変化の時代こそ「自分軸」が大事。自分を知り、まわりを知る、霞が関・人事のキャリア観

国家公務員はジョブローテーションが多く、組織にキャリアを決められる側面が強いからこそ、いかに自分ごととして捉えるかが大事だと話す長野さん。“自律”は、これからの時代を生きていくうえで重要なキーワードだと話し、人材育成における最も重要なイシューとして「キャリア支援」を掲げています。

後編では、そんな長野さんが霞が関で取り組む人事施策やキャリア形成の考え方を聞きました。

前編はこちら

Profile

長野 浩二

内閣官房 内閣人事局
人材育成、キャリア形成支援担当

内閣府からの出向。2021年4月から内閣人事局にて人材育成、キャリア形成支援などを担当。国家公務員は定期的にさまざまな部署へ異動することから、一貫して人事領域に従事してきた訳ではないものの、人事の仕事を中心に活躍。またプライベートでも、これからの生き方・働き方を考えるトークイベントや多数の人事関係者が集う「チョー魂」(チョーノ・コンソーシアム。※「キャリアオーナーシップ経営アワード」優秀賞受賞)の創設など、ライフワークとしても組織・人材開発、働き方改革に取り組む。

国家公務員もキャリアを振り返る機会が必要。人材育成で最も重要な「キャリア支援」に注力

現在所属している内閣人事局について、改めて教えてください。

長野さん

「内閣人事局は、内閣重要政策に対応した人事制度や施策を企画・立案するのが役割です。すべての国家公務員それぞれが持てる力を最大限に発揮し、活躍できる環境づくりを目指しています。私自身は、研修などの人材育成やキャリア形成支援の仕事をしています。現在、内閣人事局は各省庁から出向している130名ほどのメンバーで構成されています」

具体的にどのような研修を実施されているのでしょうか?

長野さん

「例えば、幹部候補の若手職員700名ほどを対象にした研修を実施しています。私が講師役となって、個人ワークやグループワークを交えた双方向的な学びの場です。今年度は10回開催しました。個人ワークを通じて自分自身を振り返り、他者との対話を通じて気付きを得てもらい、そこから将来をデザインしてもらいました。受講者たちからは『これからのキャリアに不安を感じていたけど、これまでもスキルや経験が身に付き、成長してこられたんだ』と改めて気づき、自己効力感が持てたという感想などももらっています」

なぜ、このような取り組みを始めたのでしょうか?

長野さん

国家公務員は、日常業務に追われ、自分の仕事やキャリアを振り返る機会をなかなか持てない状況です。数年おきにジョブローテーションによる配置転換が行われるのですが、個人の異動希望は出せる制度はあるものの、当然のことながら全員の希望を叶えられるわけでもありません。そうなると、人によっては自分でキャリアを描くことに無力感を覚え、異動先のポジションで与えられた仕事をこなしていればいいや、と受動的な姿勢になってしまう人もいる。その意識を少しでも変えるためにはどうしたらいいのか。もちろん、制度の見直しもあるのですが、その前に個々人の側でもできることがあるのではないかと考えました。そのような意図で先述の研修を設計しました」

個々人の側から、キャリアを考えるきっかけを提供するわけですね。

長野さん

「私はこう思うんです。ジョブローテーションの多い環境は、組織が個人のキャリアを決めていると捉えることもできます。しかし、それをいかに自分ごととして捉えるかによって、自分の可能性を広げられるのではないかと。私も最初に人事を経験したときは、自分で課題を感じ、傾聴を学びに行くなど行動を起こしたことで、当初の成果とは違いましたが、結果として人事としてのキャリアが広がり、今につながっています。そんな自分自身の経験もあり、今いる場所でいかに自分が目の前の仕事や組織に貢献できるか、という視点が大切だと考えています。なお、現在の私の仕事という視点から話していますが、ほかの担当も働き方改革や処遇・給与など、別の視点での取り組みを行っています」

そうすることで自身の成長にも、組織への貢献にもつながりそうですね。

長野さん

「そうですね。人から言われてやる仕事と、自分からやる仕事では、明らかに後者のほうが充実感があります。自分で考えて自分でやると決めた仕事の方が成長実感も高く、『まだまだやれるな』とか『もっと高めたい』と思えるようになる。主体性のマインドを持つと、パフォーマンス向上にもつながると思っています。だからこそ、個人のキャリア形成支援は組織にとっても大事なんです。それゆえ、私自身はこの『キャリア支援』を、人材育成における最も重要なイシューとして掲げています。なお、個人への促しだけではやはり限界があり、組織側もキャリア形成支援の意義を理解することも重要だと思っています。内閣人事局では昨年11月から各省庁の人事を集めてキャリアに関する勉強会を始めました。すでに3回開催し、毎回多くの参加者が集まり、霞が関もキャリアに対する意識が変わってきたことを実感しています」

キャリアを考えるとは「まず自分を知り、まわりを知ること」

今の時代において、キャリアをどうやって考えていくと良いでしょうか?

長野さん

「今の世の中は変化が激しく、その流れについていくのも精一杯です。つい自分を見失ってしまいがちな状況下では、『自分の軸』と呼べるものを持ちつつ、それを周りの環境に柔軟に適応させることが必要です。つまり、キャリアを考えるとは、まず自分の軸となる価値観や強みを知ることだと考えています。そして、自分を見つめるだけでなく、自分を取り巻く周囲の環境や社会の情勢を理解したうえで、その場所で自分の立ち位置はどこなのか、どのような貢献ができるのかを考えていくのが良いと思います。今のような変化の激しい時代には、自分で考え、自分で行動できる人材が求められています。誰かが指示するのを待っていては遅いのです。“自律”は、これからの時代を生きていくなかで重要なキーワードであると考えています」

キャリア支援以外で、現在、とくに課題に感じていることはありますか?

長野さん

キャリアと深い関係がある『マネジメント』です。これまでは同質性が高い職員が集まっていました。極端に言えば、24時間働ける男性職員が圧倒的に多く、一日中同じ職場で働いていたような状況下では、個人によってマネジメント方法を変える必要もありませんでした。しかし今は女性職員も増え、男性も育休を1ヶ月取りますし、テレワ-クも推進されており、多様な働き方の希望に向き合うことが求められています。さまざまな人がいるなかで、個人を見て、それぞれの良さや強みを組み合わせるマネジメントが実現できるか。昔のマネジメントと今のマネジメントでは、難易度がまったく異なるのです。現在、内閣人事局でもカオナビを導入していますが、1人ひとりとより深く向き合えるよう、職員のキャリアや人事情報を蓄積していく良いツールなのではないでしょうか」

最後、長野さん個人の目標について教えてください。

長野さん

「まず大前提として、私は偉そうなことを言える立場ではないと思っています。私もいろんな人たちを傷付けてきたと思うし、至らなさで迷惑をかけてきたと思っています。こんな私であっても関係性を構築してくれた方々には感謝しかありません。目標ということではないかもしれませんが、こうしたメディアでの発信もそうですが、『霞が関』を知ってもらいたいと考えています。『霞が関にはいろんな人がいるんだな』『霞が関も変わろうとしているんだな』と皆さんに感じていただけるように、さまざまな人事施策を発信したいと思っています。そのためにも、引き続き大切にしたいのが『越境』です。企業にしても、霞が関にしても、人事は、個人情報や社内の機密情報を扱う場面も多く、また現場との摩擦も多い部署で、組織内ではある意味孤独を感じやすいと思います。人事のつらさや苦悩は、同じ人事の人が一番理解できる気がします。霞が関を含めて、いろいろな企業や機関で人事を担当する方同士で、お互いを知り、情報や知見を共有しながら切磋琢磨し合い高め合える。そういった場づくりも引き続き推進していきたいです。さらに大きな広がり、つながりを生んで、社会のために貢献したいと思っています」

編集後記

さまざまな社外活動や、人事コミュニティ「チョー魂」なども運営し、「異色の官僚」という言葉がまさに似合う長野さん。エネルギッシュで、大きな熱量を感じた取材でしたが、取材開始前はその場の雰囲気を和やかにしようと、率先して話したり話題を振ってくれたりとてもやさしい一面も印象的でした。

取材時間は2時間に及び、ここに書きたくても書けなかった話がたくさんあります。長野さんの人柄をテキストだと直接伝えることが難しいのを、正直悔やみます。それほど気さくに色々な経験をお話ししてもらい、少なくとも取材したぼくは『霞が関』のイメージが変わった人の一人です。

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会社概要

社名 内閣官房 内閣人事局
会社HP https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/index.html

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