人事としての集大成。50歳から新たに向き合う人事課題と後継者の育成

前職で、スペシャリストよりも人事のジェネラリストが向いていると感じた川端さん。異動を命じられたのをきっかけに、50歳を超えてから転職を考え、TSP太陽を選びました。人事キャリアの集大成として入社した同社で、どのように人事課題と向き合っているのでしょうか。後編では、川端さんが向き合う同社の人事課題や、長年人事の仕事を続けてきたからこそ感じる今と昔の変化について聞きました。
前編では川端さんが人事に至るまでの経緯や転職を考えたきっかけについて聞いています

Profile

川端 利博

TSP太陽株式会社
総務人事部 部長

1992年に、金融系の会社に入社。2年目から人事採用に異動。その後、新規事業の立ち上げメンバーを経験後、人事の仕事をもう一度したいと思い、大手事務用品メーカーの事業会社に転職。マネージャーにも任命され、人事制度の企画から運用、採用、社員教育、労働安全衛生や社内広報まで幅広く経験。ホールディングスへの逆出向や転籍を経て、もう一度人事全体を見ながらイチから仕組みをつくる仕事をしたいと思い、TSP太陽に転職。現在は、総務人事部の部長として部門全体のマネジメントを行う。

人事制度が100点満点になることはない。常にチューニングを行う

改めてTSP太陽を選んだ決め手はどこだったのですか?

川端さん

「当時、転職エージェントに『もうあなたの歳だと書類通過は10%、そこから面接に進めるのは2、3割ですよ』と言われていました。だからこそ、とにかく応募の母数を増やそうと思ったんです。その結果、無事、3社から内定をいただくことができました。50歳からの転職は、一般的に難しいと言われますが、長年にわたり人事の経験を積み重ねてきたのは事実です。そんな経験が武器になると、改めて感じた瞬間でした。そして最終的に当社を選んだのは、前職での空間プロデュースをはじめとした建設業の経験と親和性があると感じたからです。弊社はイベントのコンサルティング・プロデュースを行う会社なのですが、イベントの会場をつくるという建設業の許可も持って事業を行っています。そこで業種は違えども、抱えている人事課題は同じだろうと予想していました。面接のときに代表から当社の課題は内部統制だと伝えられました。この点についても、前職の課題感と非常に似ていると感じました。また、大きな課題の1つが、前職同様『長時間労働』です。イベントづくりなので、土日、仕事をストップするわけにはいきません。また、イベントは明確に開催日が決まっており、納期に間に合わせなくてはいけません。どうしても長時間労働をせざるをえない環境になりがちです。そのため法的にも従業員の健康面でも、問題となる長時間労働が状態化しないよう、長く働き続けられる会社を目指していかなければならないのです。面接のときにいろいろと話を聞き、前職と共通の課題が見えてきたこと、さらにこれから人事制度全般を整えていこうとしたタイミングであることから、課題解決に向けた新たなチャレンジができるという気持ちで入社を決めました。この会社はモノではなく、コト(感動)をつくる会社という点にも惹かれましたし、また、挑戦できる風土と、風通しのよさ、自由闊達な雰囲気が感じられ、そこも決め手となりましたね。入社した後、すぐにコロナ過になり大変でしたが、そこをチャンスととらえる柔軟性もあり、キャリアの最後に良い会社に巡り合えたと思います

現在、人事としてどういった業務に取り組んでいますか?

川端さん

「現在は、総務人事部の部長として部門全体のマネジメントを行っています。人事の役割としては、経営陣とともにさまざまな人事課題に対して全体最適と将来に向けた会社の方向性やリスクを考えながら、制度企画や人材開発を中心に見ています」

改めて現在の人事課題について教えてください。

川端さん

「お話した通り、長く安心して働き続けられる会社、選ばれる会社にするというのが大きなミッションなのですが、目先の課題で言うと2021年からスタートした新人事制度の運用です。私が入る直前に制度を見直すプロジェクトが進んでおり、入社してから本格的に人事制度の改革に入っていきました。新人事制度がスタートして感じているのは、ちょっとしたズレです。新人事制度に関わっているのは、私を含むキャリア採用のメンバーで、いわば外部から来た人間です。ですから、社内事情をすべて理解して作り上げられたかというと、運用していくなかで少しずれを感じるようになってきました。また、会社自体もこの数年間で規模も拡大し、事業の幅も広がりましたので、従業員数が増えていくごとに制度へのギャップが生じるのは当たり前で、新しい職種も生まれています。現状の等級制度に沿ってこのまま運用を続けていたら、どこかで歪み出てくることが考えられます。人事制度が100点満点になることはないので、常にチューニングはしていかなきゃいけないものだと思っており、とくに現在は人事制度の根幹となる等級制度の改革や長時間労働対策も含めた働き方改革を、人事メンバー・経営陣とともに進めています」

新人事制度に切り替わり、何が大きく変わったと思いますか?

川端さん

透明性の部分です。旧制度までは評価に対してブラックボックスのようなイメージを持っていた従業員も多かったと思います。評価基準が不透明で、どうやったら評価結果が報酬に反映されるのか、不明確な部分がありました。そうなると、従業員の評価への納得感も薄れてしまい、仕事のモチベーションを損なう原因にもなります。そうした状態から、評価運用そのものを目に見えるかたちにし、評価基準などをできる限り明確にしました」

評価運用の可視化のために、カオナビも導入したのですね。

川端さん

「はい。それまでも評価システムを使っていたのですが、データベースとの連動はしていませんでした。200名ほどだった従業員が増えて300名に近づいてきたタイミングで、誰がどんな仕事を経験し、どんな評価なのかをきちんと可視化して蓄積したいと経営サイドから要望をもらっていました。そこで、評価結果とデータベースが連動できる『カオナビ』を導入したのです。カオナビでの評価運用自体はまだ始まったばかりですが、私たち人事がやりたいことを表現できており、設定もとてもわかりやすいため、カオナビを導入して良かったと感じています」

長年人事を経験してきたからこそ感じる、人事を取り巻く3つの変化

長年、人事をされてきた川端さんだからこそ、過去と現在で仕事の変化を感じますか?

川端さん

「人事キャリア30年以上を経て感じる大きな変化としては、転職市場が脚光を浴びるようになったことです。採用で新しい人材を迎えるのと同時に、転職して出て行かれてしまうリスクも以前と比べると増えました。転職のハードルがずいぶん下がったのは大きな変化です。私が若い頃は『35歳限界説』がありましたけど、私もこの会社は50歳を超えて入ってきたので、いまは年齢のハードルもかなり下がっていると感じます。入り口の採用だけがんばるというわけではなく、入ってからの教育の重要性がより増してきていると感じます。採用に注力しつつ、会社で継続して働きたいと思ってもらえる環境づくりはさらに重要になっていますよね。また、採用の主流がインターネットになったことも大きな変化です。弊社はキャリア採用がボリュームとして大きく、基本的にエージェントを使っているのですが、いまではスカウト型採用やダイレクトリクルーティングなどの手法も主流になってきています。手段が多岐にわたるがゆえに、どの選択肢が最も効果的なのか、判断に迷うことが多々あります。でもやはり、人事キャリアのなかで以前と比べて大きな変化を感じているのは、戦略人事の考え方や、働き方改革、人材版伊藤レポートによる人的資本経営の実現に向けた動きなど、経営に対する人事の役割がまったく異なってきていることですね」

最後に、これから取り組みたいことを教えてください。

川端さん

「総務や人事の基本的な役割は、社内のルールや基盤をつくり、従業員のみなさんに守ってもらうことだと思います。そうすることで、従業員を守るのはもちろん、会社そのものを守ることにつながります。こうしたベースとなるルールを整えることで、従業員の方に安心して長く働き続けていただけるのはもちろん、会社の成長の土台になればと考えています。従業員の皆さんには窮屈に感じることもあるかもしれませんが、それを実現していくのが、人事としての集大成だと考えています。また、弊社のVISION「感動のその先へ 世界にもっと、前向きな一歩を」、MISSION「人の思いを探究し、体験を革新する」を人事の役割として体現していく従業員の育成とともに、従業員が当社で働くことそのものに感動し、探求と革新ができるように経営とともに導いていきたいと考えます。振り返ってみれば、私が人事の仕事を始めた頃から考えると、戦略人事という考え方が浸透し、経営に占める人事の役割は大きくなっており、単なるバックオフィスの事務という感覚ではとても担える役割ではなくなっています。そうしたことを踏まえ、私自身、後継者を育てることが大きな役割だなと思っています。人事のメンバーは私自身が採用し、一緒になってこの会社の人事を再構築してきたかけがいのない仲間なので、彼ら彼女らの成長に寄与していくことが私の望みです」

編集後記

当時の転職エージェントに『もうあなたの歳だと書類通過は10%、そこから面接に進めるのは2、3割ですよ』と言われた川端さんでしたが、3社の内定を経て、50歳からの転職に見事成功します。そして現在では、新たな人事課題に向き合いながら、日々、会社の仕組みづくりに奔走しています。こうした川端さんの姿を見ていると、何歳からでも挑戦できるということをまさに体現している人だと感じた取材でした。

*本記事の掲載内容はすべて取材時(2024年7月3日)の情報に基づいています。

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会社概要

社名 TSP太陽株式会社
設立 1955年2月
事業内容 各種イベントの企画制作、会場の設計施工、運営管理、関連設備のレンタル他
従業員数 283名(2024年6月末時点)
会社HP https://www.tsp-taiyo.co.jp/

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