」という納得感を持つこと。それが本人のためであり、組織の将来的な不幸を防ぐことにもなるからです。

「組織人」として生きることは、個を捨てることではない

長野さん

本当にそうですね。私は、若手職員向けに「社会課題」をテーマにしたワークショップを開催しているのですが、そこでも一番の鍵になるのは内発的動機なんです。

神崎さん

社会課題、ですか。行政ならではのテーマですよね。でも「社会課題」と言われると、自分には関係ない遠いものに感じてしまう人もいそうですが。

長野さん

その場合、半径5メートルで「自分がどうしても引っかかる」「関心がある課題」をまず見つけてもらうことからスタートしてもいいと思っています。自分は何に心が動くのだろうかという「内省」を起点にすることで、初めて社会課題が「自分事」に変わるんです。

神崎さん

自分の「関心」や「違和感」が起点になっているから、強制されなくても動けるわけですね。

長野さん

その通りです。霞が関のようなピラミッド型の組織では、どうしても「言われたことをやる」という受け身の意識が芽生えやすい。でも、どんな小さな仕事でも自分の関心事とリンクさせることができれば「自分事」に変わり得ます。人事がその「リンク」を見つける手助けをすることが、組織にレバレッジをかけることだと思うんです。

その話に関連し、個人の「やりたい」と、組織の「やってほしい」のギャップはどう埋めるべきでしょうか?

神崎さん

組織が大きくなるにつれ、バリューの意図が社内の隅々まで伝わり辛くなったり、「バリューを体現している人とはどんな人なのか」が見え辛くなってきてるといった課題感を感じています。組織が小さかった頃のように、これらを肌で感じるというのはもう無理な規模感なんですよね。だからこそ、抽象的なバリューを具体的な行動レベルまで「言語化」し直す必要があるかもしれないと感じています。

長野さん

組織人として生きることは「個を捨てる」ことではありません。個を活かすために、いかに組織との共通項(重なり)を増やしていくか。そのためには、まず相手(組織)を知る必要があります。組織のロジックや背景を理解して初めて、自分のやりたいことを成就させるための説得力あるロジックを組み立てられるんです。ただ「やりたい」と叫ぶだけでは、組織という巨大な装置はなかなか動きません。「想い」が大切なのは言うまでもないのですが。

神崎さん

その信念を確認するために、私は「三方よし」になっているかという平衡感覚を大事にしています。独りよがりになっていないか、あえて反対の立場から思考し、全体最適になっているかを確認する。これが私の内省のプロセスです。

長野さん

自分の正義を振りかざすのではなく、組織と自分の信念を照らし合わせて、どう接点を見つけていくか。そこには高度な知的生産と、自分との対話が必要ですよね。

「加減乗除の法則」で、経験し、取捨選択して自分のモノサシをつくる

人事が内省を行い、自分のモノサシを見つけるためにはどうしたら良いでしょうか?

神崎さん

まずは自分が心踊るもの、興味があるものに目を向けて「なぜ自分はこれにワクワクするのか」を自力で言語化してみることです。誰かに教えられたことよりも、自分で見つけ出した答えの方が、圧倒的にしっくり来ますから。

長野さん

私はよく仲山進也さん(楽天大学長)の「加減乗除の法則」について話をします。まずは「足し算」としていろんなものを見聞きし、経験を増やす。その経験の中から「これは自分に合う」「これは違う」と「引き算」を行い、自分のモノサシの輪郭を作る。そして、ものさしを持った上で、別の強みと掛け合わせたり、他者と「掛け算(対話やコラボレーション)」を行い、価値を倍増させる。最後に、因数分解して一つの行動で2倍3倍の効果が出るよう物事を抽象化・共有し、組織の資産にする。こういった意識でいると個性を最大限引き出しながら、組織の生産性向上に貢献できると思います。

神崎さん

とても納得感のある、フレームワークですね。闇雲な「足し算」だけでなく、自分の中で「引き算」をしてものさしの輪郭をつくってから、他者との対話やコラボレーション、つまりは「掛け算」に臨まないとせっかくの対話もただ流されて終わってしまいますもんね。

長野さん

その通り。自分のモノサシがない対話はただの「おしゃべり」になり、対話のない自分軸は独りよがりの「妄想」になりかねない。

自分のモノサシを踏まえ、想いややりたいことを社内で共有するためには、「心理的安全性」も大事かと思います。この心理的安全性については、どうお考えですか?

長野さん

正直に言うと、「心理的安全性の高い会社にしましょう」と標榜することには少し違和感があります。それは目的ではなく、あくまで手段であるべき

神崎さん

同感です。心理的安全性の先にどんなアウトプットを求めているのかが大事ですよね。

長野さん

そのうえで、手段として心理的安全性を高める必要があるなら、まずは環境の設計が重要です。リーダーが自分の弱みをさらけ出し、またメンバーからさらけ出される弱みも許容できるか。とはいえ、過去のカルチャーから若手がどうしても萎縮してしまう組織では、仕事の立場とは関係ない場で、「自分の思いを開示して受け止められる」という体験を積ませることが有効だと思います。

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