3社の現役人事に聞く! 自社に合う「ジョブ型」雇用の仕組みとは?導入の背景や評価・報酬設計まで紹介
2024.10.11
人事担当者であれば気になるテーマに対し、多様な回答を伝える特集が、この「ヨコガオアンサー」。今回のテーマは、「ジョブ型」です。グローバルでの競争やビジネスモデルの転換など、経営環境が大きく変化する中で、日本でも従来の勤続年数を重視する「メンバーシップ型」雇用から、専門性を重視する「ジョブ型」雇用への移行が検討されています。しかし、メンバーシップ型雇用が定着した日本企業が、ジョブ型雇用に移行するのは容易ではありません。そうしたなか、いち早くジョブ型雇用を導入したSOMPOひまわり生命保険の森 佳穂さん、SOMPO Light Vortexの古賀 弘美さん・岡部 勇一さん、荒井商事の藤原 正英さんに、取り組みや導入の背景を聞きました。
※この記事は、人事に役立つ記事やニュースを提供するWebマガジン「HRzine」との合同企画「現役人事に聞く!」の内容を、転載したものです。
Q1 貴社のジョブ型雇用の取り組みについて教えてください。
当社では基幹職(ジョブ型)として、個別に定められた職務定義書により、職務内容や基本報酬を決定しています。役職ではなく、職務の難易度や責任の大きさによって報酬を決定することで、経験年数や年次にとらわれない登用を可能にしています。
また、特定領域における専門能力を長期的に発揮することで、新たな価値の創造が期待されるため、異動配置は職務関連性の高い範囲に限定しています。
なお、基幹職は専門性レベルに応じて次の4つに区分しています。2024年度は、7部署で16名を登用しました。
プリンシパル:会社が定める高度専門領域において最高峰の専門知識・技能を持ち、会社事業のコアを形成する
シニア:会社が定める高度専門領域の第一人者として部門事業のコアを形成する
チーフ:会社が定める高度専門領域のスペシャリストとしてプロジェクト推進を行う
ディピュティー:チーフへの準備期間
各ポジションに対して作成した「ジョブディスクリプション」に基づき、人材を採用・配置しています。
アサインする人材にはあらかじめジョブディスクリプションのミッションや期待値、評価基準などを明確に説明します。そのうえでメンバーの評価は、ミッションやKPIの達成度にもとづいて実施し、結果に応じてインセンティブを得る仕組みです。場所に縛られず、自由な発想を持てるような働き方を推進することで、それぞれがミッションを達成しやすいように後押ししています。
また、キャリアの自律的形成にも力を入れており、メンバーは自らのキャリアパスを探求し、継続的な成長につながる機会が与えられます。たとえば、自らのキャリアの方向性に基づき、ジョブの見直しやキャリアチェンジのリクエストが可能です。
さらに、リスキリングも積極的に推進しています。書籍による自己学習やセミナーへの参加などを通じてスキル向上を図れる「スキルアップ支援制度」を導入しているほか、国内外のスタートアップや企業との協業によって新規事業開発の経験を積むこともできます。デジタル技術をはじめ、さまざまな技術を活用した新規事業開発に携われるチャンスがあり、その中でメンバーが新たなスキルを獲得し、将来のキャリアの可能性を見いだせるよう支援を行っています。
ジョブ型雇用の導入だけでなく、こうしたリスキリングやスキルアップは、メンバーの個々の成長だけでなく、企業としての競争力を高めるためにも欠かせないと考えています。
60歳以上の社員限定でジョブ型雇用を導入しています。従来の嘱託社員に該当する60~65歳について、「シニア社員」と呼称を変更し、役割の影響範囲や実質的な業務に応じて「マネジメント業務」「スペシャル業務」「アシスト業務」の3つの職務区分に分類。それぞれに求められる専門性や能力を明確化し、人事評価を通して報酬につながる仕組みにしています。
職務区分に応じて「ジョブディスクリプション」も策定しており、過度な依頼や遠慮がなくなることで、健全な業務配分ができるようになりました。ジョブディスクリプションは、上司と本人の面談によって1年ごとに見直しを行っています。
Q2 ジョブ型雇用を導入した背景を教えてください。
当社では、保険本来の機能(Insurance)に健康を応援する機能 (Healthcare)を組み合わせた新たな価値「Insurhealth(インシュアヘルス)」と、社員および家族の健康維持・増進に取り組む「健康経営」からなる「健康応援企業」として新たな変革を遂げようとしています。
こうした変革にあたり、総合能力の高い人材だけではなく、特定分野で高度な専門性をもつ人材の活躍がいっそう求められると考えたため、ジョブ型雇用を導入しました。
急激な変化への対応として、当社はデジタル領域を事業ドメインとしており、そこでは世界中でさまざまな企業がたえず急激な変化の中で活動しています。このような状況下では、より柔軟的で、デジタル人材にとって魅力的な制度が要求されます。事実、シリコンバレーなどのスタートアップ企業では、ジョブ型雇用の人事制度が採用されており、メンバーの自律性を尊重しながらモチベーションの向上につながっているといいます。
そこで、当社の創業メンバーがこれまでグローバルでさまざまなスタートアップと連携してきた経験を活かし、メンバーの能力を最大限に引き出し、会社としての成長と競争力を強化するためにもジョブ型雇用の人事制度を活用することにしました。
また、専門性を持つデジタル人材の確保は難しいといわれています。その中で、デジタル人材に魅力を感じてもらい、長く所属しながら積極的に自らのキャリアパスを形成し、ミッションに基づいた役割を果たしてもらう目的もあります。
当社ではもともと、定年後の60~65歳の社員も嘱託契約で活躍していました。しかし、評価制度がなかったために漫然と仕事をする状態になってしまい、会社と嘱託社員の双方に課題や不満が出て、やる気の低下につながっていました。そこで、職務を明確にして評価・報酬に反映するジョブ型雇用を導入したのです。その結果、シニア社員は積極的に職務にあたるようになり、60歳以上でも「成長して活躍したい」という意欲向上につながりました。
Q3 給与体系や評価制度はどのように見直ししましたか?
給与体系としては、役職ではなく職務の難易度や責任の大きさによって報酬を決定する仕組みに見直すことで、経験年数や年次にとらわれない登用を可能にしています。
評価制度は、ジョブディスクリプションに対する正確な評価を行い処遇決定する必要があることから、貢献度や革新性、折衝度など、独自の項目を設けた評価基準を新たに作成しました。
さらに、ジョブディスクリプションで定めたパフォーマンスの発揮度をベースに評価するため、ほかの社員と比較する相対評価ではなく、絶対評価を導入。ジョブ型雇用専用のコンピテンシーモデルも作成して運用しています。
会社設立時からジョブ型人事制度を導入しており、給与体系は基本年俸+インセンティブからなる2階建てです。この中で、基本年俸はジョブディスクリプションに記載されている「ジョブ・ミッションサイズ」により決定します。
職務を明確化し、成果に応じて報酬が上がる制度をつくりました。60歳以上のシニア社員になっても、評価が上がって報酬が増える人もおり、モチベーションアップにつながっています。なお、ジョブディスクリプションは「カオナビ」上に登録しており、目標に対するフィードバックや評価を行っています。
Q4 ジョブ型雇用について今後の展望を教えてください。
ジョブ型雇用を導入・運用する際の障壁として、メンバーシップ型社員とジョブ型社員の職務の差異を明確に定義することが難しいと感じています。差異が曖昧であれば、制度が機能しません。ジョブ型雇用を設置する/しないの判断が難しく、ポスト設置の必要性に対する評価も壁だと感じています。
全社的にはメンバーシップ型を軸としており、ジョブ型雇用のさらなる拡大は予定していません。今後も引き続き「ジョブローテーションでは育成しがたい専門領域」や「外部の知見・人財を積極的に取り入れるべき専門領域」において、ジョブ型雇用を活用し、職務に見合う適正な報酬での内部登用や外部からの中途採用を行っていく予定です。
現状のジョブ型人事制度を運用しはじめて、まだそれほど経っていません。そのため今後は、日本の法制度に準拠しつつ、専門知識やスキルを持つ優秀な人材に魅力を感じてもらい、継続的に成果を出してもらえるような制度に少しずつ修正していきたいと考えています。
あわせて、新たなスキルを身に付けたり、既存のスキルを伸ばしたりするためには、実践経験が最も大事だと思います。そのため、今後は複数のプロジェクトに横断的に参画しやすくし、より実践的な経験を積めるように支援したいと思っています。新しい業務に挑戦できるようなプロジェクトに参加することで、スキルを磨きながら成長してほしいと考えています。
若年層にはやはり、「いろいろな経験を積んでほしい」との思いからメンバーシップ型雇用を継続します。つまり、現時点では年齢や志向する仕事に応じてメンバーシップ型とジョブ型を組み合わせる「ハイブリッド」が最適解だと考えています。
とはいえ、今後はシニア社員の意識の高まりが若い世代にも伝播することで、全社的に従業員のエンゲージメント向上につながることを期待しています。
おわりに
メンバーシップ型雇用が主流の日本では、全従業員をジョブ型雇用に置き換えるのではなく、一部の人材のみを対象とするケースが多いようでした。そのため、内部での育成が難しい専門領域やシニア層など、対象を絞ってジョブ型雇用に置き換えるというのが方向性の1つのようです。