「やりたいこと探しにとらわれるな」私が悩んだからこそ伝えたい会社の選び方|後編

新卒で入ったコンサルティング会社で、優秀な同僚に囲まれた佐藤さん。彼らが得意とするロジックの世界ではなく、もっとファジーな世界でチャレンジしてみようと選んだのが人事の道でした。人事に転職してから佐藤さんは、正解がなく工夫の余地があることにやりがいを感じ、どんどん仕事にのめり込んでいったそうです。一方で、人事として数多くの就活生と会うなかで感じたのが、やりたいこと探しにこだわっている人が多い現状でした。

そこで後編では、人事に転職してから感じた仕事のおもしろさを踏まえ、佐藤さんが就活生に伝えてきたという「やりたいこと探しにとらわれるな」という考え方を話してもらいました。

前編ではやりたいことが見つからなかった佐藤さんの就活時代の話から、いかにして人事の道に辿り着いたのかを紹介

Profile

佐藤 邦彦

Thinkings株式会社

1999年東京理科大学理工学部卒業。同年、外資系コンサルティング企業に入社。業務改善・IT導入支援などのコンサルティングに従事したのち、2003年にITベンチャーに転職し、人事としてのキャリアをスタート。7年半の在籍中、採用、育成、制度運用、組織開発、労務などを幅広く担当し、後半はチームマネジメントを経験。その後、複数の事業会社での人事経験を経て、2020年4月よりリクルートワークス研究所に参画し、2022年8月まで『Works』編集長を務める。2022年10月にThinkings株式会社執行役員CHROに就任。

向き合う対象が「人」だからこそ工夫の余地があるおもしろさ

コンサルティング会社から、人事としてITベンチャーに転職されたわけですが、ギャップなどはありましたか?

佐藤さん

「事業会社の人事という仕事に触れたことがなかったので良くも悪くも先入観がなく、正直なところギャップはなかったですね。すべてが新鮮という感じでしょうか」

具体的に、人事の業務をはじめたときの印象を教えてください。

佐藤さん

「いまでこそ人事というポジションが重要視されていますが、20年前は人事はあくまでもバックオフィスで、戦略的な役割というよりはどちらかというとオペレーティブな業務を担っている部署という捉えられ方が一般的でした。ただ、いざやってみると、あらゆるテーマにおいて工夫の余地があることがわかりました。こうやればうまくいくという正解が見えない世界だからこそ、うまくやれば、ビジネスに大きく貢献できるしやりがいも感じられるという感覚はありました。ここ10年で経営における人事のプレゼンスは徐々に高まってきましたが、私が人事にキャリアチェンジした2000年前後はまったくそんな世界ではなく、人事の重要性はまだまだ低かったと思います。コンサルティング会社の同期も、人事に転身したと聞くと『どうして?』という反応で、一線を退いたかのような印象を持たれることが多かったです」

工夫の余地があると感じたきっかけはありましたか?

佐藤さん

「最初に携わった採用や育成の業務が、きっかけです。その当時、採用では求人媒体に広告を出し、集まった人を選考するのが一般的なやり方でした。ただ、それだけでは他社と差別化できないと感じ、学生の求めているものをリサーチし、就活のヒントとなるようなセミナーを開催しました。すると学生の集まり方や反応が変わり、結果的に志望してくれる学生も増えました。とくにセミナーなどで就活に関する自分の考察を整理した発信は、学生の反響も大きかったです。こうした体験を経て、ただお金をかけて求人媒体で広告を出すだけでなく、人を動かすためにはいろいろとやりようがあると感じました。向き合う対象が『人』だからこそ、正解がなく、工夫の余地があるわけです

学生にとって役立つコンテンツの提供も行ったわけですね。

佐藤さん

「はい。大きな目的は採用の成功ですが、その前に学生が何を求めているのかをリサーチし、求められているものを提供することで注目してもらうことから始めました。また、自分が採用に携わった社員が入社したときに教育プログラムが何もなかったため、研修体系の構築なども担当するようになりました。そこでも世の中に存在する汎用的なものではなく、会社のコンディションに合わせて必要なものをオーダーメイドで用意したり、場合によっては自分で企画して登壇したりしながら作っていきました。その結果、社員の反応やその後の働き方が変わってくることがあり、ここでも工夫の余地があると感じましたね。こうしてやりがいも持ちつつ人事の仕事をして3〜4年経った頃、ようやく自分の役割としてフィットしていると感じられるようになりました。最初の動機は消去法的な入口でしたが、少しずつ実績を積み上げることで自信がつき、自分の居場所として覚悟を持てるようになりました。結果的に、人事の仕事がやりたいことに変わっていったのです

やりたいことを見つけている人のほうがレアケース

学生に向けて就活に関する考察を発信していたとのことですが、具体的にどのようなことを発信していましたか?

佐藤さん

「経験にもとづいた話が多かったと思います。就活をしていると、『やりたいことがないとまずい』と焦ったり、それを一生懸命探したりする人が多いと思います。もちろん、やりたいことはあるに越したことはないのですが、就活の時期になっていきなりやりたいことを見つけるのは無理です。そのため、やりたいことを探すのではなく、自分が少しでも興味のあることや何が向いているのかを考えることがまずは大切です。そもそも就活で出会う大人だって、大半は本気でやりたいことなんて見つけられていないんですよ。だからその現実を整理して就活生に伝えました。あと、やりたいことという概念自体が抽象的なので、まずレベル感の定義が必要だと思うんです。『なんとなくやりたい』『やってみたら楽しそう』くらいであれば、大人たちも感じているでしょう。でも、『何かを犠牲にしてまでやりたい』『すべてを賭けてやりたい』と思えるようなものを見つけられている人はほとんどいないんです。それがわかれば、構えずに肩の力を抜いて就活に取り組めるのではないかと思います。そんな想いから、『やりたいこと探しにとらわれるな』とセミナーで伝えていました」

たしかに人生を賭けてやりたいことを持つのは、とても難しいですよね。

佐藤さん

世の中全体を見てもやりたいことを見つけている人のほうがレアケースなんです。だから、実際のセミナーでは周囲の大人たちを分類してもらっていました。『本当にやりたいことを見つけた人』『見つかっていないけど見つけようとがんばっている人』『見つけることを諦めた人』『そもそもそんなことを考えたことがない人』の4つに分けるんです。分類してみると、やりたいことを見つけている人はおろか、見つけようとがんばっている人すら少ないことに気づくんですよ。『世の中そんなもんだよ』という現実を伝え、焦る必要はないということをまず理解してもらいます。大事なのはここからです。そんな世の中に出ていく君たちはどうありたいのか?少なくとも私は人生をかけて見つけたいと思っているし、『見つけようとがんばっている人』にはなりたい。学生にも『こうしてみんなの前で偉そうに話している大人でもそうなんだから、見つけてる人なんて超レア。大事なのはどうありたいかだよ』と、伝えてきました。環境変化の激しい時代に、就活時点で仕事を決め打ちで選ぶことは不毛です。人生100年時代、副業も当たり前の環境では複数の職種や役割を経験していくわけです。大事なのはどんな仕事が本当に自分の成長につながり、価値を発揮できるのか見極めることです。それが結果的に、仕事をおもしろく感じ、やりたいことに変わるきっかけになることもありますので」

「成長できるか」「自分らしい価値を発揮できるか」を基準に仕事を選ぶ

成長につながったり、価値を発揮できたりする仕事かどうかは、佐藤さんご自身のキャリア観にも通じる考え方でしょうか?

佐藤さん

「はい。振り返ってみると、私も今後のキャリアにプラスになるだろうという視点で、新卒でコンサルティング業界を選びました。そのときの仕事のやり方や、構造的に物事を捉える力は人事になったいまでも活きています。また消去法的に選んだ人事も、どうやったら自分の価値を発揮できるかを考えたうえでの選択でしたので」

ここまでお話いただいたように、やりたいこと探しにとらわれない考え方は、佐藤さんご自身の経験のなかで培ったのでしょうか?

佐藤さん

「そうですね。『自分がやりたいことがなくて悩んだ経験』と『やりたいことよりもどうありたいかの方が大事だと気づいたこと』が大きく影響しています。実際に社会に出て、自分が特別ではないとわかりました。さらに、欧米のキャリアの考え方や進路選択の仕方などを学ぶようになって、日本の仕組みに課題を感じるようになりました。新卒一括採用や終身雇用・年功序列に代表されるような高度経済成長期に構築されたエコシステムも、前提条件が変化した今となっては弊害の方が大きいわけです。自分の会社でいい人を採用したいという目先の課題ももちろんありましたが、それ以上に人事を取り巻く多くの仕組み自体に疑問を感じ、考察とアクションを発信していたという感じです」

ご自身も悩みながら人事の道を進み、そして現在はCHROというポジションにいるわけですが、今後、佐藤さんが取り組みたいことはありますか?

佐藤さん

「『sonar ATS』のようなツールを活用してDXを進めることで、人事の負荷を減らしながら、本来取り組むべき課題に向き合えるような環境づくりに貢献したいと考えています。一方で中長期的に取り組むべき課題として、ながらくグローバルで通用するようなビジネスやサービスが日本から生まれていないという厳しい現実があります。足かせとなっている仕組みを変えることと並行し、優秀な人材が思う存分活躍できる社会を、組織の枠組みを越えて実現していきたいと考えています」

編集後記

取材前、佐藤さんが登場しているメディアの記事を読み、これまで順風満帆なキャリアを歩んできた方だと勝手に思い込んでいました。ですが、いざ話を聞いて見ると、優秀な人に囲まれながら自分の生きる道を探し、消去法的にたどり着いたのが人事ということ。その経験から発せられる「やりたいことにとらわれるな」は、やりたいことがなくて悩んだ佐藤さんだからこそ、重みのある言葉だと感じました。また今回、佐藤さんが話してくださったなかで印象的だったのが、ロジックな世界とファジーな世界の区別。両者は共存しつつ、どちらの世界により比重が傾いているかどうかだと思いますが、自分が価値を発揮できる場所ややりたいことを探す際のヒントになりそうですね。

*本記事の掲載内容はすべて取材時(2023年11月20日)の情報に基づいています

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会社概要

社名 Thinkings株式会社
設立 2020年1月31日
事業内容 HR Tech事業(sonar ATS、sonar store)
従業員数 188名 ※2023年10月時点(正社員、パート、アルバイト含む)
会社HP https://thinkings.co.jp/

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