国家公務員を続ける中、人事の経験が転機に。霞が関を人事の側面から変える異色官僚の「いきざま」
内閣官房 内閣人事局 |
人材育成、キャリア形成支援担当
長野 浩二さん
2025.02.18
「誰かの役に立ちたい」という純粋な思いから国家公務員の道を選び、内閣府(当時、総理府)に入府後、国家公務員のキャリアを歩んできた長野さん。しかし、さまざまな葛藤などにより、一時は難聴など体調を崩すこともあったものの、人事の仕事を経験したことで「誰かの役に立ちたい」というエネルギーが再熱しました。
前編では、霞が関を人事の側面から変えようとする長野さんが、現実の課題に直面しつつ、そこから自分のやりたいことを見つける過程に迫ります。
【後編はこちら】
Profile

長野 浩二
内閣官房 内閣人事局
人材育成、キャリア形成支援担当
内閣府からの出向。2021年4月から内閣人事局にて人材育成、キャリア形成支援などを担当。国家公務員は定期的にさまざまな部署へ異動することから、一貫して人事領域に従事してきた訳ではないものの、人事の仕事を中心に活躍。またプライベートでも、これからの生き方・働き方を考えるトークイベントや多数の人事関係者が集う「チョー魂」(チョーノ・コンソーシアム。※「キャリアオーナーシップ経営アワード」優秀賞受賞)の創設など、ライフワークとしても組織・人材開発、働き方改革に取り組む。
国家公務員になるも、仕事に違和感。人事の経験で「誰かの役に立つ実感が湧く」
長野さんは、国家公務員一筋のキャリアだと思いますが、この道に進もうと思ったきっかけは何でしたか?

「人の暮らしに大きな影響を及ぼす公共施策に関心があり、国家公務員の道を志しました。生まれ育った地元で、幼心に記憶に強く残っている出来事があります。ある日、郊外にバイパス道路ができたんです。移動が便利になってよかったと思いきや、車で近隣の都市に出かける人が増えた結果、地元の市街地の過疎化が進んでしまったんです。この体験は一つのきっかけに過ぎませんが、公共施策は良くも悪くも人々の暮らしに大きな影響を与えるものなんだと実感しました。これが、国家公務員を目指した原体験になったような気がします。そして、大学時代に改めて将来の進路を考えたとき、浮かんできたのは『誰かの役に立ちたい』という純粋な思いでした。もちろん、どんな仕事も誰かしらの役に立っているのですが、より利害にとらわれない立場で、より多くの人の暮らしをよくする支援がしたいと、政府の重要政策に関する総合調整を担う内閣府に入府しました」
入府後、どのようなキャリアを歩んできたのでしょう?

「国家公務員は、数年ごとのジョブローテーションを繰り返しながらキャリアを積んでいくのが基本です。そのため私も沖縄の観光振興や、国の行政文書である公文書管理、少子化対策など、さまざまな領域に携わってきました。40代前半には、省庁で大臣、副大臣に次ぐポジションとなる大臣政務官の秘書官も務めました。仕事にはやりがいを感じていた一方で、『人の役に立ちたい』と考えてこの世界に入ったものの、現場で暮らす方々との直接的な関わりを持つ機会はほぼありません。それゆえ、自分が誰かに貢献できているという実感を得にくい側面もありました。今思えば、『人の役に立つ」とは法律とか計画を作ることなど、いろんな角度から捉えることが可能なのですが、当時は『目の前の人」という意識が強かったんだと思います。そんななか、もっとも自分が人の役に立つと実感できたのは『人事』の仕事だったんです」
そうだったのですね!最初に人事の仕事に触れたとき、どう感じましたか?

「人事は組織で働く人たちの支援を行う役割ですから、目の前の1人ひとりと向き合う人事の仕事は、誰かの役に立つ実感が湧きやすかったですね。ただ、嬉しさや充実感ばかりを感じていたわけではありません。最初に携わったのは新卒採用の業務で、『国家公務員としてこんなことを実現したい』と目を輝かせながら話す学生と向き合ってきました。しかし、そういった学生たちが採用後、数年経って現場で疲弊してしまい、休職や退職に至るケースがどうしても発生してしまう。その事実に胸を痛め、自己嫌悪に陥りました…。仮に私が採用しなければ、その人たちは幸せな人生を送れる可能性があったのではないかとすら思いました。このとき、人事は人の人生を決める責任のある役割だと、自分の胸に刻み込まれました」
ほかにも、人事業務で印象に残っていることはありますか?

「最初の人事時代には、もう1つの後悔があります。上司から『せっかく人事の施策を企画立案できるポストにいるのだから、何か考えてみたら?』と言われたにもかかわらず、人事の仕事をよく理解していなかった私は、言われたことをするだけで、結局次のポジションに異動するまでに何も提案ができなかったのです。その後、別の部署で職場内のメンバーの仕事の在り方と折が合わず自分自身が体調を崩す経験をし、もし自分が人事時代に組織づくりやマネジメントに対する施策を打てていれば…と思わずにはいられませんでした。こんなつらさを抱える人を、組織内にもう増やしたくはない。そう改めて強く感じました」
「傾聴は苦手。でも人を元気にする力がある」コーチから言われた一言で使命を実感
最初の人事時代に感じた課題に対し、当時はどのように向き合ったのでしょうか?

「若手が退職や休職に至る手前で相談に乗れないかと考え、あるNPO法人が実施していた『傾聴』を学ぶコースに通い始めました。座学だけでなくロールプレイングによる演習も重ねました。これで、人の役に立てるかと思いきや、コースの終盤で、私に教えてくれていたコーチの方から衝撃的なことを言われたんです。私のロールプレイを見て『長野さんは傾聴が向いていないようですね』と(笑)。傾聴スキルを身につけられると思っていたので、あまりにもショックで理由を聞きました」
コーチの方は何と答えたんですか?

「『長野さんは実は人の話を聞いているようで聞いていません』と。それだけでなく、相手の言葉の断片を勝手に自分でつなぎ合わせ、自分でストーリーを作ってしまう癖があると指摘されました。とはいえ、今であれば、それも価値観の相違からくる受け取りの違いなだけなので、相手には背景まで確認すべきであったと整理もできますが。当時はそのコメントの理由を聞いて、図星だとも自覚し、意気消沈しました。ですが、同時にそのときにコーチの方は今後の指針になる言葉もくれたんです」
どんな言葉だったんですか?

「『でも、長野さんは人を元気にする力を持っています。深い悩みを抱えている人に対してではなく、何かをがんばりたい人たちと手を取り合って、行動を後押しできる人です』そう言ってくださいました。そうか、私の使命というのは、そういうところなのかと思いました。そこから、自分らしさを活かして、人の役に立ちたい。そう考えて始めたのが、プライベートで20代~30代向けにこれからの生き方・働き方を考えるトークイベントでした。合計40回くらい開催したのではないでしょうか」
具体的にどんなイベントなんですか?

「有識者の方を講師役としてお呼びし、その人の生きざまを語っていただき、そこから感じたことを参加者のみんなで語り合うイベントです。若いうちから自分のこれからの生き方・働き方を考える機会が増えるといいのではないかと考え、始めました」
参加者の反応はいかがでしたか?

「『いいヒントになりました』『悩みが解消されました』『まだモヤモヤしているけど、私だけじゃないんだと安心した』という声をもらいました。このイベントでは1回に20~30名ほどの参加者が集まるのですが、『参加者の中で一番楽しそうなのは長野さんですよね』とよく言われてました。主催者が楽しんでいると、参加者側にも伝わるんですよね。まずは自分が楽しんで、周りを元気づけたり学びを伝播させていったりするのが効果的でもあると確信しました。こうしたプライベートの活動でも、やはり主軸には『人材育成』や『キャリア』があって、現在の人事の仕事に活きていると感じます」
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会社概要
社名 | 内閣官房 内閣人事局 |
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会社HP | https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/index.html |