長年のロフト店舗現場から人事へ。「社員区分撤廃」という改革を成し遂げるまで
株式会社ロフト |
人事部 部長
駒場信剛 さん
2025.01.06
全国に生活雑貨専門店ロフトを展開する株式会社ロフト。全国での多店舗化を進め、従業員数が5000名を超える同社で人事部長を務めるのが、駒場信剛さんです。
店舗運営部門を長く経験してきた駒場さんは、会社の転換期に人事のキャリアを歩み始めることとなります。未経験の領域で困難に直面しながらも、従来の社員区分を撤廃する画期的な人事制度の構築に携わりました。店舗運営と人事、それぞれの経験からどのようなことを感じ、仕事に向き合ってきたのでしょうか。これまでのキャリアや人事制度改革の取り組みを聞きました。
【後編では、今の時代や従業員のニーズに合わせた制度設計や施策への取り組み、今後の展望について話を聞きました】
Profile
駒場信剛
株式会社ロフト
人事部 部長
1989年に、㈱西武北海道(当時)入社。1997年3月にロフトへ転籍。宇都宮ロフト店長、コンパクトロフト事業部、渋谷ロフト販売促進担当などを経て2006年より人事へ。「全員がロフト社員」という考えのもと、「社員区分」撤廃の制度改革を実施。その後、店舗運営管理に戻るが、2022年、13年ぶりに人事部へ異動。人材不足や多様化する従業員ニーズに対応するため2度目の制度改革への取り組みを行っている。
店長時代に閉店を経験し、人への向き合い方が変化
駒場さんは、ご経歴の中で店舗勤務の経験が長いと伺いました。もともとロフトを勤務先として志望されていたんですか?
「いいえ、実は学生時代、そもそもロフトの存在を知らなかったんです。元々、当時勢いのあった『西武百貨店』で働きたくて、北海道店舗を管轄していた㈱西武北海道(当時)に入社しました。北海道で生まれ育った私がロフトを初めて訪れたのは、東京で行われた新入社員研修の期間中です。元々、ロフトは西武百貨店が事業の1つとして第一号店を開業したのが始まりです。その第一号店であるシブヤ西武ロフト館を見学して『ここで働きたい』と強く感じ、札幌にもロフトができるタイミングで転籍を希望しました。当時、生活雑貨に特化して販売する店舗は大変珍しかったと記憶しています。そんな時代の最先端を行くような店に衝撃を受け、大変魅力を感じましたね。最初の配属は、趣味雑貨と呼ばれる、文具やおもちゃを扱う売り場でした」
実際に、ロフトの店舗運営に携わってみてどうでしたか?
「やはりロフトという店が好きで、そこで働くこと自体に大きなやりがいを感じていました。今も、その気持ちは変わらずにあります。とはいえ仕事ですから、決して楽しいことばかりではありません。初めてのロフト勤務となった札幌店時代の店長は大変厳しい方で、当時はついていくのに必死だったことを覚えています。ただ、振り返ってみると、商品に対するこだわりやマーチャンダイジング(消費者のニーズを踏まえた商品開発から販売に至るまでの活動)の考え方など、その店長から学んだことは数え切れません。同僚にも支えられ、人との関わりの中で多くの刺激を受けながら、ここまで長く続けてこれたと思います」
駒場さん自身、店長職も経験されたのですか?
「はい。最初に任されたのは、小規模店舗でした。同僚が多くいた大型店舗とは異なり、相談できる相手も限られていたため、試行錯誤の連続でした。私が店長を務めていた時期に店舗の閉店が決まった際は、メンバーとの向き合い方についても非常に考えさせられました。当時は、札幌店時代の店長の影響を強く受けており、メンバーのモチベーションには気を配りながらも、厳しく指導するというスタイルで接していたんです。今思い返すと、反省すべき点も少なくありません。年次を重ねるにつれ、メンバーの話を深く聞き、一人ひとりの強みや能力を発揮してもらうことの重要性に気づかされました。現在、人事の仕事において『人を生かす』ことを大切にしているのは、当時のうまくいかなかった経験や失敗がもとになっていると思います」
社員区分を撤廃し「全員がロフト社員」に。新たな人事制度構築の裏側
店舗運営に携わってきた駒場さんが、人事に異動したタイミングを教えてください。
「9年ほど店舗運営を経験した後、2006年頃に人事部へ異動しました。当然ながら人事部門はまったく未知の現場の領域だったため、驚きましたね。私で良いのかと。私を知っている周りの同僚たちも、全員がこの異動に首をかしげたと思います(笑)。ただ、やってみないことには何もわからないので『まずは挑戦してみよう』と、人事としてのキャリアをスタートさせたんです。当時、会社にとっては大きな転換期で、全国展開に向けた多店舗化を進めており、それに伴う人事制度の改革が急務となっていました。各店舗の現場をよく知る人材として、店舗運営の経験が長い私に声がかかったのかもしれませんね」
人事制度の改革について、具体的な内容を教えてください。
「最も大きな取り組みは、2008年3月に実施した社員区分の撤廃です。それまでの本社員・パートタイム社員・契約社員という従来の社員区分を撤廃し、週20時間以上勤務する全従業員を無期雇用契約とする新制度を導入しました。同じロフトで働くのに、正規も非正規もなく、あくまでも『全員がロフト社員』という考え方が根底にあります」
とても、画期的な制度ですね。
「改革のきっかけは、現場の働き方を見直す中で、全従業員の約8割を占めるパートタイム社員の定着率低下が大きな課題として浮かび上がってきたことでした。現場のノウハウやスキルが蓄積されにくく、店舗で働く従業員のモチベーション低下にもつながっていたのです。退職者へヒアリングを行ったところ、多くのパートタイム社員が将来への不安から転職を選択していることがわかりました。そこで『全員がロフト社員』という考えのもと、昇進・昇格の機会も平等に設け、意欲とスキルがあれば、誰でもステップアップできる仕組みを整えたのです。その結果、退職者が半減し、各店舗からも『従業員のモチベーションが向上し、現場が活気づいた』という声が聞かれるようになりました。制度改革から15年以上が経った今では、当時のパートタイム社員から転換し、バイヤー職などの基幹人材として活躍している従業員も数多くいます」
成果の裏では、苦労も多かったのではないでしょうか?
「新しい制度の導入にあたって、全従業員に対してアンケートを実施し、勤務時間について個々の考え方を聞いていました。その結果、パートタイム社員の方はみんなフルタイム勤務を希望していると思ったのですが、実際はそうではなく、自分の時間を大切にしながら『働きたいときに働きたい』という方も多かったんです。そうした声を受け、週20時間以上(職務によっては32時間以上)であれば、自由に勤務時間を選べる仕組みにしたんです。その中で、新しい制度によって『社員になるとこれまで以上に長く働かないといけないのではないか』という不安を払拭するため、各現場で運用に関する細かな説明や、疑問を解消するための話し合いを粘り強くしていくのはやはり大変でしたね。とはいえ、現場との丁寧なコミュニケーションを心がけたことで、反発も最小限に抑えられたと思います。また、店舗運営の現場業務から来た私にとって、本部の人事の仕事は求められるものが大きく異なると感じ、業務の難しさにも直面しました。店舗の現場では、お客さまへのスピーディーな対応や、店づくりにおけるセンス、直感で動くことが多々あります。一方で人事は、従業員という人に向き合う仕事ではあるものの、論理的なアプローチが欠かせません。そのため、従業員からも経営層からも行動の背景にある理由が求められます。人事制度には会社のさまざまな歴史や決められた法令が背景にあるため、関係者に話を聞きながら、それらを深く理解するのも大変でしたね」
店舗現場運営一筋のキャリアから人事へ転身し、人事制度改革という大きな挑戦に取り組んだ駒場さん。異動前とのギャップや人事の難しさに直面しながらも、人を生かすための仕組みを整えてきました。続く後編では、2度目の人事制度改革に挑む駒場さんの現在の取り組みや今後の展望に迫ります。
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会社概要
社名 | 株式会社ロフト |
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設立 | 1996年8月8日 |
事業内容 | 雑貨専門小売事業 |
従業員数 | 5,321名(2024年2月末時点) |
会社HP | https://www.loft.co.jp/ |