3社の現役人事に聞く! 離職防止のための施策・工夫とは 1on1やパルスサーベイで事前にフォロー

人事担当者であれば気になるテーマに対し、多様な回答を伝える特集が、この「ヨコガオアンサー」。今回は、「離職防止」について。働き方が多様化し、転職も当たり前といわれる中、企業では離職の可能性を未然に検知し、対策を打つ必要性が高まっています。そこで今回はどのような対策を行なっているのか、SGグループの北田 かおりさんウィルグループの松原 輝さん・戸城 将太さん、スミセイ情報システムの油谷 雅之さんに話を聞きました。

※この記事は、人事に役立つ記事やニュースを提供するWebマガジン「HRzine」との合同企画「現役人事に聞く!」の内容を、転載したものです。

Q1 従業員の離職防止や定着率向上の取り組みを教えてください。

北田さん

「当社では、パルスサーベイを毎月実施しています。これは、以前行っていた“雑”談と“相”談を行うための『ざっそうタイム』の代わりに導入しました。ざっそうタイムの導入前は、拠点が全国各地にあり、かつ入社後すぐにOJTに入るため、人事は中途社員の様子を把握しにくい状況でした。そこで、人事が状況を把握して先手を打つために開始したのがざっそうタイムです。入社から1ヵ月、3ヵ月、5ヵ月のタイミングで、いわゆる1on1を実施していました。これにより、中途社員のガス抜きを行い、所属メンバーとのコミュニケーションのすれ違いも回避できるようになりました。一方で、中途採用に力を入れていることや、5ヵ月の期間終了後も続けてほしいという要望が多かったため、人事担当のリソース不足という課題が出てくるようになったのです。そこで、代わりの施策として導入したのが、毎月のパルスサーベイです。昨年の9月からは新入社員のみではなく、全従業員を対象として行うようになりました。社員だけでなくアルバイトスタッフにもパルスサーベイを実施しています」

松原さん

「ウィルグループでは、大きく分けて、ピープルアナリティクス、研修、制度、対話の4つの領域で取り組みを行っています。まず、ピープルアナリティクスでは、退職分析に力を入れています。過去の退職者を雇用区分、在籍期間などでセグメントを分けた上で、性格特性に合わせた分類のモデルを構築。退職時の本人へのアンケートや部門へのヒアリングを行って退職理由などを集めているため、先述したモデルとの掛け合わせで、発生しやすい事象を想定したフォロー案の作成などに活用していこうと考えています。また、後述しているリテンションアンケートと共に、業務の問題点を具体的に分析しています」

戸城さん

「研修では、入社時研修やキャリア研修のほか、チームビルディングやウェルビーイング、コーチングにまつわるものまで幅広く実施しています。中でも弊社独自といえるのは、『活躍マップ』の作成です。活躍マップは、新入社員の早期活躍支援を目的に、1年間どんな取り組みをして成長してもらうのかを可視化したものです。不安を持って入社する新入社員に会社が期待していることを伝えることで、自分の目指すべき方向が分かり、安心して業務をスタートしてもらえるようになりました」

松原さん

「制度で力を入れているのは、『手上げ制度』と呼んでいる、社内公募やFA(フリーエージェント)制度によるキャリア開発です。『社内でのキャリアが考えられない』という状況は離職につながりがちです。そのため、入社後半年以上、5年以上とセグメント毎に応募可能な制度を分けて、制度を運用することで個々のキャリア支援と共に退職抑止を狙っています。これまでに応募した人の中には、『転職を考えていた』と話す人もいたので、社内でキャリアを広げる機会提供ができたことが、退職抑止につながっていると考えています。最後の対話では、1on1のほか、部を飛び越えて行う『クロス1on1』を実施しています。上司との1on1はどうしても業務の話が多くなりがちで、キャリアに関する悩みなど、業務以外の話はしにくいとの考えから、クロス1on1を始めました。とくに、近くに相談できる同姓の方がいないなどもあり、女性社員同士でのキャリアに関する1on1が発生しています」

油谷さん

「弊社では毎年、全社員に職務申告書を提出してもらっています。その内容をもとに、異動希望などを人事部が把握し、人事異動を含めたキャリア形成支援を実施しています。ほかにも、所属上長とメンバーで1on1を実施したり、研修時の情報や3年サイクルで全社員と行う人事面談の情報を各部署・人事部門で共有したりしています。とくに、1on1は部下の『内省支援』の場と位置付けています。そのため、上長には部下の内省を深めるスキルや、部下の課題の見立て方をトレーニングしてもらっています。面談後は、タレントマネジメントシステムに面談記録を入力し、上長と人事が情報共有をして認識の齟齬なく部下のキャリア形成を支援できるようにしました」

Q2 エンゲージメント低下の予兆はどうやってつかんでいますか?

北田さん

「パルスサーベイの結果をもとに把握しています。弊社では、サーベイの結果を3つの観点から確認しています。まずは推移確認。回数を重ねていくと、パルスサーベイの解答結果の推移をグラフで確認できるようになります。その機能を利用して、組織全体のエンゲージメントの状態を確認しています。続いて、設問別の確認を行っています。5段階評価で測定している『成長実感』および『達成感』の有無を軸に、4象限でデータを分析。成長実感も達成感も持てていない『超危険ゾーン』に該当する人には、人事面談を行います。加えて、常に『どちらでもない』を選んでいる人にもフォローを入れるようにしています。面談してみて、たとえば『業務がある程度容易にこなせてしまい、なんとなくやりがいがない』ということであれば、本人の上長にあたる方にそれを伝え、新しい業務やより難易度の高い業務に取り組んでもらえるように働きかけています。最後に行うのが個別確認です。パルスサーベイでは、単月でのサーベイの平均点が2点以下、1点が1個以上、2点が2個以上など、さまざまな切り口で絞り込みを行えます。そこで、1点が1個以上、2点が2個以上などの要注意者を抽出し、当てはまる人には個別でフォローを行います。取り組み自体まだ始めたばかりなので、最適な基準の模索とともに取り組んでいます。また、パルスサーベイは危険を予兆するだけに使うのではなく、数値が良好な状態の従業員を分析し、『どんな要素がそろっていればハイパフォーマーとして活躍できるのか』『このハイパフォーマー層のナレッジを社内で広げていくためにはどうすればよいか』といったプラスの切り口でも利用しています」

松原さん

「弊社ではエンゲージメント低下の予兆を、定期的に行っているリテンションアンケートやウェルビーイングアンケートなどでつかんでいます。アンケートは、人事側や事業部門の幹部が社員の状態を確認するだけでなく、本人も改めて自分自身を振り返る『内省の機会』としても位置付けて利用してもらっています

油谷さん

毎年のワークエンゲージメント調査や、四半期ごとのエンゲージメントアンケート(12個の質問)で、各部署の状況を把握しています。ほかにも、各部署での1on1ミーティングや人事部門が実施する研修や面談などを通じて、個々人の状況を前もって把握するようにしています」

Q3 従業員のフォローはどのように行っていますか?

北田さん

「人事面談の前に当人の個人推移のグラフを確認し、そのうえで仮説を立てて人事面談を行っています。たとえば、サーベイの数値が落ち始めたり、ふだんと違った数値を出していたりする時期を特定し、『そこで何かあったのかもしれない』と考えて、面談に臨むようにしています。従業員の状況を事前に把握したうえで面談に臨むと、より面談の効果も高まるように感じます」

戸城さん

「入社時研修のほか、新卒では2ヵ月に1回程度、中途では入社3ヵ月目に1回、継続研修を実施しています。新卒の場合、短時間の研修を定期的に設けることで継続学習を促進するだけでなく、同期と話すことで仕事のヒントを得たり、同じ悩みを他の人も抱えていることを知ったりすることができ、明日以降の活力につなげられます。仕事に対してよりポジティブになれるような場を提供することが早期活躍にもつながると考えています。中途社員には、入社後のギャップや入社後の自身の変化などを内省する場として、入社後3ヶ月目を目安に研修を設けています。入社前に描いていた自身のキャリアを、今後どのように深めるかなどを、同時期に入った社員とともに考えてもらっています」

油谷さん

「弊社では1on1がフォローとして機能しています。もともと、当社での育成はどうしても、上司が知識・スキルを授け指導する形となり、それが結果的に社員の自律性を阻害していた面がありました。そこで、1on1を『上司が寄り添い思いやキャリア志向を聞く』スタイルに転換していこうと考えました。具体的には、コンサルタント立ち会いのもと、1on1の進め方を管理職にインプットしたり、実際の1on1を見てフィードバックしたりしてやり方を変えていきました。その結果、社員からは『今後のキャリアをいっしょに考えてくれて、私自身も思考がクリアになりました』という声を聞くようになりました」

Q4 離職防止・定着に関して、今後の展望を教えてください。

北田さん

「今回紹介した取り組みは一定の効果を見せていますが、離職防止のためにやれることはまだまだ多いと考えています。弊社が導入しているタレントマネジメントシステムのユーザーをはじめ、他社の事例も参考にしつつ、引き続き離職率低下のためにさまざまな施策を行っていきたいです」

松原さん

「評価データなどを活用した、退職傾向の把握と予防を行いたいと考えています。これまでは、退職者アンケートなどの定性的な情報から退職傾向を分析していましたが、まだ参考となる傾向値を見つけるところまではたどり着けていないのが現状です。今後は、定量的な情報(評価データ、360サーベイなど)や適性検査の結果などを掛け合わせた分析に力を入れていきたいです」

油谷さん

「施策はまだ検討段階ですが、各部署の退職者の発生状況や労働時間、エンゲージメントなどの関係性を調査・分析し、会社としての対応を検討していきたいと考えています」

おわりに

各社の取り組みを見てみると、パルスサーベイで予兆を検知したり、1on1などの面談を従業員のフォローに活用したりする点が共通しているようでした。さらに、今後の展望でも、集めたデータをもとにどう離職防止につなげていくのか、各社検討していることが分かります。

次回の「現役人事に聞く!」は「リスキリング」がテーマです。お楽しみに!

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