3社の現役人事に聞く!人的資本経営に欠かせない「リスキリング」の取り組み・評価方法とは?
2024.08.06
人事担当者であれば気になるテーマに対し、多様な回答を伝える特集が、この「ヨコガオアンサー」。今回のテーマは、政府が「5年間で1兆円をリスキリング支援に投じる」と表明するなど、いま注目が集まっている「リスキリング」です。新しいスキル習得を促すことで従業員の能力を最大限に引き出す、人的資本経営には欠かせない育成手段であるリスキリング。とはいえ、どうやって進めるべきか迷う方もまだまだ多いでしょう。そこで、今回はリスキリングの取り組みについて、汐留社会保険労務士法人の新井 将司さん、スミセイ情報システムの油谷 雅之さん、SOMPOひまわり生命保険の森 佳穂さんに話を聞きました。
※この記事は、人事に役立つ記事やニュースを提供するWebマガジン「HRzine」との合同企画「現役人事に聞く!」の内容を、転載したものです。
Q1 貴社のリスキリング施策について教えてください。
「現在の業務に関連する知識や、足りないスキルを習得してもらうために、e-ラーニングシステムを導入し、学習意欲の向上や習慣化に向けた取り組みを始めています。まず従業員には、タレントマネジメントシステムに詳細な業務経験を入力してもらいました。とくに私たちの仕事では、勤続年数よりも業務経験のほうが大事なことが多く、『この仕事を経験したことがあるか』が差を生みます。そこで、自分たちの保有スキルや業務経験の見える化を行い、足りない知識やスキルを把握してもらいました見える化した従業員の情報は、クライアントや案件ごとに誰を担当にアサインするかというマッチングにも活かしています」
「当社では、従業員の自律的な学びを高めるために『My成長プログラム』を実施しています。My成長プログラムとは、従業員自身で設定した『リスキリング目標』にもとづき、自律的にスキル・行動をアップデートしていく取り組みです。自分の力だけでなく、上司や周囲メンバーを巻き込みながら成長できるように設計しています。タレントマネジメントシステム上に『リスキリング目標・振り返りシート』を用意して、目標をいつでも見られる状態にしています。また、専門スキルの強化やスキル拡大を目的に、全社員を対象としたさまさまな学習プログラムを用意しています。たとえば、『Udemy business(e-ラーニング)』、チャレンジ奨励制度、マネジメント力強化研修、ITスキル実践トレーニング、コンピテンシー発揮実践トレーニングなどです」
「当社では、自律的キャリア形成の促進を目的に、社員1人ひとりが自身の「MYパーパス」を明確にし、組織のパーパスとの重なりを探りながら、やりがいを持って働くための取り組みを行っています。MYパーパスとは、『自分はどんな人間なのか』『自分にとっての幸せはなにか』『自分が人生で成し遂げたいことはなにか』などです。自分自身の人生・キャリアを『WANT(内発的動機)』『MUST(社会的責務)』『CAN(保有能力)』の3つの観点で振り返り、それらの重なりを踏まえてMYパーパスを考える方法を勧めています。また、自律的なキャリア形成を促進するためには、こうしたMYパーパスの設定に加え、リスキリングが不可欠です。弊社では、自ら手を挙げてチャレンジを行う公募制度の導入や、年代や性別、従業員区分を越えたキャリア研修などを実施しています。役職の統廃合によるスピーディな人事登用、70歳までの継続雇用制度の新設なども行うことで、社員のリスキリングを促しています」
Q2 リスキリングを推進する理由を教えてください。
「自分たちの仕事やニーズが目まぐるしく変化しており、従来求められていた法令知識や資格勉強の知識だけでは価値向上につながりにくくなっています。こうした現状を受け、従業員に、変化に合わせて知識をアップデートしてもらうために推進しています。また、保有スキルや経験の見える化も重要な施策です。当社は、人事領域を総合的に支援しているため、社員は多様なスキルを持っています。制度設計よりも運用面の提案が得意な人、給与計算システムや勤怠管理システムといったITツールの導入支援が得意な人など、強みや業務経験はさまざま。そこで、クライアントの課題に応じて担当をアサインするのですが、これまでは『誰が何をできるか』『どの領域までできるか』が非常に見えにくい状況でした。プロジェクトのたびに『この仕事に詳しいのは誰?』と社内に聞いて回ることもあり、効率が悪かったのです…。そのため、以前からスキルの可視化は課題だと思っていたので、事業統括をする立場になったいま、リスキリングの一環として本腰を入れて取り組んでいます」
「会社の成長において個人の成長は必要不可欠であるためです。変化し続ける社会・業界の中で働きがいを持ち、顧客に新しい価値を提供し続けるには、1人ひとりが変化に合わせて必要なスキルを継続的に習得することが求められます。とくに当社のビジネスはいま、業界全体が変革期です。そのため、リスキリングへの取り組みを強く推進していこうと考えています」
「伝統的な生命保険会社から脱却し、顧客を健康にする『健康応援企業』への変革を進めている中で、会社の変化に合わせて社員の変化も必要だと考えていました。その中で注力しようと考えたのが、社員の自律的キャリア形成の実現です。当社では、自律的なキャリア形成を次のように定義しています。
1.自分自身が何をやりたいのか、意思が明確であること
2.1に対して、知識やスキルを有している。または、その為の努力をしている
3.1、2を踏まえて、自分のキャリアを描き、示すことができること
このように、社員が自身の目指す姿に向けてキャリアを形成していくためにも、知識向上やスキルアップを行える環境が不可欠だったわけです」
Q3 リスキリングの成果はどのように評価していますか?
「従業員に、自発的に学びたいコンテンツを受講計画として申請してもらい、どのような観点に興味を持っているのか、なぜ学ぼうと思ったのかを記載してもらっています。それらの情報をタレントマネジメントシステム上で管理することで、キャリアパスやマネジメントにつなげています。また、全社的な成果を見るために、リスキリングに関するサーベイ調査を3ヵ月に1度行っています。リスキリングが自身の業務やキャリアにどのように役立ったのか、推移を記録しています。今後はキャリアに対する満足度を上げたいと考えています」
「KPIとしての指標はありません。ただ、年度の経営計画のモニタリング指標として『リスキリング目標の達成度』を評価しています。リスキリング目標の達成度は、各事業部署にて個々に目標を掲げており、会社としては各事業部署の70%以上が目標達成することを指標としています」
「『ジョブ・チャレンジ制度、MYパーパスキャリア制度、ポストチャレンジ、キャリア休暇など各種キャリア関連制度の利用数』『会社推奨の資格取得数』『エンゲージメントサーベイの結果』などの指標を参照しながら、リスキリングも含めた自律的キャリア形成の風土を評価しています」
Q4 リスキリングの取り組みについて、今後の展望を教えてください。
「まずは学習意欲の向上や習慣化を行うことで、自律的キャリア形成の効果を高めていきたいです。その際、リスキリングで学んだ知識を活かす場をどのようにつくれるかがポイントだと考えているため、事業戦略をいま1度見直したいと思っています。
また、タレントマネジメントシステムを使ってスキルや業務経験などは可視化できたものの、相対的に見てどのレベルなのかまでは可視化できていません。そこで、スキルレベルを定義したり、業務経験の点数化を行ったりしてスキルマップを作成したいと思っています。さらに将来的には、スキルマップは評価と連動したいと考えています。当社には、本当にさまざまなキャリアの従業員がいて、制度設計、アウトソース、人材開発、安全衛生など幅広く専門家がいます。各々が専門性を突き詰めた結果がしっかりと評価に反映されるためにも、やはりスキルマップが重要な要素になると考えています」
「全従業員が学べるe-ラーニングシステムを土台とし、リスキリングを通じて学んだことを活かすための実践的な研修の提供をはじめ、ジョブアサインなどを推進したいと考えています」
「キャリア形成に寄与するようなアドバイスを意識的に行うためのマネジメント力強化に加え、『教えあう、学びあう』行動を仕組み化したいと考えています。さらに、これからの時代、ITスキルは欠かせません。そのため、世代にかかわらず、ITツールの使い方など、ITリテラシーを高める取り組みを進めていく予定です」
おわりに
今回お話を聞いた3社は、変化が激しい時代の中で価値を発揮し続けるために、リスキリングによる個人の成長が欠かせないと感じているようでした。そして、今後はリスキリングによって学んだ知識や習得したスキルを業務でどう活かすのか、検討している姿勢が見えました。
次回の「現役人事に聞く!」は「ジョブ型雇用」がテーマです。お楽しみに!