3社の現役人事に聞く! 個を活かす「タレントマネジメント」をなぜ始めた?その成果は?
2025.04.10
人事担当者であれば気になるテーマに対し、多様な回答を伝える特集が、この「ヨコガオアンサー」。今回のテーマは、「タレントマネジメント」について。人材を“コスト”ではなく“資本”と捉え、従業員に投資を行うことで1人ひとりの能力を最大限に引き出す「人的資本経営」が求められる現在。従業員の個性に着目し、採用・配置・育成を行う「タレントマネジメント」の必要性が増しています。とはいえ、まずは何から始めればよいのか、迷う企業も多いでしょう。そこで今回は、タレントマネジメントを推進する株式会社ロフトの駒場 信剛さん、株式会社ビックカメラの稲田 晋さん、コメ兵ホールディングスの山田 侑佳さん、3社の人事に取り組みや実施背景を聞きました。
※この記事は、人事に役立つ記事やニュースを提供するWebマガジン「HRzine」との合同企画「現役人事に聞く!」の内容を、転載したものです。
Q1 自社のタレントマネジメントの取り組みを教えてください。

人事制度改革として最も大きな取り組みは、2008年に実施した社員区分の撤廃です。本社員・パートタイム社員・契約社員という社員区分を撤廃し、週20時間以上勤務する全従業員を無期雇用契約とする新制度を導入しました。週20時間以上(職務によっては32時間以上)であれば、自由に勤務時間を選べる仕組みです。
同じロフトで働くのに、正規も非正規もなく、あくまでも「全員がロフト社員」という考え方を根底に、全従業員に等しく成長の機会を与えられればと思いました。

当社は企業理念の中で、「“こだわり”の専門店の集合体を追求します」と掲げています。そこで、ある商品カテゴリーにおいて専門的な商品知識や接客技術を持つ販売員に対し、その分野のスペシャリストとして任命する「くらし応援マイスター制度」を2022年9月にスタートさせました。翌年9月には対象となる商品カテゴリーを拡大するなどの制度変更を行い、現在は「ビックカメラマイスター制度」として運用しています。
また、タレントマネジメントシステム「カオナビ」を活用し、人財情報のデータベース化を進めています。保有資格や担当したコーナーの情報などを収集しているほか、人事考課や面談記録のデータも管理しています。
当社では、従業員の自律性を高めるため、自身のキャリアプランを考えて、1年間の行動目標を設定するキャリアデザイン制度の運用を行っております。メンバーの立てた行動目標については、上司が面談時に進捗状況を確認し、アドバイスを行うことで目標達成にむけて伴走を行っております。この運用をカオナビ上で行うことで、上司とメンバーが同じ画面を見て目標の進捗状況を確認できるようになり、スムーズな育成につながっています。

サクセッションプランなどの育成施策に人材情報を活用するために、カオナビに所属や役割などの基本情報のほか、研修の履歴や資格の情報も蓄積しています。自分で入力もできますが、昇進や昇格に必要な研修などの情報は人事しか入力できない仕組みです。
そのほか、社員の強みを把握するためにストレングスファインダーの結果の蓄積も行っています。また、独自の自己紹介シートも作成し、新しいプロジェクトや部署横断的な研修の際など、知らない人が集まる場における会話のきっかけにしています。さらに蓄積した人材情報をもとに、縦軸が「入社年度」、横軸が「等級」のマトリクス図を作成し、年に1度の昇進・昇格を決めるタイミングで活用しています。
※マトリクス図のイメージ
Q2 タレントマネジメントを実施しようと思った理由は?

人事制度改革として社員区分の撤廃を行った背景は、従業員の働き方を見直す中で、全従業員の約8割を占めるパートタイム社員の定着率低下が大きな課題として浮かび上がってきたことでした。システム化が進んでも店舗現場での人材の枯渇は、現場のノウハウやスキルが蓄積されにくく、結果、店舗で働く従業員のモチベーション低下にもつながっていたのです。
退職者へヒアリングを行ったところ、多くのパートタイム社員が将来への不安から転職を選択していることが分かりました。そこで、「全員がロフト社員」という考えのもと、昇進・昇格の機会も平等に設け、意欲とスキルがあれば、誰でもステップアップできる仕組みを整えたのです。

当社にはさまざまな専門知識やスキルを有した販売員がいるため、そうした販売員が持つ高い専門知識や個性を見いだし、育成することが求められていました。加えて、そうした販売員の人財情報を一括管理できていませんでした。そこで、カオナビを使って、専門人財の情報を一元管理することで、適材適所の人員配置を実現しようと考えたのです。

私が人事に異動した当時、経営陣としてタレントマネジメントを進めたいという意向はあったものの、具体的な取り組みが定まっていない現状でした。加えて、人員増加に伴い、これまで上司の頭の中にあった人材情報だけでは評価運用が困難になっていくのを感じていました。
そこで、まずは人材情報の蓄積や評価運用の効率化が必要だと思い、施策を推進していくための土台となるタレントマネジメントシステム、つまりはカオナビを導入することにしたのです。
Q3 タレントマネジメントを実施する際に大変だったことはありますか?

社員区分の撤廃によって、「社員になるとこれまで以上に長く働かないといけないのではないか」という不安を払拭するため、各現場で運用に関する細かな説明や、疑問を解消するための話し合いを粘り強くしていくのはやはり大変でしたね。とはいえ、現場との丁寧なコミュニケーションを心がけたことで、旧社員からの反発の声は最小限に抑えられたと思います。
また、店舗運営の現場業務から来た私にとって、本部の人事の仕事は求められるものが大きく異なると感じ、業務の難しさにも直面しました。店舗の現場では、お客さまへのスピーディーな対応や、店づくりにおけるセンス、直感で動くことが多々あります。一方で人事は、従業員という人に向き合う仕事ではあるものの、論理的なアプローチが欠かせません。
そのため、従業員からも経営層からも行動の背景にある理由が求められます。人事制度には会社のさまざまな歴史や決められた法令が背景にあるため、関係者に話を聞きながら、それらを深く理解するのも大変でした。

まだまだ取り組みを始めたばかりなので課題も多くありますが、すでに運用していた評価をカオナビに載せるのは、苦労しました。これまで使用したことのないシステムの導入で、「使い方が分からない」といった現場からの問い合わせを受けることもあり、マニュアルなどを作成することで少しずつ使い方を覚えてもらっています。

最初はテストなしでカオナビを全社導入したため、「こうしてほしい」「なぜこうならないのか」といった問い合わせが多くありました。しかし、みんながタレントマネジメントの取り組みを良くしようと思って言ってくれていると感じ、その意見を参考に改善を重ねていきました。
経営層にカオナビ導入の意義を理解してもらうことも、今思うと大変だったと思います。とはいえ、従業員数の増加により、研修履歴や経歴などがバラバラに管理されている状態では限界があったため、カオナビ導入によってそれらを一元管理できることなどを丁寧に説明しました。
このとき、機能が多いほど「本当にできるのか」という疑問も出てくるため、導入を段階的に進めることを提案し、各段階で何を実現するかを明確にしたのもポイントです。一気にすべてを導入するのではなく、段階を踏んで浸透させていくことが重要だと考えました。特に弊社では、評価運用が最優先課題だったため、まずはそこをクリアし、その後に人材情報の拡充に注力していく計画で進めました。
Q4 タレントマネジメントを行うことでどんな成果につながっていますか?

人事制度改革により退職者が半減し、各店舗からも「従業員のモチベーションが向上し、現場が活気づいた」という声が聞こえるようになりました。制度改革から15年以上が経ったいまでは、当時のパートタイム社員から転換し、バイヤー職などの基幹人材として活躍している従業員も数多くいます。

ビックカメラマイスター制度における選考では、これまでExcelで作成していたエントリーシートや面接シートをカオナビで作成しました。その結果、カオナビに蓄積していたさまざまな情報をシートに反映でき、事前にエントリーしたメンバーの情報収集を行う時間を削減できました。
また、これまで上司個人で管理していた面談記録をカオナビ上で管理することで、部署や店舗異動があった場合でも、メンバーの過去の目標や面談記録を上司が確認できるようになり、1on1面談の質の向上につながっていると感じます。

人材情報のデータベースを構築したことで、タスクやプロジェクトが始まる際に、顔を合わせたことのない人でもどんな人か分かるようになったのは、仕事を円滑に進めるうえで効果を感じている従業員が多いようです。
さらに、従業員の異動や配置、評価を決める際に蓄積した情報をもとに議論できるようになりました。これにより、議論の質が高まっただけでなく、異動や配置の精度も高まったと思います。
Q5 タレントマネジメントの取り組みについて、今後の展望を教えてください。

現在もまた、人事制度の見直しを進めています。今回のポイントは、多様化している従業員のニーズに対応しながら、新たな評価制度をはじめとする人材マネジメントの仕組みを整えること。まさに、タレントマネジメントです。従来の制度が今の時代に沿っているかをあらためて見つめ直すとともに、新しい制度を構築する必要があると感じます。まだまだ構想段階ではありますが、等級制度にて等級定義を明確化し、本人の能力やスキルに基づいて、配置や格付けを行う仕組みなども取り入れる予定です。
また、当社は拠点が多いこともあり、従業員に関するさまざまな人事情報が点在してしまっているのが現状です。そこで、どの部門にどのような人材がいるのかといった情報を一元管理・見える化し、人事部だけでなく経営陣も直接アクセスできる環境を整備していきたいと考えています。

カオナビを使って、さらに人財情報のデータベース化を推進していきたいと考えています。これは個人が有している専門知識やスキル、保有資格などを収集するだけではなく、たとえば社内表彰の受賞歴や実績なども蓄積し、従業員1人ひとりの解像度を高めていきたいと考えております。そして、本部の人事担当者だけに見える情報ではなく、現場にも活用してもらえるような運用を今後行っていきたいです。

タレントマネジメントとしては今後、サクセッションプランに力を入れていきたいと思います。事業拡大を見据え、後継者育成をどのように進めるかが課題です。口頭での伝達や感覚的な判断だけでは限界があり、事業スピードや人員増加に対応できないため、カオナビを活用していければと思います。
また、現在は2社のグループ会社は別アカウントでシステムを導入している状況ですが、将来的にはグループ全体で人材情報を共有し、役員などの後任選定やM&A時の人員配置などに活用したいと考えています。
おわりに
取り組みの共通点を見ていくと、タレントマネジメントを推進していくためにまずは人材情報を蓄積し、どんな従業員がいるのか可視化することから始めているようでした。そうして集めて可視化した人材情報をもとに、個を活かした配置や育成を行っていく必要がありそうです。次回もお楽しみに!